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248:タオルケット

★ ☆ ★


「ただいまー」

「あら、おかえりなさい。閣議はどうでした?」

「うん、今日はいい感じに終わったよ。台湾の件も無事にうまくいったそうだ。これでフランスはアジア方面の市場にも参入できそうだよ」

「まぁ、おめでとうございます!」


今日は久しぶりに夜遅くまでオーギュスト様は閣議をなさっていました。

以前パーティーの場などでアジア方面への進出を考えていると仰っておりましたので、今日はアジア方面に進出できるようになったという嬉しい報告がなされたようです。

オーギュスト様も口元に笑みを浮かべております。


「改革を始めてから早6年……予定よりも4年程早いけど経済進出が出来そうだ。リスク分散とフランス資本がアジア方面にも広がるのはいい事だよ。後はネーデルラントやイギリス、スペインといった東アジア地域に植民地を持つ国との摩擦を避けながら調整をしないとね」

「ええ、でも無理はいけませんよ?また倒れたりでもしたら本当にお身体を壊してしまいますからね?」

「うん、分かっているよアントワネット。テレジア女大公陛下からも言われているからね。迷惑をかけないように無理せずに頑張るよ」


最近はオーギュスト様も徹夜で作業することも少なくなりました。

フランスの政治体制も安定してきたこともあってか、大体の事は閣僚の方々が片付けてくれるようになったお陰です。

どうしてもオーギュスト様に決済をしてもらわないといけない書類などもありますが、以前のようにエスカルゴのように籠って作業するようなことはせず、リラックスした状態で休憩を挟みながら執務室で作業を行います。

この夫婦の部屋では仕事は持ちこまずにしているのです。

ここでは仕事の事だけは忘れて夫婦と娘のテレーズの為に家族団らんのひと時を過ごすようにしたいと仰っておりました。


「さてと……テレーズも寝ているからちょっとコーヒーでも飲もうかな……アントワネットは飲むかい?」

「そうですね……では、一杯頂きます」

「了解、砂糖とミルクはどうする?入れるかい?」

「今日はミルクだけでいいですよ」

「ミルクだね……よしっ、豆を砕いて今から美味しいコーヒーを作るからね!」


オーギュスト様はそう言ってコーヒーを淹れております。

豆を砕くところから始まり、最近コーヒーを淹れることを趣味としているようです。

以前、ルイ15世陛下がコーヒーを私たちに淹れてくださったことがありましたが、あの御方はかなりこだわりを持って作っておられました。

オーギュスト様はコーヒーそのものに対しては大きなこだわりはないようですが、豆を砕いて自分で作る事にこだわりがあるようです。


「こうしてコーヒーを淹れることなんてあんまりなかったもんなぁ……ここ最近になってやるようになったよ。ちょっとした時間でもできるからいい感じに淹れられるようになればいいかなって……」

「最近になってコーヒーを淹れる事に磨きが掛かっていますもの。何か一つでも熱中できるものがあればいいと思いますよ」

「そうだねぇ……仕事で張り詰めているといけないからね。息抜きが出来る時間をこうしてコーヒーを作る時間に充てるのもいいねぇ」


オーギュスト様のルイ15世陛下譲りのコーヒーの淹れ方は絶品です。

コーヒー作りに必須な道具などを取り揃えているのもありますが、同じ道具でもオーギュスト様が淹れるといつになくコーヒーが美味しく感じます。

部屋に備え付けられているコーヒー用のミルクを手にしてコーヒーのカップに注ぎ、私はミルクコーヒーを……オーギュスト様はブラックコーヒーを淹れて飲むことになりました。


「さてと……ソファーで飲もうかな」

「では、一緒に飲みますか?」

「そうだね。せっかくだから一緒に飲もうか」


二人でソファーに腰掛けてひと息入れてからコーヒーを汲んでチビチビと飲んでおります。

難しい問題や議題などが起こった後は、もっとだんまりとして考え込むのです。

なので今日はそこまで難しい問題などは起こらずに会議を終えたことになります。

私もオーギュスト様の癖を段々と理解してきましたのよ?

コーヒーを一口飲むとホンワカと身体が暖かくなります。

ふぅ……と一息ついてからオーギュスト様に以前から気になっていた事を話しかけました。


「オーギュスト様、一つお聞きしたい事があるのですが……よろしいでしょうか?」

「おお、いいとも。なんだい?」

「オーギュスト様は私がフランスに嫁いでくる前までは、お一人でお過ごしになる事が多かったと耳にしました。私が嫁いでから性格も大きく変わったと言われているようですが……その事を教えてもらいたくて……」

「ああっ、確かに気になるよね……うーん、これは何といえばいいのやら……難しいね」


以前にも時折耳にしたのですが、オーギュスト様は私が嫁いでくる一か月前から人が変わったように外向的な性格になったのだそうです。

それよりも前は内向的で部屋で鍵弄りをするのが好きだったそうですが、人と話すことが少々苦手だったとも伺っております。


今では想像も出来ませんが、昔からオーギュスト様を見ていたボーマルシェも語っていました。

結婚する一か月前から人が変わったと……。

その事が最近になって気になって気になって……胸の内側でドキドキと高鳴りをしているのです。

これが探求心なのでしょう。

オーギュスト様は暫く考えた後、ぽつりと呟くように言いました。


「そう……だねぇ……あの時はアントワネットとの結婚がどうすれば上手く行くのか考えるのに必死だったんだ……だから、自分自身を切り替えたいという気持ちがあったんじゃないかな?」

「切り替え……ですか?」

「そう、……自分の内気な性格を止めて明るい性格になりたいなぁ~と考えていたんだ。勿論、このまま内気な性格のままじゃじゃダメだなって……内気で億劫なままだとアントワネットに嫌われてしまうと思って変えるようにしたんだ。でも最初はどう振る舞ったほうがいいか悩んでいた時期もあったんだよ」


自分を変えたい。

そんな思いから内気な性格を変えたそうですが、やはり一筋縄ではいかなかったようです。

最初の頃はいきなり変えようとした途端に、周囲が驚いてどう対処すればいいのか困ったそうで、それで悩んでいたそうです。


「立ち振る舞いを今みたいに外向的に変えてみたら随行員やルイ15世陛下がかなりビックリしちゃってね……自分を変えなきゃいけないなと思ったのが丁度廊下を歩いている最中に倒れた時だったから、頭でも打ったのかと心配されたよ」

「えっ、それで大丈夫だったのですか?」

「うん、大丈夫だよ。ちょっと眩暈がして倒れちゃっただけさ……貧血気味だったからねぇ。でも、段々と話し合ううちに、皆も結婚に備えて意識を変えてきたんだなって思うようになって……そのことについて深く追及する人はいなくなったよ」

「そうだったのですね……私が聞いた話では人が入れ替わったみたいだと聞きましたわ」

「フフフッ、案外心が別人に入れ替わっているかもしれないよ?」

「もう、そろそろ寝る時間なのに冗談でも怖い事は言わないでくださいよ!」

「ハハハハハ、冗談だ、冗談……うん……さぁて、コーヒーも飲み終えたことだし、歯を磨いて……」


コーヒーを飲み終えたオーギュスト様は私の分のカップまで片付けて下さいました。

性格が大きく変わった理由……それが私との結婚の為に変えて下さったのです。

最後に性格が別人に入れ替わっているかもしれないよ?と仰っておりましたが、きっとオーギュスト様なりのジョークなのでしょう。

オーギュスト様が変わったお陰で、こうして夫婦円満の生活が過ごせているのです。

ベッドで眠っているテレーズも……。


「大事なのはこれからさ……過去に関しては何時でも見つめ直せるけど、将来に関しては色んな選択肢を選ぶことが出来るからね。性格も変えようと努力すれば何とかなるもんさ……」

「そうですね……オーギュスト様のモットーは過去よりも未来ですものね……」

「ああ、未来は変えられる。どんな運命だって変えてみせるさ……」

「フフッ、それじゃあ……より良い未来を築く為にも……今夜はゆっくり励みましょう」


……過去の性格は今は関係ありませんね……必要なのはこれからの事ですね。

私はそう自分に納得させて、テレーズを起こさないようにゆっくりとベットの中に潜り込んでから、オーギュスト様と一緒にテレーズの弟、ないし妹を授かる為に夜の営みに励むのでした。

主人公(事実を言ったけど冗談かと思われた……)

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― 新着の感想 ―
[一言] でもいつかはバレそうだなあ。ドラゴンとかで少しずつ違和感は出てきてたし。 ある意味世界中の国と戦争するよりも難しい問題だぞこれ
[一言] まだ生まれてませんが、イギリスのディケンズのクリスマスキャロルを語ってしまうのも良いかも。 倒れた時に夢を見たんだ、ガメつい金貸しの老人の前に3人の幽霊が現れて、過去現在未来を見せて云々と。…
[気になる点] 他の人も書いているけど、コーヒーの淹れ方が気になる その当時はお湯入れて、上澄みを飲む感じだから ネルドリップをしているなら画期的かも サイフォンだったら天才
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