218:イタリアからの来賓
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1775年7月11日
初夏真っ盛りでムシムシと外の気温が上がりだしている今日この頃。
最近はアルプスの水でキンキンに冷えた氷を使ったシャーベットを食べるのが実に美味しいと感じているルイ16世だ。
捻りない登場に申し訳ないと思う。
氷を入れたアイスティーが格段に美味しいと感じる時期でもある。
何杯も飲みたいと思う事があるが、今日は休日ではないし公務があるので休んでばかりはいられない。
今日はイタリアのトスカーナ大公国のトップがお見えになるのだから。
「いよいよ今日来るのですね……」
「そうだねぇ……レオポルト1世陛下、アントワネットのお兄さんだよね?」
「ええ、ヨーゼフお兄様とは随分と仲良くしておりました。今でも年に数回会いに行っている程だと聞きます。きっとヨーゼフお兄様のようにオーギュスト様も仲良くなれますわ」
「ハハハッ、それだといいねぇ~アントワネットもレオポルト1世陛下との対談の時間を設けたからゆっくり話すといいよ!あとテレーズの顔も見たいだろうし、先に俺と陛下の対談を終わらせたら一緒に面会をしよう」
「ありがとうございます!」
トスカーナ大公国のトップであり、アントワネットの兄でもあるレオポルト1世との面会が待っているのだ。
テレジア女大公陛下の息子さんであり、兄に神聖ローマ帝国皇帝ヨーゼフ2世陛下がいらっしゃる。
共にテレジア女大公陛下の啓蒙思想を理解しており、トスカーナにおいて大公の地位で赴任してその責務を務めている。
アントワネットにレオポルトお兄さんどんな感じかな~?とそれとなく聞いたところによると、割とフレンドリーで話しやすい人だと言う。
それと同時に、レオポルト1世陛下には男児のお子さんがおり、長らくご子息に男児が恵まれなかったテレジア女大公陛下が男児出産の報を聞くや否や飛び出して劇場で男児出産の報告を叫んだという逸話が残されている。
あとかなり質素倹約の生活を送っているらしい。
その倹約っぷりはかなり有名なようで、アントワネットが詳しく教えてくれた。
「レオポルトお兄様はかなりの質素倹約を心掛けている人ですよ。とにかくお金を使わない事で有名で、以前ヨーゼフお兄様とお話した時も『レオポルトの奴、あまり私生活にお金を使わないからかえって奥さんに迷惑を掛けているんじゃないかと心配になる』と言っていたほどですから……」
「ヨーゼフ2世陛下がそう仰るのであれば相当だな……アントワネット、いくら兄弟と言えどくれぐれもレオポルト1世陛下に失礼な事のないようにな。きっと質素倹約なのも理由があるはずだ」
「ええ、勿論です。さすがの私でもそこまで踏み込んだ事は言えませんわ。言ってしまったらお兄様に怒られてしまいます」
「そうだね、ごめんごめん、君がしっかりとしていて本当に良かったよ」
もし史実のアントワネットだったら「お兄様、もっとお金を使ったほうがいいかもしれませんよ?」とKYなアドバイスしていたかもしれないが、今のアントワネットはそうした事は言わずに自分で物事を判断して言えるようになっている。
だから彼女の事は信頼しているので試しに言ってみたら、ちゃんとした回答を得られたので満足だ。
ふと、昨日もらったばかりの新品の時計で時間を確認すると、午前10時30分29秒を示していた。
秒刻みで時間を確認できる最新鋭の時計だ。
レオポルト1世がヴェルサイユ宮殿に到着するのが午前11時頃を予定しているので、あと30分程でくるだろう。
この時計も便利な上に精密に作られているのでレオポルト1世の帰り際に一個プレゼントするつもりだ。
「予定ではあと30分後か……最近の時計はかなり時間も正確に読み取ることができるようになったようだな……」
「本当に便利になりましたねぇ……ピエール・ルロワさんでしたっけ?秒刻みで測ることのできる時計なんですよね……」
「そうだ、クロノメーターの方式を組み込んだ精密時計だそうだ。価格も最低小売価格2000リーブルからだそうだ」
「2000リーブル!そんなにするのですか!」
「秒刻みで測れる上に、時間設定がシビアな工場向けに出荷されているんだ。ドライエ60の成功でより精度が高くて精確な時間を測れる時計の需要が増えてきているのさ。だから2000リーブルでも買い手はあるし、全て時計職人が一か月掛けて作っているからそれだけ値段も高くなるんだよ」
以前計測時計としてドライエ60を国が発注して科学アカデミー向けに販売していたが、高級感よりもより性能重視の時計を作りたいというピエール・ルロワ氏の要望を受けて、作らせた時計がこの2000リーブルもする『Précis24-Type1』というわけだ。
これは瓶の製造工場などで瓶を作る際に加熱時間を精確に測り、製品に均一性を持たせるために使用していたりするのだが、今のところこの時計を採用したのはパリ近郊に建設された繊維工場だけだ。
まだ出来たばかりだし、順次工場など時間に精密さを要求する場所に供給するという。
またこれから知名度をあげるためにとドライエ60を作ったお礼に一個贈呈されたのだ。
お陰で最近はこの精密時計によって時間をより確認しやすくなっており、非常に助かっているのだ。
いやぁ~文明の利器はいいねぇ(再認識)
時計の針がチクタク動いている中で、先ほどまでぐっすりと眠っていたテレーズが起きてトコトコと歩いてきて絵本を読んで欲しいと強請ってきた。
「パパ、パパ!」
「おっ、テレーズ起きたのか。どうしたどうした?」
「あらあら、両手に絵本を持っているので読んで欲しいみたいですね」
「うーん、時間的に少々アレだがいいだろう。よーし、パパが絵本を読んであげるからねぇ~」
最近テレーズが絵本を読んで欲しいと強請ってくることが多くなってきた。
勿論、俺としては嬉しいことだし絵本の読み聞かせというのは子供にとっては脳を刺激するのでとっても効果的だってテレビでやっていたなぁ……。
転生先で子持ちになるとはなぁ……まだ30分、いや、準備を含めれば15分程度になるが読み聞かせができる。
テレーズを泣かせたくないし、きっと父親に甘えたい年頃なのだろう。
よーし、パパ絵本読み聞かせちゃうぞ~。
「えっと……『スウェーデンとロシアはとっても寒い国です。なぜここまで寒いのか?それは誰にも分かっていません。とにかく寒いです。山は夏でも雪が沢山残っています』……文字に比べてイラストの面積が狭すぎるんだよなぁ……テレーズ、分かる?」
「もっと!もっと!」
「……どうやら理解しているようで何よりだ……今度もっとイラストが大きな絵本を作ってあげるからね(王権行使)」
「世界図絵ですね~、私も小さい頃はこの本だけはしっかりと聞いて読んでいましたわ」
「まぁ百科事典の前身みたいな扱いで色んな事が分かりやすく載っているから話の内容には困らないけどね。……長靴をはいた猫を子供にも分かるように絵本化しようかな」
テレーズに絵本を読み聞かせているんだが、テレーズが持ってきた本というのが結構学術的な意味で使われる『世界図絵』という今日の百科事典の前身になった書物であった。
動物の事とか国について書かれていたりもしているが、何よりもボリュームが凄いのだ。
分厚いので何度も読み聞かせているがテレーズが飽きる様子がなく、何度も読んで欲しいと言っているのだ。
なので会談までの時間ギリギリまで読み聞かせの開始だ。
乳母さん達がやってきたら彼女たちに読み聞かせの続きを任せるが、それまではパパとして務めを果たさないといけないね。
なるべく分かりやすく、はきはきした声で喋る。
それに合わせてテレーズは世界図絵に釘付けになっていた。
もっと分かりやすいイラスト付きの童話を読み聞かせるのもいいかもしれない。
既にフランスの詩人シャルル・ペローによってまとめられた童話「赤ずきん」や「長靴をはいた猫」とかが有名なのでこれらを絵本化しようかな。
あ、ちなみにこの時代に描かれている赤ずきんは狼に食べられてそのまま物語はジ・エンドとなっているから猟師で助けてくれたおじさんは登場しないのだ。
しかもペローが編集する前は赤ずきんの服を脱がすシーンがあったらしく、それも含めてすさまじくエロティックとバイオレンスな内容だったらしい……。
流石にそれをテレーズに読み聞かせするわけにはいかないので内容は変えます。
と、あっという間に15分が経ってしまったので区切りの良いところまでとなった。
「オーギュスト様、そろそろお時間になりますわよ」
「分かった……はい!とりあえずここまでだよテレーズ。パパが帰ってきたら続きを読み聞かせてあげるからね」
「うーっ……もっと!もっと!」
「ごめんね~テレーズ、ほら、乳母さんが来たから乳母さんにも読んでね?」
「うっ……うわあああん!もっと!もっと!」
「ダメですよテレーズ、パパを困らせちゃいけません」
テレーズは世界図絵の読み聞かせを止めてしまうと泣き出してしまった。
やはり相当気にいっていたようだ。
このままテレーズを泣かせてしまうのは忍びないが、乳母さんがやってきてテレーズを抱っこしてあやしてくれている。
いやー、本当に彼女達にはお世話になりっぱなしだ。
「大丈夫ですよ陛下、王妃様、このお年頃ではこれが日常的ですから!」
「いやー本当にすまないねぇ……」
「さぁテレーズ様、こちらで本の続きを読みましょうね」
「あーーーーっ!!!!!わああああああああん!!!!」
全力で泣きながら本を続きを俺に読んで欲しいと訴えるテレーズ……。
うーん、良心に響いてしまうなぁ……。
寝る前にテレーズにいっぱい読み聞かせをしようと心に誓う。
そしてテレーズにすまないと呟きながら、俺はレオポルト1世を出迎える準備をするのであった。




