216:基隆
台湾への方針を決めていく。
年度末までに使者を派遣して台湾北部の基隆一帯の購入を行うという所までは閣僚会議で決定された。
そこから如何にして台湾の開発を進めるべきか議論していく。
オランダやスペインの植民地時代に台湾はある程度開発されていたようだが、その後は鄭成功の台湾統治時代はともかく清王朝の統治時代になると殆ど開発はされなかったそうだ。
なので、まだまだ開拓の余地がある上にアジア地域への経済進出を行う上で長期戦略的に重要な場所の確保が必要だ。
ブルボンの改革当時は10年後を目安にしていたが、経済状況の改善や収入の大幅な増収によってアジアに拠点を置けるようになったのは嬉しい事であった。
年度末までに清国に使者を送る事で会議は一致し、一先ず方針を決定したのだ。
転生した頃は日本にフランス領の土地が欲しいなぁと思っていたけど、流石に横浜は無理だったよ。
立地的には申し分ないのだけど、江戸に近いから幕府も警戒するだろうし、何よりまだまだ西洋との隔たりが大きいので時間を掛けて説得するしかない。
近隣諸国の国なども調べたけど、諸条件を照らし合わせると台湾が無難でかつ一番収益の見込みがある場所だったので、台湾になったのだ。
琉球や朝鮮も候補に上がったのだが、琉球は清国や日本の影響を受けており立場が弱い。
朝鮮に関してはロシアや清国などの大国間の影響を受けやすい上に政治的・地理的にも少々厳しい場所なので、それぞれの場所は却下された。
消去法で調べた結果、やはり清国と取引を行える上に、地理的にも貿易の要所になる台湾がアジア地域でも未開拓であり、なおかつ発展の可能性を大いに秘めている地域なのだ。
(これで鄭さんの故郷との繋がりも出来たし、上手くいけばアジアの貿易路も大きく変えることが出来るな……)
転生前に世話になった鄭さんはまだこの世には生を受けていないし、彼の祖先である鄭成功は既にこの世を去っている。
子孫はいるものの、既に台湾から離れて北京近郊に住んでいるようだ。
何かの機会があれば是非ともお会いしたいものだが、これはかなり難しい注文だろう。
清国との交渉にむけて、会議ではさらに議論が加速していく。
「では、台湾北部基隆一帯の買収に向けた調整を清国政府に交渉するようにしましょう。外交官は国土管理局と外務省で調整致します」
「分かりました。アジア方面にはネーデルラント出身の商人が数多くいます。私のコネクションで彼らの協力が得られれば基隆への投資などもスムーズに行くでしょう。金融・資金面は財務省が全力でバックアップして参ります」
「軍としては最低でも一個大隊、最大で一個連隊規模の兵力を守備として配置する事を提案致します。最新鋭のグリボーバル砲や最新鋭のマスケット銃モデル1775で武装し、基隆周辺の治安維持を行います。常駐艦隊として現在建造中のシャルルマーニュ級フリゲート艦4隻があれば当面は海上警備でも十分に行えるでしょう」
清国との調整を担うのは国土管理局と外務省だ。
交渉は何よりも重要だし、これに全てが掛かっているといっても過言ではない。
ハウザーが指揮を行い、外務省にも基隆買収に向けて清国政府と調整をしてくれるそうだ。
そして資金面ではネッケルが主導する財務省が担い、台湾買収で必要とされる資金面を調整してくれるそうだ。
凄腕の彼の手腕であれば問題なく行えるだろう。
ハウザーやネッケルは人脈が幅広いので、かなりの効果が期待できる。
特にネッケルに関しては平民階級出身者にもかかわらず涙ぐましい努力の末に銀行の頭取に上り詰めたうえに入閣までしているので、平民からの支持はかなり高い。
努力や才能があれば平民でも取り入れるスタイルを大々的に打ち出したこともあって、財務省でも彼の方針によって赤字が改善して収益が黒字化している。
そんな彼がネーデルラントの商人にも協力を仰げば投資も雪だるま式に増えるだろう。
軍事面では守備兵力として最低でも一個大隊を就かせる事を軍部が提案してくれた。
流石に丸腰警備でやるわけにはいかないので、最低一個大隊、最大で一個連隊規模の守備兵力が必要だと語ってくれていた。
約1200人程の兵士を駐屯させる為にも、基隆の要塞やそれに準ずる軍事施設の建設は急務だ。
現在フリゲート艦に関しては雇用促進も兼ねて造船所でシャルルマーニュ級が次々と作られている。
戦艦を建造するよりは安い上に威力の高い砲を積んでいるのでコストパフォーマンスが素晴らしいのだ。
あとは陸軍の新規兵士を割り当てをしたり、交渉が成立した際に建設を請け負う相手にも伝えなければならない。
さらに、台湾買収が成功した後にどのように入植を行うかも話し合いが行われた。
「買収が正式に成立した際に台湾への入植予定希望者を募ったほうがいいでしょう。あくまでも入植する場合は植民地人ではなく海外県移住者という呼び名に変えた方が無難です。新大陸でイギリスが背負った過ちは繰り返してはなりません」
「であれば、税率も下げたほうがよろしいですな。新大陸では相次ぐ増税に住民たちが怒ったとされておりますので、海外移住者には移住して五年間は税の免除ないし、大幅軽減を掲げたほうが良いですな」
「ただ、我が国内では経済状況が好景気に突入していることもあって、各職種の人手不足が問題になってきております。移住をするにしても大量の移住希望者が出た場合、産業の空洞化が懸念されます……」
一番気にしていたのは新大陸で独立戦争が起こったように、本土とそれ以外の地域との間で選民思想に通じるような差別が行われない事への徹底と、移住者への税に関しては基隆の開発が軌道に乗るまでは免除ないし大幅に減らすことが盛り込まれた。
それぞれ己の担当を把握し、どのように行動するべきなのか述べている。
先住民族との関係構築に向けた議題もこれから上がってくるだろう。
また、人手不足の問題に関しては移民などで済ませてしまうと後々問題になる事が予測されるので、各農園や社会復帰施設に勤続している人達を派遣するという案も上がっている。
元農奴の農業従事者の中には新しい場所で開拓を行いたいという者もチラホラおり、特に孤児等で施設に入所している子供や赤ん坊の人数も最近は悲しい事だが増加傾向にある。
これについては少しばかり説明しなければならない。
孤児に関しては都市部に人が流入した事で、様々な人達が都市部で働くことになる。
当然、その中には娼婦などの性産業の人達も多く含まれている。
避妊具が無いこともあって、望まれない妊娠をしてしまった人達の中でも、経済的に余力のない人は出産直後に生まれたばかりの子供を教会や孤児院に預けているという。
こうした孤児や育児放棄されて預けられた子供の数は年々増加傾向にある。
俺も慈善事業でこうした孤児を引き取る人や、教育を受けて自立できるまで支援する活動をしているが、それでもまだまだ数が増えているのも問題だろう。
誰でも購入できる安価な避妊具の開発を科学アカデミーに依頼しているが、ゴムの精製に時間が掛かっているので早くても三年後ぐらいになりそうだ。
さて、議題で上がっていた方針は大まかだが取りまとまったので、台湾への基本方針を決定する。
・本年度末までに清国への交渉を進める。
・買収に失敗したとしても今後も交渉などを続ける事。
・貿易都市として機能するべく、開拓団の派遣も視野に入れて検討を進める。
・本土の産業の空洞化を防ぐために設備投資なども並行して行う事。
「では、大まかな方針は現在議題に上がっていたものを推し進める事でよろしいでしょうか?」
「ええ、それでよろしいでしょう」
「問題ありません」
「では最後に陛下のご承諾をいただきたく存じます」
「うん、今後の台湾に関する方針は了承した。各自決められた仕事を励んで貰いたい」
これにて台湾に関する方針が決定した。
年度末に清国に使者が赴いて交渉が成功すれば、フランスは東アジア地域の一大貿易拠点が確保できる上に、金融都市としても機能できるようになれば東アジア地域の富が集まるようになる。
それに、清国は現在ロシアと交戦していて、戦費を賄う為に領土の売却もしやすくなっている可能性が高い。
今後の様子に期待を示しつつ、閣僚級会議を終えるのであった。