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207/1014

205:ボフォース

懇談会に出席していたハガ伯爵の正体が明らかになるので初投稿です

★ ★ ★


ルイ16世との懇談会を終えたスウェーデンの面々は、そのまま大使館に帰ろうとしたのだが、ルイ16世から帰る前に今日完成したばかりのヴェルサイユ浴場のサウナやお風呂の湯を堪能してはいかがかと勧められた事もあって、外国人として初めてヴェルサイユ浴場を訪れていたのだ。

ほぼ貸切状態で開かれたヴェルサイユ浴場。

その新古典派ともいえるローマ風のデザインに一同は驚いていた様子であった。


「ヴェルサイユ宮殿にこんなものを作りあげるとは……ルイ16世陛下が大のお風呂好きとは聞いていたがここまでとはな……」

「ええ、何でも好きに入って良いとの事ですが……伯爵はいかがいたしましょうか?」

「そうだな……せっかくだから一通り堪能していくか!遥々スウェーデンから来た甲斐があったよ」

「数少ない伯爵の楽しみでもありますからね」

「ハハハッ、そうとも!お忍びで来るのも悪く無かろう。こうしてこの目で彼を見ることが出来たからな。私は大満足だよ!」


フェルセンとクロイツ子爵が懇談会に参加していたハガ伯爵を気遣っていたが、何を隠そう……彼こそがスウェーデン国王のグスタフ3世なのだ。

自身にそっくりな者に国王代理を頼み、自らはフランスにちゃっかり訪れていたのである。

ハガ伯爵というのも、フランスの文化を好んでいた彼だけに身分を隠してお忍びでフランスに来るために使っていた彼の偽名である。


船や馬を乗り次いで5日程でパリに到着した彼は1日目をパリ市内の名所を視察し、2日目である今日は懇談会の場に参加したのである。

今日の夕方にはスウェーデンへの帰国の途に就くが、そもそも妻には世継ぎを産む以外は殆ど興味が無く、政治も安定しており2週間程王宮で静養すると宣言しているのでクーデターなどの心配はほぼ皆無である。


国王代理の者も、国王が家庭内の環境に馴染めず一人でそっとしてほしい時にフラッと身分を変えてこっそりと抜け出して夜の街に遊びに出かけることが多々あったこともあるので、顔見知りの門番はグスタフ3世の行動を止めはしなかった。


服を脱いで三人はサウナ室に入り汗を流す。

北欧にあるサウナルームにも引けを取らないデザインに関心しながらも、グスタフ3世はパリ市内を観光した初日の1日目に、以前お忍びで赴いた時とは丸っきり様子が異なっていた事に驚き、今日ヴェルサイユ宮殿に赴くまでの道のりで見た光景を赤裸々に語りだしていた。

勿論、語りだしたといっても小声でありスウェーデンでも訛りが強い北部地域の言葉でしゃべっている為、フランスの間者に聞かれていても分かりづらい内容であった。


「しかしフランスは科学アカデミーに力を注いでいるとは報告書で読んではいたが……大きな看板を堂々と立てて科学に関する情報を記載している事に驚いたぞ……」

「それだけではありません。既にフランスでは既存の蒸気機関を改良したものを乗り物に組み込んでいるそうです。詳細はまだ掴んでおりませんが既に実用化まで秒読み段階に入っているそうです……」

「それと、フランスでは教育改革も行われて国民全員が教育を受けられるように法改正が進められているようです。農奴や奴隷だった者達も、昼は仕事を学び夜になれば夜間学校で授業を受けて、学を身につけていると……予算も粛清したオルレアン派などから接収して国有化した資産を運用しているとの事です」

「啓蒙思想だけではなく、教育・科学・医学を重視する政策とはな……本当にあの歳で改革を実行し、あれだけの事を考えていたのなら、ルイ16世はルイ14世の再来……いや、それ以上の王になれるだろうな……」


グスタフ3世は腕を組んで思わず唸る。

まだ20歳の若き国王が行った数々の改革。

従来の古い考えを改めて、貴族や聖職者の猛反発を押し切って行った改革は成功を収めているが、スウェーデンでもプロテスタント派やユダヤ人への寛容令や奴隷制度の廃止、科学医療の推進など思い切った政策を次々と打ち立てるルイ16世は一体何者なのだと考えるようになる。


「フランスの根本から改革を考えた時には……彼はまだ16歳程だったと聞いているがね。実際はどうなっているんだ?あの噂は真実なのか?」

「はっ、改革派と接触して情報を入手しましたが……どれも真実のようです。先の国王であるルイ15世陛下がアデライードに襲撃されて以来、国王代理として改革をお一人で考えて実行に移していたそうです。側近にユダヤ人や平民階級の者を積極的に採用しているのも、改革派では身分や階級ではなく個人の能力で決めるそうです」

「実力主義……というわけか」

「そのようですね、そのため改革派に属している者達は進歩的な考え方をしているとのことです」

「そうした改革を一人で書き上げるとはな……それも16歳の時に……一体彼は何者なんだ?」


フェルセンを参加させたのも、彼が一番フランスで注目されているスウェーデン人だからであり、グスタフ3世自身は黒子に徹してルイ16世を観察していたのだ。

歳もグスタフ3世のほうが上だ。

それなのに、成熟した社会システムを理解して政治・経済を動かし、的確に行動する。

問題が起これば末端からすぐにトップに連絡が行き届くシステムを構築し、問題発生時に初期対応で殆ど解決しているのだ。

とても16歳で構築できるものではない。

グスタフ3世は思考を研ぎ澄ませながら可能性を探る。


「……彼が誰かに操られているという可能性はないのか?」

「強いて言えば側近のハウザー氏かと……商人でありユダヤ人である彼が側近に抜擢されるのも少々おかしな話ですが……可能性としては彼が一番高いでしょう。とはいえ彼は私欲を欲しがらない方です。見返りに適正報酬を受け取っているそうですが、それでも改革で最も得をした人物を四捨五入すれば、ハウザー氏でしょうな」

「ハウザー氏……フランスでも宮廷や大貴族に出入りをしていた商人としてそれなりに有名だった者だな?」

「はい、今現在は政府の重鎮として活動しております。職務に誠実であり、人望もある方です」

「うーむ、ハウザー氏か……しかし、もしルイ16世が幼い頃から改革を計画していたものだとしたら……考えられうるか?」

「正直に申し上げると16歳であれだけの改革案を書きあげるのはかなり難しいでしょう。貴族や聖職者の利権問題に大きく切り込んだ内容でしたからね。反対派だったオルレアン派を粛清してでも改革を実行に踏み切ったのは、なんらかの組織が裏で暗躍していたと考えるべきかと……」

「フランスの裏組織か……考えられるな……」


フェルセンはグスタフ3世に裏組織が関与しているのではないかと推測を立てた。

これは半分正解である。

王の秘密機関を引き継いだ国土管理局の調査室をはじめとする諜報機関はルイ16世に忠誠を誓って暗躍していたからだ。

内偵、傍聴、秘密工作……現代でも通用するようなスパイ術に長けていた彼らは国内の不安定要素を排除し、有望で未来を造ろうと頑張っているルイ16世に心を動かされていた。

デオンをはじめとするフランスの大物スパイも彼に忠誠を誓い、行動している。


設立して4年間の間に欧米諸国を中心に国内外に47の拠点、1500人以上の直属の諜報員、五千人に及ぶ現地協力者が草の根活動によって広げられており、グスタフ3世の祖国であるスウェーデンには2つの拠点と30人程の諜報員、70名に及ぶ現地協力者がいる。

現地協力者も下は貴族や裕福な市民層の召使いから、上は名のある貴族や王族関係者もいる。

彼らから得られた情報を精査し、正確な情報を逐一ヴェルサイユ宮殿に運んでいるのだ。


「フランスはオーストリアとの同盟を重視しておりますが、スウェーデンとは七年戦争以来友好的な関係を維持しております。また融和路線をルイ16世が推し進めていることもあってか、かつての敵対国であるプロイセン王国や英国とも国交を開いております。そうした外交的努力によってフランスとあからさまに敵対している国は殆どいません」

「平和を望んでいる故の政策……しかし、ここまで上手くいくのもそれだけルイ16世を含めたフランスの政府基盤が安定しているからでもありますね」

「ええ、フランスは大国間に囲まれているにも関わらず、戦争を起こさず経済を優先させる方針はルイ16世によってもたらされたものでしょう。彼はそうした政治・経済学だけでなく科学・医療分野においても恐ろしく精通しております」


フェルセンやクロイツ子爵はそう語った。

外交も基本は平和路線であり、戦争は敵国が領土に侵攻した場合のみ自衛戦争に徹する方針。

政治・経済・科学・医療……そして農業分野においてもフランスは着実に進歩している。

しかし、彼らが勘違いをしているとするならば、国土管理局は昔からあるわけではなくルイ16世……転生者の介入によって設立された組織である。

元はT機関という仮名称で進められていたものであり、現代の英国諜報機関MI6をベースに諜報戦と内務の難しい処理を行う掃除屋でもある。

原則は目星を付けていた容疑者などを現行犯逮捕し、裁判の場に出廷させて罪を償わせるのだが、中には反省すらせずに逆襲を行おうとする者もいる。


貴族や聖職者といった平民階級よりも高い階層にいる者達が特にその傾向が強かった。

賄賂、脅迫、傷害、殺人……。

ありとあらゆる行為が免除され、位が高ければ高いほどもみ消しを行っていた者達。

そうした者ほどルイ16世は徹底的に証拠を集めて綱紀粛正の対象とし、公開裁判を経て重罪を課したのであった。


「四部会の連中もこのフランスのように堂々と綱紀粛正で消せたらどれ程良かったか……」

「残念ながら彼らを排除すれば味方についている貴族も離反しかねませんぞ……彼らのパイプは深い故に……」

「ああ……全くもどかしい限りだ……」


グスタフ3世はフランスの様子が羨ましかった。

衆愚政治化したスウェーデンをクーデターで奪還したが、完全に敵対組織を取り除くことは出来なかったのだ。

それに比べたらフランスは淡々と国王に反発する者達……特に貴族や聖職者の逮捕に容赦なかった。

あのように振る舞えたらどれ程楽だったか……。

サウナで汗を流しているグスタフ3世は、そんなフランスに思いを寄せつつサウナを終えてヴェルサイユ宮殿を離れると、大使館でフェルセンやクロイツ子爵と2時間ほど今後の対フランス方針の話をしてから、彼らに今後のフランスの関係を維持していくことを命じさせた上で帰国の途に就くのであった。

史実でもグスタフ3世は大のフランス好きで偽名を使ってフランスにお忍びでやってきていたみたいなので多分大丈夫

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― 新着の感想 ―
[一言] 陛下!旗振り通信か腕木通信は導入しないのですか? (; ・`д・´)
[一言] クラクフにはバレてて(166話)、スウェーデンにはバレてない。 イギリスにバレてるかは怪しい。 結局国土管理局の実態ってどれくらい知れ渡ってんだろうか?
[気になる点] > 現代の英国諜報機関M16を エム16になってます。
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