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203:ドラケン

「……成程、禁酒を強制してしまうとかえって逆効果になるという事ですね……」

「そう言う事だ。なので今現在フランスでは禁酒を強制せずに、適度に飲むことにしている。勿論、年齢制限はあるけどね」

「16歳未満への酒の提供は禁止……18歳未満と思われる客には低アルコール飲料のみを販売、そして必ず身分証明書を酒店の店員に提示させるように勧める”アルコール飲料適正法”でしたね。あれも陛下が進んで法を施行させたと言われていますが、本当なのですか?」

「勿論、生憎俺はワインはシャンパーニュぐらいしか飲めないが、若い頃から酒浸りになってしまうと依存症になってしまうからね。だからそうしたリスクを減らすためにもどのぐらいが適正なのか、大まかな目安を告知するようにしたんだ」


この時代、フランスでは16歳ぐらいからお酒が飲める風習があった、だけど普通に13歳ぐらいから飲んだくれになっているヤベー奴もいるぐらいなので、お酒に関する法律をしっかりと作ったんだ。

将来アルコール依存症になって家族に暴力を振るって家庭内暴力を引き起こして、最悪な結末になってしまう人間を減らすためにはどうしたらいいか?

アルコールを禁止にしたらそれまで発散できていたストレスは確実に人間などに当たってしまう事になる。

そうなってはまずいんだ。


なので禁酒法を施行しない代わりに、俺は『アルコール飲料適正法』というものを10月1日から施行したんだ。

これは現代の「酒に関する法令」を参考に、この時代のフランスにも受け入れられるように作り直したものだ。

酒に関する法令を何故知っているのかだって?


そりゃ前世で勤めていた会社で働いていた時に、ベルギーの酒造メーカーとの交渉の機会があって、日本の酒に関する法律も勉強しないといけないなぁ!という事で三日間徹夜三昧してプレゼンテーションに使う資料を作って、その中にも酒に関する法令を組み込んだんだ。

簡単にどんな内容なのかかいつまんで説明すると以下の通りになる。


『アルコール飲料適正法 1774年10月1日施行』


1.アルコール売買法

―酒を作る者、酒を販売する者、又はその両方に該当する者において、必ず地域の税務局と管轄の衛生保健省の出先機関に届出を出して製造免許を取得する事。

―無許可、無認可状態で酒を作ったり、酒を販売する事は違法である。1774年9月30日までに届出なく営業している場合は取り締まりの対象となる。


2.アルコール製造者管理法

―酒を作る者は作っている酒のアルコール度数や酒の品質に不備が無いことを確認してから酒を出荷する事。万が一製造工程で不備が生じたら検査を実施し、徹底した衛生管理を行う事。

―衛生保健省から安全管理検査の調査が行われた際には必ず応じる事。調査を拒んだ場合にはアルコール製造管理法違反容疑で製造免許のはく奪が起こりえる。

―また、これらの管理は食品を扱っている所でも適応されるため、新たに施行される食品衛生法の範囲に含まれるものである。


3.酒を販売する者は、相手が16歳未満には酒の提供を一切禁止する事。18歳未満であれば低アルコール度数の酒のみを提供し、18歳以上であれば酒を提供してもよい。

―但し、酒への悪影響が強い妊婦や精神疾患者に対しては提供を行わない事。


4.酒を飲む者は適度な飲料を心掛ける事。

―酒を飲んで暴れて物を壊したり、家族や友人などに暴力を振るう行為。また周囲の人間に酒を飲むように強要したりするのは器物損壊罪及び傷害罪に該当し、1年以上の労働刑もしくは200リーブル以上の罰金刑となる。

―酒を飲んだ状態で馬車を運転することは正常な状態で運転するよりも遥かに危険であるため、飲酒運転罪に問われる。飲酒運転をした状態で人を跳ね飛ばして死傷させた場合には殺人罪と同等に扱う。


……と、こんな感じで取り決めを行って施行したんだ。

変な密造酒を飲んで身体を悪くさせてしまうぐらいなら、しっかりとしたお酒を買えるようにする代わりに、違反した場合の罰則規定なども定める。

こうすることによって、お酒も楽しみながら節度を守っていこうとするルール作りができるようになる。

それまで飲酒によるトラブルというのは、なぁなぁで済まされてしまうケースが多いわけだが、節度すら守れず酒飲んで暴れるような奴は豚箱にぶち込めばいいんだ。

ルールを守る範囲内であればお酒は楽しく飲む、それがアルコール飲料適正法というものだ。


「アルコールというのは扱い方さえ間違えなければ確実に心強い味方だ。しかし、間違えば先に話をしたような人生の破滅を招く……そうしないようにこれまであまり取り上げられなかった部分を持ちあげて法整備を行う……それだけの事だよ」

「成程……禁酒をさせるのではなく、酒を飲んで暴れた場合の罰則や、製造・売買に関わる者への責任を決める……という事ですね」

「そう言う事だ……ささっ、少々お喋りが過ぎてしまったが飲み物が出来上がったことだし、飲んでみようか」


このアルコール飲料適正法の話題をしながら、淹れてくれたサン=ドマング産のコーヒーを飲んでひと息つける。

さすがサン=ドマング産だ……ミルクと砂糖がセットになっているお陰でかなり飲みやすい。

確実に缶コーヒーより断然に旨い。

皆にも好評のようだ。


「う~ん、この時期の温かい飲み物は本当に美味しいですなぁ……身体がポカポカと温まりますよ」

「ええ、クロイツ子爵はホットミルクに砂糖は入れますか?」

「おお、では是非ともお願い致しますランバル公妃様」

「ホットミルクに砂糖は本当に美味しいからね、次に飲む時は俺も頼もうかな」


コーヒーもいいが、やはりポカポカに温まるのであればホットミルクだよなぁ……。

こうした懇談会の場だと、ついついよくお喋りしてしまうからね。

コーヒーを飲んでいるとたまに飲む量を間違えてぐびぐびと飲んでしまいやすい。

ホンワカとした空気の中、ホットミルクを頂いたクロイツ子爵が、いよいよもって本題を切り出してきたのであった。


「では、改めて本題に入らせていただきます。実はフランスが領有しているトバゴ島に関する事でご相談があるのです」

「……トバゴ島にかい?」

「はい、実はスウェーデンとして大西洋での貿易に欠かせない拠点を探しているのです。そこで貴国が領有しているトバゴ島をスウェーデンに譲って頂けないかと思いまして、今日は交渉も兼ねてきたのです」

「……うーん、トバゴ島かぁ……あの場所が欲しいのかい?」

「はっ、スウェーデンとしては不凍港として年中活動できる拠点の確保が急務となっております。その為にもトバゴ島が最適ではないかと考えています。グスタフ3世陛下も譲ってくれる場合にはそれに見合う金額はお支払いすると確約書を持ってきております」

「……ほぉ……それはまた随分と気合が入っているね」


クロイツ子爵が要求してきたのは大西洋に浮かぶ島であり、南米に近いトバゴ島だった。

このトバゴ島という島は凄まじいぐらいに所有権がコロコロ変わっている上に、酷い時には一年で2回以上も所有国が変わる有様。

イギリスが持っていたと思ったらオランダになり、オランダかと思ったらどっかの国が保有していたりと様々な結果、今現在はフランスが領有している島なのだ。


南米にも近いから地理的には重要なんだけど……これほどまでに所有国が変わる島を持っていると色々と面倒だし、戦争になったら真っ先に攻撃目標になってしまうなどのデメリットのほうが多すぎて少々厄介なのだ。

便利ではあるが、メリットよりもデメリットが大きい。

トランプで例えるならジョーカーのような存在だ。


確約書にはトバゴ島をスウェーデンに譲る際には、スウェーデンは2億リーブルを一括で支払いをすると申し出ている。

2億……!馬鹿には出来ない金額だ。

これだけのお金があれば、パリ中のインフラ整備や貧困層対策への資金に回しても、半分ぐらいお釣りが返ってくる。

それでいて、国にとってお荷物な島を売却できる……いい事だらけじゃないか。

しかしここで二つ返事でOKを出してはいけない。


正式な外交交渉をしてやったほうが後々にトラブルになるリスクが減るし、スウェーデン側にとってもそちらの方が遥かに外交的メンツを保つことができる。

それを考慮して、今回は閣議決定してから島についての事を考えると言ってクロイツ子爵には、正式な外交交渉の場で決定すると申し上げた。


「うーん、この島は我が国にとっても重要だしなぁ……直ぐに欲しいと言われても閣議を経てからでないと承認はとてもじゃないが出来ない。数か月以内に正式な外交交渉で協定なり合意等を結べるようになればそれでいいのではないかな?」

「そうですね……いやはや、申し訳ございません。少々突拍子すぎました」

「いや、クロイツ子爵の言っていることも十分に理解しているし、俺個人としては島の権利に関する協定をスウェーデンと結んでもいいと思っている。早ければ来年3月までに正式な外交交渉の場を設けようと思うのだけど……それでいいかな?」

「はっ……!ありがとうございます!」


無下に扱うのではなく、きちんと交渉の場で決めようと述べると、クロイツ子爵はどこか安堵した様子だった。

恐らくグスタフ3世から島を取ってこいと言われたに違いない。

クロイツ子爵はこれで本国に島を貰えるかもしれないと前向きな報告ができるし、グスタフ3世も交渉が前進したとなればそれで満足するだろう。

相手が誠意ある対応をしてくれれば、それなりの礼儀はこちらも尽くすつもりだ。

どこぞの傲慢貴族(オルレアン)みたいに真っ向から喧嘩売るような真似さえしなければ俺は誰でも迎え入れる。


これでいい感じに懇談会が進んだところで、俺はフェルセンに目を向けた。

とびっきりのイケメンであり、それでいて周囲からの評判も良い男……。

彼はグスタフ3世の信頼できる部下だ、彼は今回の懇談会の内容をグスタフ3世に報告してその内容を精査するのは間違いない。

であれば、彼とも話をしてみよう。

いよいよフランスの貴族の貴婦人たちから評価が物凄く、後世の歴史においても有名なフェルセンとの対談に臨むのであった。

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― 新着の感想 ―
[一言] ヨーロッパは水の質があんまりよくないから子供でもワインを飲むだけでなのに…禁止とか死人出まくりなのでは? まさか煮沸したのを飲めとか? 森林伐採が酷くなってしまうし、庶民のお金が……。
[一言] ウイキペディアの受売りです。 スウェーデンは水事情が悪く、飲酒が多かったとか でしたら水道についての技術供与を行なってしまうのもありかと思うのです。
[一言] トバゴ島、毒菓子にならなければいいけどねぇ・・・。 いよいよフェルゼンとの対談、吉と出るか凶と出るか・・・。
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