200:ヴェルサイユ浴場
とうとう200話に突入したので初投稿です
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1774年11月11日
浴場の事を欲情と日記に書いてしまい、小学生の時に夏休みの宿題で提出した日記を見た先生から失笑されたことのあるルイ16世だ。
文字が似ていると紛らわしいよね。
うん、思い出す必要すらなかったなコレ。
記憶から消えてくれ。
さてさて、今何処にいるのか気になっている人も多いんじゃないかな?
ヴェルサイユ宮殿内に新設された大浴場「ヴェルサイユ公衆浴場」がようやく完成したんだ。
建設期間は実に3年を有した。
本来であれば2年前の春頃までに完成予定だったんだが、少々問題が起きてしまったんだ。
というのも、この施設を建設中に雷が落っこちてしまい、建設中だった浴場の骨組み部分が焼け落ちてしまったんだよ。
幸い死傷者は出なかったのだが、問題はその後に起こったのだ。
落雷が落ちた後も浴場の排水機能が正常に機能しなかったとか、湯をくみ上げる管が突然なんの前触れもなく破裂したりと色々と開設しようとするたびに不具合だったり、欠陥が次々と見つかった。
これらの不具合や欠陥の報告を受け取った俺は、しっかりとした調査と改善を行うと同時に、問題が解決されるまで建設の中止を決めたんだ。
「これもきっとしっかりと公衆浴場が出来上がるために雷が落ちたと思うしかないよね……。そうとしか考えられん……この際不具合や欠陥は徹底的に洗い出してしっかりとした浴場を作るぞ」
強引にプロジェクトを進めて、建設完了後にまた不具合や欠陥が見つかったら一大事だからね。
一応ここ、王の住まう宮殿ですから。
権威に関わる事なので、建設に関わっている現場責任者などには完成期間が伸びても構わないので、問題があればすぐに報告して、修理や再設計の必要があれば大規模な見直しをするようにお願いしたのだ。
結果、工事期間が一年以上伸びてしまい、今日になってようやく完成にこぎ着けたというわけ。
このヴェルサイユ公衆浴場の設計見直しを主導した建築家と共に、公衆浴場を隅々まで見学する事になったのだ。
「いよいよ公衆浴場が誕生したわけだが……思っていた以上に広くなったな……」
「ええ、計画当時に設定されていた浴槽の数を減らした分、身体の洗い場などを増設しておきました。石鹸やタオルなども支給できるように整えてあります」
「いやはや、やはり君に設計の見直しを頼んで良かったよ。クロード・ニコラ・ルドゥー……外見のデザインも中々未来的であり、古代ローマ風を意識した円形型の建物はとても良い。新しい時代は融和を意識したいからね」
「ははっ、陛下の御支援あっての事です。本当に御好きにやらせてもらったお陰で私の人生でも最高傑作の建築物が出来上がりました」
建築アカデミーに所属しているクロード・ニコラ・ルドゥーは、幾何学図形を好み新古典派として有名な建築家だ。
王立建築アカデミーに招かれている程の腕前を持っているので、彼の能力は確かなものである。
当初予定していた建築設定とは違うものになったが、結果的に彼が再設計した公衆浴場は古代ローマを彷彿とさせるような美しく、洗練されたデザインとなっている。
早速完成した公衆浴場の内部を覗いてみると、これもまたローマ風のデザインで溢れかえっていた。
「ほほぅ、サウナ室を取り付けたのか……これもシンプルなデザインながら幾何学模様なども取り入れているのだな」
「はい、諸外国……特に北欧の方々はサウナで身を清めますので、来賓の方々にも配慮した作りになっております」
「成程、確かに来賓として北欧諸国の者達もやってくるからな、当初の設計よりも配慮した作りを行ってくれた事に感謝する」
サウナ室……これは当初は作る予定は無かったのだが、クロード・ニコラ・ルドゥーによって追加されたものである。
アンギャン・レ・バンにはサウナ室を備え付けていたが、そちらのサウナ室よりもデザインはこっちのほうが遥かに上だ。
やはり新古典派を代表する建築家だけあって、こうした浴槽やサウナ室に至ってもいい仕事をしてくれている。
それにしても北欧の人って滅茶苦茶サウナ好きだよね。
特に好きなのはフィンランドだっけか?
国民の半数分に相当するサウナを所有していると言われているので、やはり北欧のサウナ好きは筋金入りだ。
この時代では北欧の実権はスウェーデン王国が担っており、スウェーデンのグスタフ3世はここ最近フランスの改革を見習う為に上流階級を中心に交流が盛んになってきているという。
……あー、午後からはスウェーデンから派遣されてきた貴族達との懇談会が行われる予定なので、いずれこの事を話題にしてやるのが一番いいかもしれない。
折角だから宮殿のお風呂入って行きなよ!サウナあるからさ!……と、王の器を見せて誘うのもいいかもしれない。
勿論、リフレッシュを兼ねてだがね、不純異性交遊の為に誘う訳じゃないのでそこは安心してほしい。
そして大浴場に入ると、俺はある事に気がついた。
「ん……常に光が入り込むように天窓は斜めに付けられているのだな」
「はい、太陽の位置を計算して西日などが壁に描かれているタイル画に光が当たるように設計されております。斜めにした事で少々お値段が張ってしまいましたが……」
「いいや、これは素晴らしいじゃないか。多少値が張ってもこうした美しさを見せることができるのは素晴らしいよ」
「ありがとうございます!新しいデザインを取り入れた甲斐がありました」
タイル画は森を意識したような作りをしており、それが太陽に当たってより輝かしく見える作りとなっている。
タイルも全体的に緑を意識していることもあって、まるで森の中で沸き立つ温泉に入っているような錯覚すら覚える。
う~ん、いいねコレは。
まさにテルマエって感じがして長風呂をしたい気分になるほどだ。
アンギャン・レ・バンが治療も兼ねた温泉施設であるとするならば、このヴェルサイユ公衆浴場は職員や宮殿を訪れた人々の為のサロンも兼ねた公共施設という扱いになる。
恐らくヴェルサイユ宮殿にかなり手を加えているのはこの建物なんじゃないだろうか。
史実にはないし、かなり大きい建物になっているのでとても目立つ。
金銀などの宝石類を散りばめて装飾するのはあまり好きじゃないが、こういった新古典的な建物もいいかなって思うわ。
「大きな浴槽が1つで……残りの浴槽が水風呂と熱い風呂か……当初の計画よりも大浴槽を大きくして、小さい浴槽を減らしたのだな」
「はい、配管の詰まりや亀裂の問題を調査した結果、小さい浴槽の数が多すぎた事が原因でしたので配管と小さい浴槽の数を減らすことで問題は解決致しました。余ったスペースにはシャワールームを作り、排水管も別に設置しております。これもボタンを押すことによって全身に水を浴びることが出来るようになっております」
「おおっ、シャワールームとはこれまた凄いのを作ったね」
念願ともいえるシャワールーム……。
とはいえ、本当に原始的な作りとなっている。
長い筒状のパイプに穴が数本開いており、ボタンを押すと一定時間その穴から水が流れ出る仕組みのようだ。
まだ水の勢いもそれほど強くはないのと冷水だけの対応らしいが、いずれは暖かいお湯も流せるようにするという。
こうした仕組みも裏側で機械の仕掛けによるものらしい、これぞまさに近代的な作りになっているね。
なんだかんだ言ってシステム的には日本の昭和中期ぐらいの銭湯みたいな感じになったというわけだ。
「いやはや、中々良い出来じゃないか!これで今日の午後から稼働できるようになれば良い事だ……」
「はい、4年前に陛下が王妃様とお考えになって基礎をお造りになったそうですが……アンギャン・レ・バンも東洋建築風の入浴施設で大変人気の療養施設となっておりますね。あれも陛下がお造りするように指示を出したのですか?」
「勿論、アンギャン・レ・バンは皮膚炎などに効果がある温泉だからね。それにどことなく東洋風……日本っぽい雰囲気を出したかったのもあるな。東洋で随一の温泉がある場所だし、それに負けない感じの施設を作りたかったんだ……」
「成程……アンギャン・レ・バンも建設の参考にと思い行ってきましたが……あそこの温泉はいいですねぇ……陛下が真心を込めて東洋を意識した作りの温泉……お風呂上りに地下水で冷やした瓶入りの牛乳が特に美味しかったですなぁ……」
「おお、あの温泉はいいぞ。それに風呂上りの冷たい牛乳ほど旨いものはないぞ。一応このヴェルサイユ公衆浴場の休憩スペースにも冷やした水や牛乳を販売するように言っておくか……」
気がつけば、クロード・ニコラ・ルドゥーと共にアンギャン・レ・バンの温泉について語りあい、この施設に足りないものなどを語り合った。
やはり温泉はいいぞ、公衆衛生の向上にもなるし何ともいっても温泉に肩まで浸かり、汗を流した後に飲む牛乳ほど美味な飲み物はない。
そろそろお風呂上りに牛乳だけじゃなくて甘いコーヒー牛乳を作らせてみようかな。
そんなこんなで、ヴェルサイユ公衆浴場を視察を終えてからスウェーデンの貴族との懇談会を行うのであった。
次回フェルセン君登場させます。期待しないでください。