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スウェーデンからやってくる貴族は只の貴族じゃない。
そりゃ国王と面会してくる貴族というのはある程度階級の高い貴族が相場だ。
まぁ、改革派ではそうした階級にはこだわらずに有能な人材を発掘・育成しているので俺はそうした位というのは気にしていない。
なんでも最近上流階級を中心に社交界で有名になっている貴族がやってくるらしく、今回の懇談会への参加は偶然的に決まったようだ。
偶然……なんですかね?
なんかほんと今日の朝ぐらいにスウェーデン側から「すみません、その貴族を一人追加したいのですがよろしいでしょうか?」と問い合わせがあったので、余程スウェーデン側が気に掛けている人物のようだ。
今回はランバル公妃に俺の公務を手伝ってもらうことになった。
長時間に及ぶような懇談会などはまだまだ身体に負担であるのと、今はテレーズにたっぷりと愛情を注いでほしいからだ。
ちゃんと女性が安心して暮らしていける基盤作りも大事だからね。
ランバル公妃を適任者として選んだのはフランスの上流階級でもかなり顔が広い上に、各国の外交官ともコネクションを持っている事もあって、そうした情報に詳しいのだ。
社交界でも微笑みを絶やさずに様々な人達と交流を持っているようなので、彼女に任せられるのであればとお願いしていたのだ。
「色々と忙しい時にすまないねランバル公妃……」
「いいえ、陛下の為ですもの。それに王妃様が出産休みの間は私にお任せできる事があればこれからも遠慮なくお申し付けください」
「いや、本当に助かる。このお礼は必ず後でお返しするよ」
ランバル公妃も仕事を抱えている中で、こうした仕事を引き受けてくれたので最大限の礼を尽くす。
千里眼ほどじゃないが、彼女も人を見る目がある。
アントワネットに寄りつこうとする悪い虫に関する探知能力は多分俺よりも上で、情報提供の際にも彼女が指摘した事は割と精確に的中させている。
アントワネットと上手くいっているのも、こうした彼女の性格と隠れた才能によるものだ。
さて、懇談会を行う大広間には豪華絢爛な椅子とテーブルが用意されているが、これは全てルイ15世の趣味で作られたものだ。
某北欧家具メーカーでは作れないような手作り感満載で、ルビーなどの装飾品が施されている。
ぶっちゃけ、これだけの装飾品を施す資金があれば是非とも宮殿の改修工事費に出して欲しかったなと思いながら、今回やってくるスウェーデン側の貴族で気掛かりな人物がいるというので、早速話を聞いてみることにしたのだ。
「ところで、今朝方スウェーデンが緊急に一人追加した貴族についてだが……何か知っているかね?」
「ええ、恐らくハンス・アクセル・フォン・フェルセン氏ではないでしょうか?丁度スウェーデンから帰ってきたばかりだと伺っておりますので、恐らくは彼ではないでしょうか?」
「……ちょっと待って、聞き間違えじゃなければフェルセンがやってくるのかね?」
「ええ、若い青年で丁度アントワネット様と同じ年の方です。真面目で好青年だと上流階級の婦人たちからはもてはやされている人物ですよ」
「フェルセンかぁ……うーん、彼がスウェーデンの切り札だったとは……」
「あら?陛下もフェルセン氏を知っておられるのですか?」
「ああ、名前なら聞いた事があるぞ……直接面と向かって会ったことはまだないが……とっても有名な青年だと噂で聞いたんだ……」
フェルセン……忘れるものか。
史実でアントワネットが滅茶苦茶気に入って禁断の恋に走るほどの一番お気に入りの男子じゃないですかやだー!
浮気した上にエッチな事しちゃったとか、やっぱアントワネットじゃなきゃ心が燃えないとか色んな事言われていますけど、最後は色々あって恨まれまくった末に民衆に撲殺された後、全裸のまま川に遺棄されるという凄惨な最後を遂げたことで知られているんだよね。
割と可哀想な人生を送った悲劇のイケメンで有名な人です、ハイ。
アントワネットからの寵愛を受けていたけど、実際にはスウェーデン国王のグスタフ3世と出来ていたとも言われている人なんだよね。
うーん……彼に関して俺から言う事は……。
アントワネットを好きだったからこそ、アントワネットが革命で消されてしまうのを防ぐために亡命を策略するも、その亡命が失敗に終わった結果、アントワネットの運命は決してしまい、晩年は燃え尽きたように覇気を無くしてしまい「自分は亡命が失敗した時に責任を持って死ぬべきだったんだ……」と日記で書き綴ったぐらいには凄い後悔している描写が伺えるんですよね。
だから個人的には友人関係であればまだいいんですよ。
でもね、アントワネットは俺の大事な嫁ですから。
フェルセン君、君がアントワネットと禁断の恋がしたいとか言ったらマジで俺は許しません。
というか彼の場合グスタフ3世の政略でアントワネットに近づいて、彼女の内側を探っていたと言われているので、スウェーデン側が探りを入れてきたら要注意だ。
よくある薄い同人誌においてNTR展開になるのは絶対に嫌だし、NTRよりも俺は純愛系の方が好きだ。
(あー……フェルセンって確かフランス革命を舞台にした漫画でも登場していて結構人気あったんだよなぁ……美男子だし、でもやはりそれだけ美男子で社交性が高いから重要な情報を引き抜かせる事が上手いというわけか……)
フェルセンが懇談会で急遽抜擢されたのも、そうした彼のスキルを見込まれてのことだろう。
あとグスタフ3世の方針を強く影響していると思われるので、彼の話す言葉はグスタフ3世の……スウェーデン側の代弁とも言える。
なのでおっちょこちょいな真似はいけないし、彼の話している言葉を一言慎重に聞き入れないといけない。
大広間前の扉が3回、ノックの音がした。
どうやらスウェーデン側の貴族達がヴェルサイユ宮殿に到着したらしい。
「陛下、先程スウェーデン側の方々が到着致しましたので、あと5分ほどでこちらに到着いたします。そろそろ準備をお願い致します」
「うむ、報告ご苦労。彼らにはこちらに通しておくように……」
「はっ!では失礼いたします」
色々な人と会談などを行ったことはあれど、スウェーデン側とのざっくばらんな話し合いをするのは初めてだ。
これまでは友好国を中心に行われてきた為、俺が直接話し合う機会は殆どなかった。
唯一話したのは国王に即位した時ぐらいだろうか、スウェーデンとの関係はあまり良くないが、それでもヨーロッパとの交流を深めて戦争や無益な対立を避けるためにも、様々な人達と会う事は重大な事だ。
特に、国王である俺にとっては尚更大事だ。
国内の貴族や政府幹部との会談は日常茶飯事だが、スウェーデンなどの北欧方面に関してはいよいよ本腰を入れないといけないね。
大事な懇談会になりそうだ。
「正式な会合ではないとはいえ、懇談会でも少々緊張するね」
「懇談会となれば緩い話し合いとはいえ、色々と打ち解けあっていく場ですので、通常の会合とは異なりますよね。少々気が張ってしまうと身体に毒ですよ陛下……気分を少し変えてお水をお飲みになりますか?」
「ああ、一杯貰うよ。ありがとう」
ランバル公妃が気を使って水を入れてくれた。
タンブラーグラスに冷水が注がれる。
このキンキンに冷たい水が懇談会などの話し合いの場で口を喋らせるエネルギーになる飲み物だ。
エナジードリンクなんてないから冷やした水を飲んでシャキッとするんだ。
ランバル公妃からもらった水を飲むと、喉の奥を透き通っていくような感覚がやってくる。
これだよコレ、この感覚がたまらなく好きだね。
「ふぅ……やはりこうした冷たい水を飲むと気分が落ち着くよ。紅茶やコーヒーもいいけど、緊張しているときは水が一番だ」
「ヴェルサイユのお水はとっても良い水を使かっておりますわ。喉を透き通るような清涼感の強いお水ですので、紅茶などを淹れるとさらに透き通るような美味しさになりますわ」
「うん、有名な源泉を使っているって言っていたからね。この水を飲めることに感謝だ……」
誰しもがヴェルサイユ宮殿の水を飲めたわけではない。
基本的に王族や貴族に提供される水は、厳選された地下水を瓶などに詰め込んで提供されているものだ。
それ以外の使用人などは煮沸消毒した水などを飲んでいる……が、あまり美味しくない事で悪名高いようだ。
日本みたいに蛇口をひねるだけで美味しい水が飲めるわけじゃないんだ……。
清潔でかつ美味な水を飲めるという21世紀の日本では当たり前の事が、ここでは上流階級などでしか味わえない贅沢な事でもある。
「水を飲んだらだいぶ緊張もほどけていったよ……ありがとうランバル公妃」
「いいえ、陛下のお役に立てれば幸いですわ。懇談会ですので落ち着いていきましょう」
「ああ、そうしよう。そろそろ時間か……」
ランバル公妃が水を淹れてくれたお陰で緊張も解けていった。
これでシャキッとした状態で懇談会に臨むことができる。
待っていると、ドアがノックされて「スウェーデンからの来賓の方々が入ります!」と相手がやって来た合図の声が鳴り響いたのであった。




