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122:風

諸事情により、あと3話でサン=ドマングの問題を片付けます。

物語を停滞させないようにこれからも努力していきますので初投稿です。

★ ★ ★


1771年9月25日


サン=ドマングの首都、ポルトープランスでは人々がピリピリとしながら街中を歩いていた。

巡回をしている植民地軍の兵士達は、そそくさと早歩きでトラブルに巻き込まれないように決められた巡回ルートを早歩きで済ませようとしている。

カプ=フランセから現在のポルトープランスに首都を遷都してからまだ一年しか経っていないにもかかわらず、この地域に戦争の火種がくすぶり始めているからだ。


「人種間の差別意識なんてそう変わることは無いというわけだ。皮肉なものだな、陛下は平和を望まれておられるというのに……その平和を受け入れようとしない者達がいるとは」

「全くね、ここに調査にきてもうそろそろ2週間になるけど、思っていた以上に奴隷制継続派の農園が多いのが厄介ね。一々説得していたらキリがないわよ」

「ああ、国土管理局の力をもってしても……こいつら全員をしょっ引くのは無理だぞジャンヌ」

「分かっているわよアンソニー……」


8月30日にフランスを出航し、9月16日に現地入りを果たした国土管理局の諜報員であるアンソニーとジャンヌは国土管理局が管轄しているコーヒー貿易会社の一室で他の職員同様に頭を抱えていた。

二人は地図を広げて奴隷制を廃止して国王の命令に従った農園と、それとは反対に奴隷制を勝手に継続している農園の場所を色塗りをして現在の勢力図を纏めている所だ。


ポルトープランスなどサン=ドマングの南部地域を中心に奴隷の完全な解放に賛成の立場を表明している農園もある。

その理由の一つに経営者の中に白人と黒人との混血で生まれたムラートと呼ばれる人々がおり、彼らは地位的にいえば解放奴隷のような扱いである。

サン=ドマングの南部地域を開拓したのも、ムラート出身者が多かったのだ。

土地を持つことも許されていたのでムラートが保有している農園は全体で15パーセントと、決して無視できない数字であった。


肌の色が違うというだけで奴隷として扱われているという事にコンプレックスを持っていた彼らは国王の「黒人奴隷を含めた奴隷の完全な廃止」に大いに賛成の立場を表明したのだ。

本土での農奴制の廃止に伴い、フランスが領有する島々や植民地でも奴隷制が廃止となった事で、彼らは真の意味で”自由”を手に入れることが出来たのだ。


南部地域を中心に、奴隷の廃止を進んで行う農園がある一方で、北部では白人経営者を中心としたコミュニティーがあり、特に旧首都であるカプ=フランセを中心とした農園の多くが黒人奴隷を含めた奴隷の酷使によって経営を成り立たせていたものであり、実に歪ともいえるような経営体制を行っていることで有名であったのだ。


かの悪名高い日本のブラック企業ですら裸足で逃げ出すような管理体制下におき、主人の命令に逆らったり病気や事故で使えなくなった奴隷などを火炙りにしたり生き埋めにしたりと、まるでナチスの強制収容所のような過酷な環境下で働かされているのだ。

そんな彼らに「奴隷の廃止」を伝えたらどうなるだろうか?

当然、人間の尊厳すら与えられていなかった彼らは、今までされてきた事を訴えるに決まっている。

それらの手段が対話ではなく、暴力という手段で返ってくる事に経営者たちは気がついているのだ。


これからはそんな非道なことはしないと言っても信じて貰えるわけがない。

故に、奴隷制継続派の白人経営者たちは奴隷を解放せずに自衛の為に自らの部下や家族を率いて銃などで武装しているのだ。

そして完全な奴隷解放を訴える「反乱軍」と呼ばれる元奴隷達で構成された武装組織によって、北部のプランテーション農園で放火や白人経営者の殺人事件が起こり始めているのだ。


首都ポルトープランスでは解放された元奴隷達が連日行政当局に集まって抗議集会を開いている。

勿論の事ながら、彼らに対して暴力的な行為は認めていないので北部に比べたら平和に行われている。

しかし、奴隷であった彼らは北部で一向に解放されない同胞たちを解放するように呼びかけているのだ。

その悲しくて悲痛な叫びはアンソニーやジャンヌがいる部屋にまで聞こえてくる。


「頼むよ!俺の兄弟は北部のポールドぺのコーヒー農園で働かされているんだ!もう2年も会えていない!彼らに兄弟を解放するように言ってくれよぉ!」

「私たちはアフリカから連れてこられたんだ、二束三文で売られてね……国王陛下が私たちを解放してくださったのに、北部の連中はなぜ応じないんだい!」

「役人さん!お願いです!どうか、どうか同胞を助けてください!」


元奴隷達の陳情をムラートの役人が頷いて対応に当たっているが、反応は芳しくない。

これ以上の事態の悪化を避けるべく治安維持の為に本国が軍を派遣しているものの、到着するのは早くても10月4日前後だ。

それまでに反乱軍ではなく民衆が暴発する可能性すらある。


「アンソニー、北部の農園に手打ちをさせることは出来ないかしら?」

「ジャンヌ……それは無理だよ。これは簡単に解決できそうにない、この地域で根付いた黒人に対する偏見や思想までは取り払われていないんだ。寛容令の施行と共に本土ではプロテスタントやユダヤ人を受け入れてはいるが、こういった本土から離れた場所では今までの価値観を重視する人達が多いから変えるのは容易じゃないよ」

「そうよね……それに、ノボリス総督の家族も奴隷継続派によって自宅軟禁状態……今動くのは危険かしら?」

「少なくとも、あと3日間は待機だ……思っていたよりも私兵の数が多い。おまけにあれはスイス人の傭兵だからな……」


豪農とも呼ばれるプランテーション農園で大成功を収めた経営者によって雇われた私兵の傭兵によってノボリス総督の自宅は守られている。

無論、これは守るだけでなく家族を見放して逃げた時に処刑すると総督を脅している。フランス軍がサン=ドマングにやってくるまでの人質でもあるのだ。


「このまま放置していれば手詰まりね。海軍がやってきても間に合わないわ」

「だが、この問題を一気に解決させる方法はある……かなり強引にだがな……」

「もしかして……()()を行うつもりかしら?」

「ああ、そのつもりだ」


そう言って席を立つアンソニー。

彼は戸棚からこの混乱を短期的に解決する方法を記した計画書を取り出してきたのであった。

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