120:チートコードなんて持っていない
年間歴史ランキング3位になりましたので初投稿です
サン=ドマングにおける英国との関係について今一度おさらいしておく必要がある。
今回の騒動はイギリスが裏で動いている可能性がある。
100パーセントそうだとは言い切れないが、それでも奴隷制に反対している農園の白人事業者を中心に売りさばいているという情報を既に取れているので、イギリスが事前に事態を把握していた可能性が高い。
さらに言ってしまえば、この時代は農園の事業者でも武器などを取得することが容易であった。
害獣駆除目的で所持することは法律違反ではなかったし、現代のように電話一本で警察が駆けつけてくれるような状況ではないからだ。
軍隊なんて当てにしてはダメ、それこそ自己防衛をして身を守る時代故に、個人で携帯できる武器が多く流通しているのが現状である。
とはいえ、そうした近代的な武器を保有できるのは一部の富裕層を中心に限られる。
大半の元奴隷達はマスケット銃なんてものは持っていないらしく、鍬や斧といった農業用として受け渡された道具を近接武器として使用しているそうだ。
植民地では開拓事業を行い、そこで生活している農園事業者も多くいるため自衛のために武器を所持することを認められている。
奴隷制継続派の農園側はサン=ドマング植民地政府の黙認の元で武装化しているという。
詳しい随時報告では、既に700から1000挺程のマスケット銃が高値で農園側に売られているそうだ。
奴隷制継続派の農園に従事する白人経営者や労働者を中心にイギリス製のブラウン・ベスというマスケット銃が出回っているのだという。
農園の事業者が持っているのはマスケット銃が主流であり、火縄銃よりは集団戦闘をしやすく湿気があっても点火し易いという利点があるとはいえ、欠点もある。
威力が高い分、一人倒して再装填している間に鍬や斧を持った男たちに取り囲まれて襲われたらそこで終了なのだ。
実際に、この時代における銃の性能というのは一発撃ちこんだら再装填するのに20から30秒も掛かる。
現代の傑作自動小銃として謳われているAK47のように銃弾を何十発も瞬時にシュババババッ!と撃てる時代ではない。
銃あれば最強じゃんと思っている転生モノの小説を見た事はあるが、現代の技術力で作られた部品というのは手作業を主体としている近世で再現することは難しい。
というかできないわ!現時点でそんなもん作るのは無理!
ネジ一本に至るまで規格統一しなきゃいけないんだぞ!
プレス加工とかは機械化が進んだ産業文明でないと出来ない代物だ。
俺が技術系の人間だったとしても、ああいった機械を作るのには無理がある。
現段階でやっと蒸気機関の初歩的な基礎が出来上がっている最中だからね。
今の技術では到底作ることは難しいだろう。
仮に作れたとしても、しっかりとした基盤などで作っていないので数発撃ち終わったら弾詰まりを起こすに違いない。
故に、こうした銃というものは武器を持っているぞ~変な素振りをしたら瞬時に撃ってやるぞという脅しの意味合いで持たせている可能性のほうが高い。
それでも十分平民を脅して強制労働させている時点で問題なんですがね。
「つまり、奴隷解放したのはいいけどそれに反対した農園側が元奴隷達に対して締め付けを強化した結果、キレた元奴隷の一部が武装して農園との対立姿勢を強めているというのがサン=ドマングの現状ですね……それに付け込んでイギリスの商船が武器を売りさばいていると……はぁ~いつの時代もイギリスはイギリスだなぁ……」
何かにつけてイギリスの二枚舌外交は特筆すべきものがある。
現代で問題になっているパレスチナ問題でも、事の発端の原因というのが第二次世界大戦中、現地パレスチナ人とユダヤ人双方に戦争の際にイギリス側に協力したら君たちを独立させてあげるよ!(双方同じ聖地で独立させてあげるね☆)と景気よく保証したはいいが、いざ戦争が終わったらその責務を放棄してしまったのだから。
で、結果どうなったかといえばパレスチナ人は元々住んでいた場所を移住希望者として入植してきたユダヤ人に追い出された上に、それが原因となって周辺国との戦争……世に言う中東戦争や俺が転生してしまう直前まで問題になっていたイスラム過激派を産み出す要因を作っている。
やっぱりイギリスは問題児じゃないか……(ここで思いっきり白目を剥く)
そして今回も民間船を通じて武器を売り込んでいるのだから、尚更タチが悪いものだ。
「汚い、流石イギリスの紳士は腹黒い。アヘン戦争の時も開戦理由が”紅茶を高値で清国が売り飛ばすから、清国の経済疲弊させようと思いアヘン送って廃人増やしたら、清国の役人にアヘン燃やされたから戦争してやるぅぅぅ!”だからね……裏でイギリスが手を引いているのは間違いなさそうだな」
もしかしたら、まだ把握が出来ていないだけで銃器も反乱軍に渡っているかもしれない。
そうすれば、説得に時間がかかるだろうし、最悪の場合は長期的な動乱に伴う内戦状態になる事も予想される。
「最悪サン=ドマングで内戦勃発の危機か……こればっかりは避けないといけないよね。これ以上治安が悪化すればフランス本土の経済の悪化も避けられないな……」
せっかく好景気になってきたが、ここでサン=ドマングで内戦でも勃発すれば、砂糖やコーヒーの価格が高騰して人々の癒しの一つである嗜好品の値段もそれに伴って上昇するのは目に見えている。
すでにパリの取引では砂糖やコーヒーの値段が吊り上がるのではないかという事でサン=ドマング産の砂糖やコーヒーの先物取引が中止となるなど、混乱が起こり始めている。
「放置すれば根本的な人種対立に発展してしまう火種だよ全く、奴隷制度なんてものを作った奴を憎みたいよ……」
この時代では白人以外の有色人種は奴隷もしくはそれに近いような扱いが当たり前だった時代でもある。
人々の思想や考え方がそうコロリと変わるはず無いのは分かっている。
分かっているからこそ、奴隷制度を無くして新しく平民階級者としての再スタートを踏み出そうとした途端にこれだよ。
次々と届く報告書に目を通しながら、今回のサン=ドマング動乱をどう切り抜けるのか頭をフル回転させて考えていると、どこからか香ばしい匂いが近づいてくる。
ゴロゴロと移動式の荷台が動く音がしているが、おそらくは食事を持ってきてくれたのだろう。
俺の予想通り、部屋のドアが開かれると料理総長直々に料理を運んできてくれたのであった。




