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1121:テロール

周辺警護の強化を行うのは当然として、問題なのはベルデロッチ男爵周辺の人物だ。

反グスタフ派の貴族が中心であったようだが、彼らは未だにスウェーデンの財政界において一定の権限を有しており、表向きは憲兵隊の捜査にも応じているものの、既にスウェーデン本国から出国している可能性が高いという情報がデオンからもたらされている。

というのも、クーデターを画策して実行していたものの、グスタフ陛下が撃たれてからもしばらくは生きており、息のかかった新聞社が逝去されたと報じるも、直ぐに王室側が一命を取り留めたという報道を流したことで軍を使ったクーデターはとん挫。


計画が失敗したと悟った彼は、スウェーデンのストックホルムから馬車で逃走しており、複数の貨物馬車に乗り換えて逃亡したことまでは判明している。

その後の足取りが不明であり、南の方向に逃亡したとされている事から、今はデンマーク領に逃げているものと推測される。


この時代、デンマークとノルウェーは同じ国家であり、同君連合国家としてその地位を維持している。

故に、デンマーク側に憲兵隊を派遣して輸送に関わった運送事業社を捜索しているが、未だに発見には至っていない。

ベルデロッチ男爵と思われる人物が暗殺未遂事件発生から15日後にデンマーク=ノルウェー同君連合のコペンハーゲンにおいて偽名を使って入国しているとの情報があり、これを受けてスウェーデン政府とフランス政府はグスタフ国王暗殺犯並びに中心人物の捕縛を名目に、コペンハーゲンに憲兵隊を派遣している。


「デンマーク領に逃げ込んだとなれば、ノルウェー政府も重い腰を上げないといけないだろう。隣国の国王暗殺を教唆した犯人を匿っていると思われたくないからな……今のところ、ノルウェー政府の返答は来ているか?」

「はっ、スウェーデン並びにフランスの憲兵隊の派遣を認めており、欧州協定機構加盟国間で認められている国際捜査の一員としてフランス側からも150名程の憲兵隊を派遣して捜索に当たっております。今現在までに商人たちの港として有名であるコペンハーゲンを中心に調査と捜査を行っております。船を使って更に別の場所に逃亡した可能性もありますが、今は北米大陸で発生している強毒性の流感対策として船での移動には厳格な健康チェックと身分証明書の確認が必須となっておりますので、客船での移動はあまり考えにくいかと……」

「うむ……その話が本当であれば、奴はデンマーク領を経由して別の場所に逃げた可能性は低いということか……陸路で逃げたとなればまだコペンハーゲンか、その周辺に潜んでいる可能性もある……奴に関しては改革派の同志であり、そして良き統治者であったグスタフ陛下を政治的な目的で暗殺したテロリストとして何としても捕まえてほしい。人員が足りなければ国土管理局からも派遣してくれないか?」

「はっ、すでに国土管理局からも秘密裏に20名程送っておりますが、さらに増やしますか?」

「うむ……奴は何としてでも捕まえて法の裁きを受けるべきだ。暗殺犯を捕殺することは容易いことだ。死んでも既に目的が達成されているからな。奴の起こした罪がどれほど重たく、また裁判を通じて()()()()()()()()()から処刑するほうがいい……民衆も奴の首が吊るされるのを望んでいるはずだ」


国民から敬愛されていたグスタフ陛下を群衆の前で銃撃し、その時は無事だったが合併症を引き起こして死に至らしめた。

これは立派な暗殺であり、政治的目的のテロールであることは疑いようのない事実だ。

故に、暗殺犯であり武器などを準備した上に、新聞社などに根回しをして軍隊を動かして貴族政治の復権を目論んだベルデロッチ男爵は見つけ次第、その罪を法廷で裁いて国民の前で処されるべきだろう。


人を殺すことは容易いことだ。

だが、正式に裁判を経て『法的な根拠を照らし合わせても、ベルデロッチ男爵のした事が内乱と国王暗殺という重大事案を引き起こした』と証明し、法的手続きを行ってから正式に処刑とするようにしなければ一部の貴族から『口封じのために暗殺された』という英雄視されかねん。


「ベルデロッチ男爵の共犯者や同調している貴族連中のリストは出来上がっているか?」

「ええ、主にスウェーデン側ですが情報提供がありました。フランス側には貴族側には同調者はおりませんでしたが、一部の港湾関係者がベルデロッチ男爵へ献金を行っていたことを突き止めております。無論、既にその関係者は重大事案に関わっているとして当局で拘束し、事情聴取を行っているところです」

「うむ、もし奴が協力者を募って手助けなどをしていれば、貴族連中が再び同じ事件をやりかねないからな……その拘束されている港湾関係者もしっかりと事情聴取を行って罪に当たるかどうか確かめてやってほしい」

「はい、必ず」


既に共犯者は自白を行っている者もいるため、裁判を行えば確実に十中八九死刑になるだろう。

それでいて、献金などをしている者についても深くは関わっていないかもしれないが、何かしらの事業でベルデロッチ男爵と関わっていた事は間違いないだろう。

どこまで手を広げていたのかは分からないが、少なくともフランスの商品を輸入する事業や転売行為を行う事業を使って莫大な利益を得ていたことは分かっている。


となれば、コペンハーゲンを脱出後にはフランス領内で活動する恐れも生じてくるわけだ。

仮にフランス国内で活動をするにしても、俺がベルデロッチ男爵側の立場であれば真っ先に代理人や偽装した身分証明書を用意した上で、第三者に成り代わって行動を行う事だろう。

つまるところ、ベルデロッチ男爵ではなく別の貴族ないし有力者であるかのように振る舞って、詐欺行為まがいの行為や資金集めのための活動を行うはずである。


これは前例があり、かの薔薇十字団で頭角を現したカリオストロも、史実でもこの世界でも詐欺行為を行って資金を集め、そして薔薇十字団において蒸気機関の売買などを行う事業を展開してから秘密結社に接触し、そのトップに上り詰めてしまったのである。

何処かの組織や団体に加入し、そこを隠れ蓑にして活動を行う事が予測されるのだ。


それに加えて、スウェーデンやデンマーク=ノルウェーから来たとは必ず言わないはずだ。

というのも、もしこれらの地域からやってきたと公言してしまえば、必ず改革派の誰かがマークをして俺の元に報告を行うはずだからである。

少なくとも、ベルデロッチ男爵の件は改革派の中でも話題になっており、特にアクセサリーや化粧品の類を水増しして請求し、あくどい商売をして成りあがったスウェーデンの悪名高い人物としてその名が知られているからである。


故に、他の第三国……ロシアやプロイセン王国などの地域からやってきたとする可能性も無きにしも非ずだ。

いずれにしてもベルデロッチ男爵は捕まえてスウェーデンに引き渡さなけばならない。

グスタフ陛下を暗殺した罪はしっかりと司法の下で裁く。

それがテロリストを罰する上で必要なことだからだ。



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