1091:拡大阻止
まず、フロリダ州を含めた欧州協定機構軍が支配する占領地域での対応についてだ。
占領地域では既にフランス軍を中心に対策が行われているのは周知の事実ではあるが、これらの支配地域においては使えるものは何でも使って感染症対策マニュアルに従って行動するように呼びかけている。
特に、感染者が増えた際に土葬では間に合わないと判断した場合には現場指揮官の判断で火葬を執り行ってもいいようにしたり、建物等に関しても大きな工場や教会などを接収し、そこを臨時の診療施設として使うことなどが盛り込まれている。
「臨時の野戦病院としての活用もさることながら、実質的に軍が進軍できない上に相手も同様かそれ以上の痛手を被っている状態では、こちらとしても進軍ではなく軍として再編成を進めて次に備えるべきだろうな……どの道、感染症が流行している上にインフルエンザウイルスは罹患しやすい……強毒性ともなればこの時代の人達の感染症対策だと、恐らく現代に比べても不十分に思えるような対策法でしか活用できない……北米複合産業共同体とはそこで差をつけるべきだろうな……今後の政策を行うにしても、全てを活用しなければならない上に、何と言っても感染症は目に見えないんだ。既に潜んでいる脅威として認識しないとこの戦には勝てん……」
感染症対策を総動員して執り行うべきだろう。
まずは北米大陸にいるフランス軍や欧州協定機構軍に対する防疫措置。
それに加えてカリブ海諸島などにも強毒性インフルエンザが波及した場合に、これらの地域での防疫並びに感染症対策の強化。
また無症状の罹患者に対する措置なども踏まえて水際対策の徹底。
最期に、これらの水際対策も突破されてしまった際の本国や他の欧州諸国での感染症対策としてのインフルエンザに対する基礎知識の共有と、それに伴うインフルエンザ感染症対策の徹底。
貧困層を中心とした人達に対する医療ケアの充実化などを行う予定でもある。
今現在の状況では、インフルエンザ対策として推し進めているやり方を使って行く方針ではあるが、欧州諸国の人達が素直に宗教的な問題をクリアーして行ってくれるかどうか……。
実際にプロテスタント系である福音派教会を診療施設として使っているケースが多くあるらしく、フランス軍だけでなく、スペイン軍やポルトガル軍の感染者で軍の要塞や施設で収容しきれない人がすでに多く発生しており、さらに言えば地元住民などからも感染者が増えている状況を鑑みれば、必然的に建物を接収することが決まっていたのかもしれない。
これは福音派だけでなく。カトリック系の教会でも同様である。
火葬に対して火刑などを連想させてしまうため、これらの宗教に熱心な層では例え大の大人であったとしても、これらの火葬処理に対して必死に抵抗して暴れたり、泣き叫んで拒絶反応を起こす人も珍しくないという。
(この時代だからこそ、強権を使って火葬を執り行うということを推し進めることができるとはいえ、やはり時代を考慮すれば、かれらの宗教的価値観を否定せずに執り行うように国内外問わず、様々な宗教にも伝達をして、これらの処置を執り行うことで葬儀代などを国が全額保証するように通達を出しておくべきだろうな……そうでもしないと感染者が死亡したことを隠してしまう事例が実際にベルリンでもあったからなぁ……こればかりは仕方ない。既に北米大陸では感染症対策を粛々と行っていることを踏まえても、これらのデータを元に執り行うことが最優先になるだろう)
接収した建物を簡易的に改装し、診療施設としての機能が行届くようにしており、また強毒性インフルエンザ患者が死亡した際には、兵士には事前にサインをした承諾書に、地元住民の場合は遺族などに説明をしてから臨時で作った火葬場に持ち込んで遺体を火葬した後に、遺骨を渡す仕組みとなっているのだ。
この方式を採用した上で、遺体の火葬費用などを無償化する。少なくともそうでもしないと彼らは納得しないのだ。
遺体の処理については閣議でも決定しているが、この時代としては宗教の結びつきが現代よりも深く、そして大切にしてきた時代でもあるのだ。
日本でも明治時代になるまでは土葬が主流であったし、火葬が広く普及するようになったのは火葬に必要な薪や遺体を火葬する際に必要な燃料が十分に確保できるようになった事が大きい。
火葬に対する知識などについても法整備を進めていくことが条件となるわけだが……。
ヨーロッパに持ち込まれた場合の水際対策、並びに今後の北米複合産業共同体の情勢を見極めないといけない。
スパイからの情報によれば、ニューヨークにおいて多くの工場が操業停止状態となっており、複数の工場のトップがインフルエンザによって落命しているという情報が入ってきている。
北米複合産業共同体は企業国家であり、その企業の資金源でもある工場が稼働できない状態というのは、極めて経済的にも悪化している根拠となる状態となるのだ。
企業国家において、経済循環を行う上で企業の収益が回らないと自壊してしまう。
普通の国家であれば、経済が一時的な停滞状態に入ったとしても、貯蓄している資金や国庫、さらに手形などを発効して諸外国からの支援や融資などを執り行うことで経済破綻などを免れることが出来るケースが多い。
しかし、北米複合産業共同体にはそれが出来ないのだ。
なぜ出来ないのか?
それは一国のみで経済を回している企業国家であると同時に、周囲には敵として認識されているため自分達で経済を回すしかないからだ。
早い話が、自転車操業状態でずっと稼働していた国家であるということだ。
企業国家は理念上では大規模な収益を得られることでも知られているが、同時に経済不況になった際の補償システムなどが整っていない場合、これらの企業国家としての経済システムが破綻して全てが停止状態に陥る。
聞いた話では北米複合産業共同体の代表者も強毒性インフルエンザに罹患した可能性があるらしく、一等市民が多く暮らしているエリアや富裕層向けのレストランなど上級国民向けの施設などが全て閉鎖状態に置かれているという。
これにより、北米複合産業共同体を動かしていた経済システムは確実に停止状態に陥っており、循環機関が停止してしまった状態が長引けば経済システムに「壊死」を起こす部分が出てくるだろう。
恐らく、最初こそはうまく凌ぎをしようと努力を行うかもしれないが、一番気掛かりなのはこれらの経済システムを保障してくれている「ドル」の通貨価値が一気に下落し、プロイセン王国との戦いの際にフランス側が仕掛けた贋金事件のように、通貨に対する保障が無くなった場合には援助してくれる国もいないため、システムそのものが瓦解する可能性がある。
こちら側が動くよりも先に、北米複合産業共同体の経済システムが瓦解した場合、各地域に残っている軍隊は果たして欧州協定機構軍に降伏するのだろうか?
軍閥化した場合には奥地に逃げ込む可能性もある。
いずれにしても、このインフルエンザによって情勢は一気に変わってしまったのである。




