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1080:ハリケーン

「オーギュスト様、何がまずいのですか?」

「……ああ、つい口に出してしまっていたようだね……いや、北米の方でハリケーンが発生していないか心配になったんだよ」

「……ハリケーン、大きな風や雨を引き起こす災害の事ですね?」

「そうだよ。カリブ海や北米大陸南部地域では毎年起こるけど、規模の大きいものになればその分勢力も増して大きな災害を引き起こす恐れがあるんだ。特に今、欧州協定機構軍が占領している地域というのはハリケーンが接近したり上陸したりする地域でもあるから、この地域でハリケーン由来の災害が発生した場合、その災害対応に現地部隊や食糧支援などを行わないといけない情勢になってしまうからね……今後の作戦に支障をきたす恐れがあるんだよ」


どうもついつい口走っていたようだ。

アントワネットは心配そうな顔で見ているが、大丈夫だと自信を持って言えない。

……こういう時の嫌な予感というのは大概が当たってしまうものだ。

そして、それが現実問題として降りかかってきてしまう。

国土管理局の職員が至急の要件があると言って報告をしてきてくれたのだ。


「陛下、お休み中の所失礼します。北米大陸に派兵しているフランス軍について、至急お伝えしたい事案が発生いたしました。デオン閣下がもうじき参ります」

「うん、分かった」


部屋に入ってきたデオンの表情はあまり芳しくない。

北米複合産業共同体の軍隊に敗走したか、敗れ去ったのか……はたまたハリケーンが直撃したのか……。

恐る恐る報告を伺った所、ハリケーンが直撃するよりはマシだったが、あまり喜べない内容でもあった。


「陛下、フロリダ州を中心に展開しているフランス軍ですが、集団で流感に似た症状の病によって兵士の間で感染が広がっております。これにより、北米大陸に展開しているフランス軍のうち、罹患した兵士が無視できない数に膨れ上がっており、これらの兵士の看病や対応を行っている者も多くおり、ポルトガル軍やスペイン軍などでも感染が確認されております」

「流感か……症状は重たいのか?」

「はい、最初は倦怠感が続くようですが、次第に一気に熱が出て咳きも激しいとのことです。先々月頃から感染が発生しており、当初は風邪として対応も感染症対策を行っていましたが……一部、この感染症対策を怠っていた兵士が複数名おり、それも他国の軍隊ではそうした感染症対策が不十分だったことも相まって感染による被害が拡大しているのが現状です」

「流感による感染拡大か……夏場は暑いが、マスクの徹底と手洗い、それから粘膜に触れないように指導するしか予防はできないな……」


この時期には珍しく、なんとインフルエンザが流行してしまったようだ。

インフルエンザとて、甘く見てはいけない。

稀に脳炎症状を発症することもあるし、基礎疾患のある人は重症化するリスクもある。

2020年に発生した新型コロナウイルスの方が、重症化リスクは高いが……この時代の流感は何と言っても予防薬ともいえるワクチンがまだ開発されていないのが実情だ。


感染症対策として、消毒液や発熱を緩和するハーブなどを用意しているが、それでも足りていないらしく、デオンが持ってきた報告書の中ではハーブ以外にも漢方薬でもインフルエンザに効果のある麻黄湯や、鎮痛作用のある葛根湯などの漢方薬の緊急輸送を要請してきたのである。

北米大陸でインフルエンザが流行しているということは、新型インフルエンザの可能性もゼロではないのだ。


(参ったな……全軍の一割とまではいかなくても、相応の数が行動不能になっているのは痛手だな……新型インフルエンザの場合は、スペイン風邪みたく免疫がないから感染者が増えてマズいことになるかもしれない……)


これが度々流行しているインフルエンザであれば、毒性はそこまで強くはないかもしれないが、感染力が高くて重症化と致死性が高い場合はかなりマズい。

元々スペイン風邪と呼ばれたインフルエンザも致死率が2~5%前後と言われているが、当時の世界人口の三分の一が罹患し、5千万人以上が死亡したとされている。

18世紀よりも医療技術が上がっていた20世紀初頭においても、それだけの被害を齎したのがインフルエンザでもあるのだ。


それに、スペイン風邪と言われているがその発祥とされるのがアメリカで流行していたのではないかと言われており、当時はまだ第一次世界大戦の最中であったためにアメリカではそこまで大きく報道されることなくスペインで流行したことからスペイン風邪と呼ばれるようになったと言われているのだ。


(もし、この時代の人達が経験していない新型インフルエンザが流行していたとなれば、これを持ち込むのはかなりリスクが高い……まだペストはネズミやノミが媒体になっているから極端な言い方をすれば目視できる病だが、インフルエンザは目に見えないから、風邪だと思っていたら一気に症状が出るからなぁ……油断ならないな……対策を講じなければ……)


すでに連絡船がサン=ドマングに向かっているそうだが、入港する際に一時的に停留してもらいインフルエンザの症状が出ている船員がいないかチェックを促しておくべきだろう。


「流感であれば、何度か流行しているが……この時期に流行するというのは珍しいな。普段であれば寒くなってくる10月頃が主流ではあるが……いずれにしても、もしこの流感がタチの悪い毒性が強い物で合った場合、人から人に感染拡大が広がる速度も早くなってくるだろう。デオン、陸海軍の大臣にも伝達を依頼したいのだが、頼めるか?」

「はい、何なりとお申し付けください」

「では……北米大陸南部で発生している流感への対策として、サン=ドマングの入港管理などを担っている者達にはマスクの着用を。それから自覚症状が出ている場合は原則として自室に待機。北米大陸で戦闘を行っているフランス軍部隊には感染症対策を徹底的に施行して感染拡大を防ぐように指示を出すこと。これがもし毒性の強いものであればヨーロッパで流行する可能性も高くなっていく。決して病を軽くみてはいけない。これで多くの兵士が感染・発症する事態になれば、後方支援要員を含めて作戦が成り立たなくなってしまうからね……」

「はい、直ぐに電報でお伝えいたします」


これがもし、この時代の人達が罹患したことがない新型インフルエンザであった場合、ヨーロッパに持ち込まれたらそれ相応の被害が出てしまうのは想像に容易い。

特に、感染症というものは人との繋がりがあれば国境など関係なく持ち込んでしまう。

インフルエンザの毒性がどのくらいのものなのか分からない現状では、感染力が高い場合は他の兵士や民間人に感染拡大を防ぐ手段を講じるべきであり、それから対処療法用として解熱剤として使用されている葛根湯や麻黄湯を輸送することになる。


最も、これらの漢方薬は白蓮教が支配している中国大陸からの輸入品が多く、原材料でも代用できるものはヨーロッパ地域で自生している近縁種で賄っているが、それでも今回輸送分を含めると……量は限られている。

本格的なパンデミックが発生した場合、対応は急務となるだろう。



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