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【完結済】伝説の「龍覚者」に覚醒した俺、大切な居場所を守るためなら手段を選ばない 〜始原の森から始まる、現代知識チートによる最強建国記〜  作者: シェルフィールド
3章:囚われの民と雷鳴の姫君 〜目覚める龍の紋章〜

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第97話:鉄の砦

冷たい。 全身を突き刺すような、石の床の冷たさ。 それと、錆びた鉄と、微かに血の匂いが混じり合った、淀んだ空気。


「……っ……」


重い瞼をこじ開けると、視界に映ったのは、松明の頼りない光に照らされた、苔むした石の天井だった。


手足が異様に重い。


ガシャリ、と鈍い金属音がして、自分が手足に重い枷をはめられていることを理解した。


魔力を練ろうとしても、体が鉛のように重く、力が全く入らない。魔力封じの、それも極めて強力な枷だ。


(私は……捕まったのか……)


記憶が急速に蘇る。フォルカス隊の痕跡を追い、廃村で発見した瀕死の少女。彼女を救おうとした瞬間、帝国兵に包囲された。公国への最後の通信……少女を瓦礫の奥に隠し、単身で応戦したが、多勢に無勢……そして、意識を失う直前に聞いた「ベスラ砦」という言葉。


(ここは……ベスラ砦の、地下牢……)


任務は失敗した。


その事実が、氷の杭となって私の胸を貫いた。公国の仲間たちの顔が脳裏をよぎる。レン公王、アリシア殿、カイル殿、ティアーナ殿……そして、何よりも守るべき我が主君、オリヴィア姫様。


(申し訳……ありません……)


姫様の信頼を裏切り、公国の貴重な戦力である私自身が囚われの身となった。騎士失格だ。いや、それ以前に、あの少女を見捨てていれば、あるいは……。 いや、と私はかぶりを振る。あの小さな命を見捨てることなど、オリヴィア様に仕える騎士として、断じてできなかった。あの選択に後悔はない。だが、結果としてこの様だ。


「……ん……」


私が身じろぎした音に気づいたのか、牢の向こう側で、番をしていたらしい二人の帝国兵が下卑た笑みを浮かべた。


「お、お目覚めかよ、女騎士サマ」


「無駄な抵抗しやがって。おかげでこっちも手間取ったぜ」


私は憎悪を込めて二人を睨みつけたが、彼らはそれを楽しむかのように、嘲笑を続けた。


「まあ、こいつも時間の問題だがな。それより聞いたか? あの先行してた斥候部隊、結局どうなったか」


「ああ、聞いた聞いた。こいつの仲間だろ? 哀れなもんだぜ」


(……! フォルカス隊のことか……!?)


「罠とも知らずに、まんまと誘い出されてな。隊長のフォルカスとかいう男、最後まで抵抗しやがったらしいが、結局は全滅だ」


「ガハハ! 無駄死にもいいところだ! これでドラグニアの残党も、また一つ減ったってわけだ」


全滅……。 その言葉が、私の頭の中で反響する。公国から、希望を胸に旅立ったはずの仲間たちが……。彼らの顔が、声が、脳裏に蘇る。彼らにも家族が、帰るべき場所があったはずだ。


(許さない……!)


奥歯を強く噛み締めると、鉄の味が口の中に広がった。


「だが、こいつは別だろ? ただの兵士じゃねえ。近衛騎士イリス・ヴァリエールだ。重要参考人として、上もかなり期待してるらしいぜ」


「ああ。なんでも、直々に尋問官様がお越しになるそうだ。公国の情報を根こそぎ吐かせるつもりらしい」


(尋問官……)


その言葉が意味するものを、私は知っている。帝国式の尋問。だが、それよりも私の心を凍りつかせたのは、兵士が続けた言葉だった。


「特に、あのゼノンとかいう狂った魔術師が言ってた、『龍覚者』の情報が欲しいらしい。なんでも、とんでもない力を持った奴らが、あの森に隠れてるって話だからな」


(龍覚者……! やはり、レン公王の力は帝国に……!)


ゼノンを逃したことが、これほど早く最悪の形で跳ね返ってくるとは。レン公王の存在が帝国に知られた今、エルムヘイムの平和は風前の灯火だ。


(なんとしても、この情報を公国に……いや、もう遅いのか……)


絶望が、再び私を暗闇に引きずり込もうとした。その時、兵士たちの会話が、さらに恐るべき内容へと移っていった。


「まあ、龍覚者だかなんだか知らねえが、どうせ時間の問題だろ。それより、ついに"鉄壁"のギデオン将軍閣下が動かれるそうだぜ」


「なに? ギデオン将軍が? あの方が動くってことは……まさか」


「ああ。あの『黒鉄鉱山』の件だ。もう、生かしておく価値も無くなったんだろうよ」


黒鉄鉱山……。


その名を聞いて、私の心臓が冷たく跳ね上がった。ドラグニア最大の鉄鉱山であり、帝国が占領してからは、最も過酷な政治犯収容所として使われている場所。そこには、王都陥落の際に捕らえられた、多くのドラグニアの重鎮たちが……騎士団の幹部たちが囚われているはずだった。


「あそこに囚われてるドラグニアの勢力……まだ数千は残ってたか? あれをどうするってんだ」


「決まってるだろ。全員『処理』(処刑)するんだとよ」


「全員!? マジかよ……」


「ああ。通達があったらしい。タイムリミットは、あと1カ月だそうだ。これで、面倒なドラグニアの残党も、やっと一掃だな」


(二週間……!? 黒鉄鉱山の同胞たちが……全員、処刑……!?)


フォルカス隊の全滅という絶望を、遥かに上回る戦慄が背筋を駆け抜けた。これは、ドラグニアという国家の、最後の息の根を止めるに等しい行為だ。


(ダメだ……!)


私の心の中で、何かが燃え上がった。


(私は、ここで死ぬわけにはいかない……!)


自らの命など、とうに姫様に捧げている。だが、この情報は違う。この情報を失うことは、ドラグニアの最後の希望を失うことだ。 私は、この情報を、何としてでも公国へ……レン公王とオリヴィア姫様へ届けなければならない!


私は、枷をはめられた手首を力任せに捻った。魔力は封じられていても、騎士として鍛え上げた筋力は残っている。だが、枷はびくともしない。それどころか、力を込めようとすると、枷に刻まれた文字が紫の光を発し、全身の力を奪っていく。


(くっ……! この枷は……!)


監視の目は厳しく、脱出の糸口はどこにも見えない。焦りと絶望が、再び私を苛む。


(誰か……)


仲間たちの顔が脳裏をよぎる。彼らならば、この状況をどう打開するだろうか。レン公王ならば、その規格外の魔法で。カイル殿ならば、その圧倒的な力で、この壁ごと……。


(……何を考えている。私は一人だ。彼らに頼ることはできない……!)


己の無力さを呪い、歯を食いしばった、その時だった。


ギィィ……と、地下牢の重い扉が開く、嫌な音が響いた。 番をしていた兵士たちが、慌てて直立不動の姿勢をとる。


「ご苦労。お前たちは下がっていい」


冷たく、理知的で、一切の感情を含まない声。 足音もなく入ってきたのは、高価な貴族服を身に纏った、痩身の男だった。その顔には、理知的だがサディスティックな笑みが浮かんでいる。


「尋問官様! お待ちしておりました!」


(……来たか)


尋問官は、兵士たちを下がらせると、松明の光の中で、牢の中の私を品定めするようにじっと見つめた。


「待たせたな、近衛騎士イリス・ヴァリエール」


彼は、持っていた鞄から、見たこともない形状の、魔力で淡く帯電した器具をいくつか取り出し、テーブルに並べ始めた。


「私は、君の口から、いくつかの『真実』を聞き出すために来た。特に……」


尋問官の目が、愉悦に細められる。


「あのゼノン様が報告していた、規格外の魔力を持つという『龍覚者』について……全て、話してもらおうか」


尋問官が、帯電した器具を手に、一歩、また一歩と、牢の中の私に迫ってくる。


万事休す。


私は、情報を守るため、そして騎士の誇りを守るため、最後の抵抗として、自らの舌を噛み切ろうと覚悟を決めた。


(姫様……レン公王……どうか、ご武運を……!)


私が奥歯に力を込めた、まさにその瞬間だった。


ドゴォォォォォン!!!


尋問官が持っていた器具が手から滑り落ちるほどの、凄まじい破壊音と地響きが、砦の地上から轟いた。


「な、何事だ!?」


尋問官が、冷静な仮面を崩し、驚愕の声を上げる。


「敵襲か!? 馬鹿な、この砦を攻撃する者など……!」


兵士たちの慌ただしい足音と怒号が、階段の上から聞こえてくる。


そして、その混乱を突き破って、一つの、獣のような咆哮が地下牢全体に響き渡った。


「イリスゥゥゥッ!!」


その声は、私が聞き慣れた、不器用で、粗暴で、それでいて……誰よりも仲間想いな男の声だった。


それが、鋼鉄の盾を構えたカイルだと認識した時、私の瞳から驚きと共に、絶望の淵から差し込んだ眩しすぎる希望の光に、涙が溢れそうになるのを、必死で堪えた。


(カイル……殿……!?)


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