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【完結済】伝説の「龍覚者」に覚醒した俺、大切な居場所を守るためなら手段を選ばない 〜始原の森から始まる、現代知識チートによる最強建国記〜  作者: シェルフィールド
3章:囚われの民と雷鳴の姫君 〜目覚める龍の紋章〜

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第78話:軍事都市の礎石

公王執務室の窓から差し込む、穏やかな午後の陽光が、テーブルの上に広げられた始原の森の巨大な地図を照らし出していた。


地図には、エルムヘイムを中心とした三つの候補地が、朱色の線で記されている。一つは抵抗軍の拠点となる軍事都市、もう一つは生産活動を担う生産都市、そして最後に鉱物資源の採掘を中心とする鉱山都市だ。


戦略会議で、俺が突如として提唱した「三都市同時建設」という壮大な国家計画。その計画の実現可能性は、今日、この場所で試されることになる。


この数日間、エルム公国の技術部門は休むことなく稼働していた。


「レン。転移門、複製完了しました!」


声の主は、俺の隣に立つティアーナだ。彼女の銀色の長い髪は、昨夜の徹夜作業のせいか、普段より少し乱れている。それでも、その深い青色の瞳は、成功の喜びと知的な好奇心に満ちてキラキラと輝いている。


「ティアーナ、ゴードンさん、本当にありがとう」


俺は心から感謝を伝えた。魔道具・古代技術の専門家であるティアーナ と、ドワーフの鍛冶師ゴードンさん の技術の粋が結集された結果だ。星脈鋼製の転移門の複製は可能であっても、これほど短期間で実現できるとは、俺の予想を超えていた。


「ふん。大したことじゃないわい。ティアーナのそもそもの設計が良すぎるだけじゃわい」


執務室の隅で、ゴードンさんが腕を組み、不機嫌そうな顔で嘯く。だが、その口元は僅かに緩んでいるのが見て取れた。


そしてティアーナが指差す先に新たに作成された設置された転移門が静かに佇んでいた。


「これで、首都エルムヘイムと、軍事都市の建設予定地が直結される予定です。この門を、予定地の心臓部に設置すれば、資材や兵員、情報の迅速な移動が可能となります」


ティアーナが誇らしげに言う。この転移門こそが、俺が提唱する三都市同時建設を「非現実的」から「可能」に変える、物流の革命であり、技術的な根幹なのだ。


「よし」


俺は立ち上がり、周囲に目をやった。今日の現地視察には、俺たち公国の中核メンバーと、新たに加わったドラグニアの指導部が同行する。


騎士団総長セレスティーナ。魔術師団長ジュリアス。そして、旧王国の頭脳であった文官アルバート卿。彼らは、数千の民と兵を率いてきたリアリストだ。彼らがこの計画に心から賛同しなければ、公国軍は一枚岩とはなり得ない。彼らが抱く「非現実的ではないか」という懸念 を、今日、この場で打ち砕く必要がある。


「セレスティーナ殿、ジュリアス殿、アルバート卿。準備は整いました。それでは、参りましょう」


俺は、先行して予定の場所に設置してきた転移門を起動させ、改めてエルムヘイムから軍事拠点に向けて、蒼い光を帯びた空間へと、迷いなく足を踏み入れた。



◇◇◇



空間が歪む独特の浮遊感の後、俺たちの足元には、ざらついた土の感触が戻ってきた。


「…………」


到着した俺以外の人たちは、息を呑んだ。目の前に広がる光景は、実際に目にするとその過酷さが際立っていた。


そこは、戦略的には優れているが、建設には極めて不向きな場所だった。岩盤が広範囲に露出し、大小の起伏が不規則に連なっている。この起伏を平坦にし、建設に適した土地にするだけでも、数千の人間と数ヶ月の工期が必要となるだろう。セレスティーナたちが懸念を抱くのも無理はない。


先に転移していたカイルが周囲を警戒しながら、眉をひそめた。


「すげえ場所だな、レン。こりゃ、防衛には良さそうだが、整地が大変そうだぜ」


「……この規模の造成を、同時建設の速度に合わせて行うのは、常識的に不可能に近い」


魔術師団長ジュリアスが、冷静に、しかし厳しい口調で呟いた。老練な彼の言葉は、重みを持っていた。


「通常であれば、その通りです、ジュリアス殿」


俺が応える。だが、その隣で、ティアーナが手に持つ探査結晶を、周囲の岩盤にかざしていた。


「レンさん、ちょっとよろしいでしょうか」


ティアーナの声に、俺は皆との会話を中断し、彼女の元へ歩み寄った。


「どうした、ティアーナ。何か、まずいものでも?」


「いいえ、逆ですわ」


彼女は興奮を隠せない様子で、青い瞳を輝かせた。


「この地の岩盤に流れる地熱を解析したのですが……この軍事都市予定地のすぐ北側、あの岩山を越えた窪地の先に、極めて高い地熱反応と、豊富な水脈を確認しました。そのマナのパターンは、エルムヘイムの『エルムの湯』の源泉の波動に酷似しています。温泉、あるいはそれに匹敵する温かい水源が存在する可能性が、非常に高いですわ」


「ティアーナ、素晴らしい発見だ!幸先が良いな!」


「ふふ、ありがとうございます。この地熱と水脈を効率的に利用できれば、軍事都市のインフラも格段に向上します。兵舎の温水供給や、療養施設の設立に役立てられますわ」


俺は、この発見を、インフラ計画の最優先事項とすることを、即座に決断した。



◇◇◇



ティアーナの発見に一瞬の希望が灯ったが、現実的な課題は目の前にそびえ立っていた。


「レン公王」


静かに、騎士団総長セレスティーナが前に進み出た。彼女の銀髪はポニーテールにきっちりと束ねられ、その青い瞳には、周囲の状況を鋭く分析する光が宿っている。


彼女の視線は、俺たちが転移してきたばかりの転移門に注がれていた。門は、今や広大な荒野に立つ、唯一の人工物となっている。


「まずは、この転移門の存在が、この計画の最大の脆弱性となることを指摘させていただきます」


彼女は淀みなく、冷徹な分析を始めた。


「この門は、我々にとっての生命線であり、資材の供給路であり、撤退路でもあります。しかし、敵がこの座標を突き止め、万が一、この門を奇襲によって制圧した場合、首都とこの拠点が一瞬にして麻痺します。門の破壊は、国家計画そのものの破綻に繋がる」


彼女の言葉は、図星だった。転移魔法の利便性は、裏を返せば、一カ所に依存する集中リスクでもあった。


「そのため、二点、提案させていただきたい」


セレスティーナは、俺を真っ直ぐに見据えて言った。


「一点目。この門は、軍事的な最重要施設として、首都側とこの拠点の双方に、訓練された兵士による監視と防衛部隊を常時配置させてください。特にこの拠点側は、抵抗軍の精鋭を投入し、いかなる時も防御を解きません」


「二点目。拠点構築の基本方針です。この転移門を、単なる出入り口ではなく、この軍事都市の心臓と定めるべきです。門を中心に、兵舎、訓練場、資材庫を防衛線で囲み、防御体制を門から放射状に展開する。これにより、門の防御を最優先とする、明確な指揮系統を確立します」


彼女の提案は、軍事最高責任者として極めて合理的 であり、この計画の成功に不可欠なものだった。


「承知した、セレスティーナ殿」


俺は、即座に頷いた。


「あなたの提言は全て、この公国の防衛の根幹に関わるものだ。直ちに抵抗軍の兵士たちを配置し、防衛体制を確立してください」


セレスティーナは、俺の即決に、騎士としてわずかに満足げな表情を浮かべた。



◇◇◇



転移門の警備体制は決まった。だが、根本的な問題は残っている。目の前の、荒れた土地をどうするかだ。


「公王、警備体制は理解いたしました。しかし、本題に戻りますが」


ジュリアスが、再び口を開いた。


「この広大な敷地を整地するには、膨大な資材、労働力、そして何よりも時間がかかります。仮に数千の兵士を建設に回したとしても、数ヶ月の工期は避けられない。その間、彼らを訓練させ、防衛線を構築させるという総長殿の計画と、他の二都市の同時建設は、物理的に両立し得ません。我々も、通常の建築技術、魔法技術の限界を知っています」


「ジュリアス殿の言う通りです」


アルバート卿 も、その瞳で現状の困難さを指摘する。


「計画の理想は分かりますが、現実的なリソースの制約があります。」


彼らの懸念は、常識に基づいたリアリズムそのものだ。彼らがこの計画に懐疑的である限り、俺たちの計画は、砂上の楼閣に過ぎない。


(彼らの常識を、打ち破らなければならない)


俺は、深呼吸した。この国家計画の根幹は、俺が持つ規格外の魔力、すなわち龍覚者の力 を前提としている。それを、言葉ではなく、現実として示さなければ、彼らの心は動かない。


俺は、広大な建設予定地の中央へと歩み出た。


「懸念はごもっともです。ですがこの国家計画は、その壁を越えていかなければいけません。」


俺は、そう宣言すると、両手を大地へと、ゆっくりと、しかし確かな動作でかざした。


体内の龍覚者の紋章に宿る膨大な魔力 が、俺の意志に呼応して解放され始める。その奔流のような力が、体内の魔力回路を駆け巡り、土魔法の術式へと瞬時に変換されていく。


無詠唱。ただイメージする。


ゴゴゴゴゴ……!!


大地を揺るがす、天変地異にも似た轟音が響き渡った。俺の掌から溢れ出した強大な魔力が、地面へと注ぎ込まれていく。


周囲の岩盤が、まるで粘土細工のように柔らかな音を立てて砕け、大小の起伏 が、意思を持つかのように押し潰され、平らに均されていく。


凄まじい風圧と粉塵が舞い上がり、セレスティーナやジュリアスたちは思わず目を閉じてその衝撃に耐える。


風と粉塵が収まった時、そこには、信じられない光景が広がっていた。


広大な、数千人が数ヶ月の工期を要するはずだった敷地が、まるで巨大な定規で削り取られたかのように、完璧に整地された巨大な軍事拠点の建設予定地へと変貌していた。岩盤は砕かれ、土は緻密に圧縮され、建物の基礎を置くのに何の障害もない、理想的な土地基盤が完成していた。


静寂。


その場にいた全員が、呆然と立ち尽くしていた。


俺は、整地を終えたことで、少しだけ体内の魔力が消耗したのを感じたが、龍覚者の膨大な魔力量 からすれば、問題ない。汗一つかかずに、立ち上がった。


最初に動いたのは、騎士団総長セレスティーナだった。彼女は、理知的な青い瞳を大きく見開き、その目で、整地された広大な土地の端から端までを、何度も確認した。彼女のリアリストとしての計算は、完全に打ち砕かれた。


「…………まさか」


彼女の、氷のような冷静な仮面 が、初めて崩れ去った瞬間だった。


「ジュリアス殿、アルバート卿……。この造成速度、そしてこの完成度……。これは、人間の技術ではない」


老魔術師ジュリアスは、白髭を震わせながら、感嘆の息を漏らした。


「……ま、まこと、神業。これほどの土魔法を、無詠唱、かつこの規模で実現するなど……! 伝承に聞く……。レン公王、我々の常識は、あなたの前では、まるで意味をなしませんな」


ジュリアスは、魔法の真髄を知る者として、俺の力に畏敬の念を抱いていた。


アルバート卿も、一歩前に進み出ると、深々と頭を下げた。


「恐れ入りました、レン公王。この造成能力、転移門による物流革命 と組み合わせれば、三都市の同時建設は、もはや空論ではない。工期の短縮は、我々が想定していた制約を完全に凌駕する。これなら、抵抗軍の兵士を訓練と防衛に専念させつつ、建設を並行して進めることが可能です」


三都市同時建設の実現が、ここに、規格外の力によって承認された瞬間だった。



◇◇◇



懐疑心が確信へと変わったのを確認し、俺は、セレスティーナに向き直った。


「セレスティーナ殿」


俺の声には、公王としての、そして一人の仲間としての揺るぎない信頼 が込められていた。


「これで、軍事都市の建設は、直ちに開始できます。この都市は、帝国との戦いを制するための公国の要であり、ドラグニア抵抗軍の再編と訓練を担う場所です。そして何より、あなた方、ドラグニアの民の新しい希望となる場所だ」


セレスティーナは、俺の言葉を、静かに、しかし全身で受け止めていた。


「よって、俺は、この軍事都市の立ち上げと運営、そして防衛体制の全てを、あなたに総責任者として一任したい」


周囲の空気が再び張り詰める。カイルやアリシア、ティアーナ、そしてオリヴィアも、固唾を飲んでセレスティーナの返答を待っていた。


セレスティーナは、一瞬だけ目を閉じた。祖国を失った騎士 としての自責の念。そして、数千の民の未来を託された指揮官としての重責。その全てを飲み込み、彼女はゆっくりと目を開けた。


「レン公王。この規格外の力を目の当たりにした今、わたくしにこれ以上の躊躇はありません」


彼女は、氷のように澄んだ青い瞳で、俺の目を真っ直ぐに見つめ返した。その瞳には、もはや懐疑心 の影はなく、鋼のような決意 が宿っていた。


「その大役、謹んで拝受いたします。この都市は、帝国に対抗するための公国最強の剣と盾にしてみせましょう」


「ありがとう、セレスティーナ殿。では、この都市をどう呼ぶか、その名前も決めてほしい。まだ形もない都市ではあるが」


セレスティーナは立ち上がり、整地された広大な土地を見渡した。そして、騎士としての誇りと、亡国の民への誓いを込めて、静かに、しかし力強く提案した。


「はい。この拠点は、公国の絶対的な防衛線となる要塞です。ゆえに、その名は『アイギス・フォート』を提案します。帝国がどれほど強力であろうと、我々の盾は決して崩れません。」


その言葉は、彼女の内なる炎と民への愛を感じさせるものだった。


そして彼女は、直ちに指揮官へと戻った。その声は、広大な整地された敷地全体に響き渡るほど、力強く、そして確信に満ちていた。


「アルバート卿、ジュリアス殿。整地は完了いたしました。兵を呼び寄せ、転移門をこの拠点の中心とし、周囲に資材を一時集積、即座に兵舎と訓練場の配置を開始してください。抵抗軍の兵士たちを召集し、直ちに転移門を中心とした防衛線の構築を進めます。」


彼女の即座の采配に、ジュリアスやアルバート卿も、長年の経験から頷き、その場から行動を開始した。



◇◇◇



俺は、セレスティーナの背中を見つめながら、新たな一歩を踏み出したことを実感した。


彼女は、俺たちにとって最高の軍事最高責任者 になるだろう。


「レン」


隣に立ったアリシアが、俺の手にそっと自分の手を重ねてきた。その温かい体温が、俺の消耗した魔力を癒していく。


「これで、軍事都市の立ち上げが、本当に始まったんだね」


「ああ、始まった」


俺はアリシアの髪を優しく撫でた。


その隣で、ティアーナが探査結晶 を空にかざし、温泉の座標を精密に計測している。


「レンさん。温泉の源泉確保と、生産都市への転移門複製も急ぎましょう。三都市同時進行 を実現させるには、立ち止まる暇はありませんわ」


彼女の青い瞳は、既に次なる課題へと向かっている。


「そうだな、ティアーナ。君のその知性と技術が、この国の骨格を作るんだ。頼むぞ」


「はい!」


遠く、整地されたばかりの広大な敷地の中心で、セレスティーナが部下たちに指示を出す、凛とした声が聞こえてくる。オリヴィアとイリスも、興奮と希望を瞳に宿し、その指示に従い始めている。


(俺には、最高の仲間がいる。そして、俺が持つこの力は、不可能を可能にする希望の光 だ)


揺るぎない決意を胸に、広大な大地を見渡した。


エルム公国の未来、そして大陸全体の命運を左右する、三都市同時建設という壮大な国造りの物語 は、今、この軍事都市の礎石の地から、力強く始動したのだ。


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