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【完結済】伝説の「龍覚者」に覚醒した俺、大切な居場所を守るためなら手段を選ばない 〜始原の森から始まる、現代知識チートによる最強建国記〜  作者: シェルフィールド
2章:星脈の鍛冶師と亡国の姫君 〜始原の森に集う新たな絆〜

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第45話:絶望の触媒

「ふむ……やはり、この星脈鋼は魔力の伝導率もさることながら、この粘り強さと硬度……まるで生きとるかのようじゃ」


工房の中央に据えられた巨大な金床の上で、神秘的な蒼い光を放つ金属塊を前に、ゴードンが唸るような感嘆の声を漏らした。それは、俺たちが持ち帰った金属、星脈鋼。その表面には、まるで夜空の星々を閉じ込めたかのように、無数の光の粒子が明滅している。


「ええ。私の解析でも、この鉱石はマナに対して極めて高い親和性を示すと同時に、非常に安定した構造を保っています。これをフレームの主軸に組み込めば、転移門は規格外の魔力奔流にも耐えられるはずです」


ゴードンの隣で、ティアーナが目を輝かせながら分厚い羊皮紙の設計図を広げていた。彼女の銀色の髪はきつく結い上げられ、その横顔は魔道具師としての純粋な探求心と喜びに満ちている。故郷を失った悲しみが消えたわけではない。だが、この村で得た新たな目標が、彼女に前を向く力を与えていた。


「問題は、この金属をどう加工するか、じゃな。今使っている炉を使ったとしても、完全に溶解させるのは至難の業じゃろう」


「そこは、俺の魔法でサポートしますよ、ゴードンさん」


炉の火の番をしながら二人の議論を聞いていた俺は、自信を持って言った。


「俺の火魔法なら、溶かせるはずです。それに、加工の際の精密な温度管理も任せてください」


「ふん、頼もしいことを言うわい。だが、お前さんの力があって初めて、この計画は現実味を帯びる。」


ゴードンはぶっきらぼうに言いながらも、その口元には不敵な笑みが浮かんでいた。種族も年齢も違う三人の技術者が、一つの目標に向かって知恵を出し合う。この工房は、未来を創造する心臓部となっていた。


「レン、ティアーナさん、ゴードンさん! お疲れ様! 少し休憩しない?」


工房の扉が開き、籠を抱えたアリシアがひょっこりと顔を出した。彼女の周りだけ、鉄と油の匂いが満ちた工房の空気が、ふわりと変わったような気がする。


「おお、アリシアか! いいところに来た!」


「ふふ、カイルお兄ちゃんが『腹が減って戦はできん!』って騒いでたから、皆さんの分もサンドイッチを作ってきたの」


「気が利くじゃねえか、アリシア! さすが俺の妹だ!」


休憩のために奥から出てきたカイルが、早速サンドイッチに手を伸ばす。その光景に、工房に満ちていた緊張感が和らぎ、皆から笑みがこぼれた。


俺たちの日常。それは、厳しい現実と、こんな風に温かい時間が隣り合わせに存在していた。


「ティアーナさん、どうぞ。今日は温室で採れたばかりの月光草を挟んでみたんです。少し苦味があるけど、疲労回復に効くんですよ」


「ありがとうございます、アリシアさん。いつもすみません」


「ううん、気にしないで! ティアーナさんが頑張ってくれるおかげで、村の生活がどんどん良くなってるんだから。私にできるのは、これくらいだもの」


アリシアとティアーナ。種族も育った環境も違う二人が、今では本当の姉妹のように打ち解けている。アリシアはティアーナの聡明さを尊敬し、ティアーナはアリシアの太陽のような優しさに心を開いていた。


俺は、そんな仲間たちの姿を見ながら、胸の奥が温かくなるのを感じていた。洞窟でアリシアと想いを確かめ合ったこと。そして、彼女から託されたティアーナへの想い。答えはまだ出せない。だが、このかけがえのない日常を守りたいという気持ちは、日に日に強くなっていた。


「よし、腹ごしらえも済んだことだし、作業再開じゃ!」


ゴードンが力強く宣言する。


「ティアーナ、まずはこの星脈鋼の性質をより正確に把握する必要がある。お主の魔力で、内部のマナの流れを読み解くことはできるか? それが分かれば、さらなる加工の糸口が見つかるやもしれん」


「はい、やってみます」


ティアーナは頷くと、サンドイッチを丁寧に食べ終え、再び星脈鋼の前に立った。彼女は深呼吸をし、その美しい顔に真剣な表情を浮かべる。


「レンさん、アリシアさん、少しだけ工房内を静かにしていただけますか。精密な魔力操作が必要になりますので」


「ああ、分かった」


「うん、頑張ってね!」


俺とアリシア、カイルは息を殺して見守る。ゴードンも、腕を組んで固唾を飲んでいる。

ティアーナはそっと目を閉じ、白く繊細な両手を、蒼く輝く星脈鋼へとゆっくりとかざした。彼女の体から、エルフ特有の清冽で、緻密な魔力が流れ出し、星脈鋼へと注ぎ込まれていく。鉱石の性質を探り、その魂と対話するかのような、高度な魔力操作だ。


星脈鋼は、ティアーナの魔力に呼応するように、その輝きをゆっくりと強めていく。工房の壁に、星空のような美しい光の紋様が映し出された。


「すごい……なんて美しい……」


アリシアが、うっとりと呟く。


「ああ……マナの流れが、見えるようだ……」


俺もその光景に魅入られていた。ティアーナの魔力が、星脈鋼の内に秘められた古代の力を引き出している。それは、希望の光そのものに見えた。

だが、その希望は、次の瞬間、絶望へと反転した。


「……あっ……!」


ティアーナが、か細い声を上げた。

その瞬間、星脈鋼が、それまでの穏やかな輝きとは全く異なる、禍々しい紫色の閃光を放ったのだ!


工房全体が、強い圧力に包まれる。俺やカイル、ゴードンは、その圧力に「ぐっ…!」と息を詰まらせるだけだったが、星脈鋼に直接魔力を注ぎ込んでいたティアーナへの影響が一番大きかったのかもしれない。


「ティアーナ!!」


俺が叫んだのと、彼女が糸の切れた人形のようにその場に崩れ落ちたのは、ほぼ同時だった。


星脈鋼の光は、何事もなかったかのように元の穏やかな蒼い輝きに戻っている。だが、床に倒れたティアーナは、ぴくりとも動かない。


「おい、ティアーナ! しっかりしろ!」


俺が真っ先に駆け寄り、彼女の体を抱き起こす。


「ひどい顔色だ……! 息も浅いぞ!」


「ティアーナさん!」


俺とアリシアも駆け寄った。ティアーナの顔は蒼白で、唇からは血の気が失せている。彼女の体からは、生命力そのものが急速に失われていくのが、魔力感知で手に取るように分かった。


「アリシア、回復魔法を!」


「うん! ハイヒール!」


アリシアが必死に回復魔法を発動させる。温かい光がティアーナの体を包み込む。だが、信じられないことが起こった。アリシアの癒しの光は、ティアーナの体に触れた瞬間、まるで水滴が熱い鉄板に落ちたかのように、ジュッという音を立てて霧散してしまうのだ。


「そ、そんな……! どうして……!? 魔法が、効かない……!」


アリシアが絶望に顔を歪ませる。俺も自分の回復魔法を試すが、結果は同じだった。彼女の体そのものが、癒しの力を拒絶しているかのようだ。


「一体、何が起こったんじゃ……!? あの金属は、ただの鉱石ではなかったというのか!?」


ゴードンが、戦慄に声を震わせる。


俺は、ティアーナの体を注意深く観察した。そして、気づいてしまった。彼女のエルフの象徴である、白く美しい長い耳。その先端に、黒ずんだ植物の蔓のような、不気味な紋様が薄っすらと浮かび上がっていることに。


それは、まるで呪いの刻印のようだった。



◇◇◇



ティアーナが倒れたという報せは、瞬く間に村中に広がり、静かな動揺を生んだ。特に、彼女を族長として慕うエルフたちの悲しみと不安は計り知れない。


俺たちはティアーナを俺の家に運び、アリシアがつきっきりで看病にあたった。薬草を煎じた薬湯を飲ませようとしても、彼女はそれを飲み下すことさえできない。ただ、浅い呼吸を繰り返し、時折苦しげに眉をひそめるだけだった。耳に浮かんだ紋様は、時間と共に少しずつ、しかし確実にその色を濃くしていく。


「どうしよう、レン……。このままじゃ、ティアーナさんが……」


アリシアは、涙を浮かべて俺の服の袖を掴んだ。彼女は自分の回復魔法が効かないことに、深い無力感を覚えていた。


「……必ず、何か方法があるはずだ」


俺は彼女を励ましながらも、内心では激しい焦りと自責の念に駆られていた。


(俺が、あの星脈鋼を持ち帰ったからだ。俺が、ティアーナに解析を頼んだからだ……! 俺の判断ミスが、彼女を……!)


盟主として、仲間を危険に晒してしまった。その事実が、重い枷となって俺の心にのしかかる。


万策尽きた俺は、盟主として、村にいるエルフの長老たち――シルヴァンの郷から生き延びた、知識深い者たち――を緊急に招集した。場所は俺の家の、ティアーナが眠る隣の部屋だ。


集まったのは、三人。いずれも深い皺を刻み、長い年月を生きてきたであろう賢者の風格を漂わせている。だが、彼らの顔にも、ティアーナへの心配と、これから語られるであろう事柄への恐れが浮かんでいた。


俺は、事の経緯と、ティアーナの症状――特に、耳に浮かんだ奇妙な紋様――について、詳細に説明した。


俺の説明を聞き終え、アリシアがティアーナの耳の紋様をスケッチした羊皮紙を長老たちに見せた瞬間、その中の一人、シルヴァンの郷で古代伝承の語り部を務めていたというリオンという名の老エルフが、息を呑み、恐怖に顔を青ざめさせた。


「そ、その紋様は……! まさか……! まさか、この時代に再び現れるとは……!」


彼の震える声に、他のエルフたちもざわめき立つ。


「リオン殿! それは、一体……!」


「おお……神々よ……! 幾年も前に、我らが祖先が根絶したはずの、魂の呪い……!」


リオンは、震える手で羊皮紙を受け取ると、ゆっくりと、しかしはっきりとした声で、その病の名を告げた。


「『霊気の枯渇れいきのこかつ』……我らエルフ族の中でも、最も古い血筋の者だけを蝕む、古の魂の病じゃ……」


工房にいた全員が、その言葉に息を呑んだ。


「魂の……病……?」


「左様」


リオンは重々しく頷いた。


「我らエルフは、森羅万象に満ちる霊気…いわば世界の生命力そのものと魂を繋ぐことで、長い寿命と魔力を得ておる。じゃが、ごく稀に、その繋がりが強すぎる血筋の者が生まれる。ティアーナ様は、まさにそのお方じゃった……」


彼は、一族に伝わる禁忌の伝承を語り始めた。


神話の時代、地に落ちた「星の欠片」――すなわち星脈鋼――は、大いなる魔力を与える反面、その強すぎる魔力波が、古い血筋のエルフの魂と世界の繋がりを乱し、逆に生命力を枯渇させてしまう猛毒として作用したことがあったのだという。耳に浮かんだ紋様は、霊気との繋がりが断たれ、魂が枯れ始めている証なのだと。


「星脈鋼は、我らにとって希望の金属であると同時に、一部のエルフにとっては呪いの触媒でもあったのじゃ。だからこそ、我らが祖先は『星の傷跡』を禁忌の地とし、深く関わることを避けてきた……。その伝承も、儂も忘れるほど昔のおとぎ話かとおもっていたが……まさか、こんな形で……」


リオンは、悔しそうに唇を噛んだ。


「では、ティアーナを救う方法はないのですか!?」


アリシアが、悲痛な声で問い詰める。

リオンはしばらく黙っていたが、やがて、かすかな希望を口にした。


「……治療法は、儂が子供のころに聞いたおとぎ話に出てきた。」


彼は、部屋の隅で静かに祈りを捧げていたエルフたち、そして俺たち人間を見回し、覚悟を決めたように言った。


「シルヴァンの郷の、さらに奥深く……一族の中でも、儂のような年配の者しかその場所を知らぬ聖地がある。『星涙のせいるいのいずみ』……神話の時代に、慈愛の星が地上を憂いて流した涙から生まれたとされ、あらゆるエルフの病を癒し、穢れた魂を浄化する力を持つという、伝説の泉じゃ」


「星涙の泉……!」


「ティアーナ様を救う唯一の方法は、彼女をその泉に運び、聖なる水でその身を清めること。じゃが……」


リオンの表情が再び曇る。


「その泉に至る道は、郷の惨劇以降、さらに危険な魔物の巣窟と化しておるやもしれん。それに、衰弱しきったティアーナ様が、その長旅に耐えられるとは、到底……」


絶望的な状況。しかし、唯一の希望。


俺が彼女をこんな目に遭わせてしまったのだ。俺が、必ず助けなければならない。


俺は立ち上がり、長老たち、そして仲間たちに向かって宣言した。


「ティアーナは、俺たちが必ず助けます」


その声には、盟主としての、そして一人の仲間としての、揺るぎない決意が込められていた。


物語は、絶望の淵に差し込んだ、かすかな希望の光と共に、次なる試練の幕開けを告げるのだった。


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