第50話 決着
音瀬が学校に来れるようになってから、数日が過ぎた。
元通りとまでは行かないが、教室では動画の件をあからさまに話題にする奴はいなくなった。
俺が音瀬と常に一緒に居るっていうのもある。
それに、俺も音瀬と居るお陰で人に囲まれなくなった。
今はとても快適に過ごせている。
そんなある日の放課後、俺は図書室に来ていた。
ドアが開いて、柏木先輩が入って来た。
「藤真君どうしたの? こんな所に呼び出して」
「先輩に聞きたい事があって……」
「何?」
「動画の件……そう言えば分かりますよね?」
「あぁ、あの動画ね。私も見たけど、酷いよね……」
先輩はそう言って、悲しそうに下を向いた。
「……それ、本気で言ってんの?」
「え?」
「アレ、お前がやったんだろ?」
静かな図書室に、俺の声だけが落ちた。
「な、何を言ってるの? あ、なんか音瀬さんに言われた?」
「音瀬は何にも言ってない」
「じゃあ、何で私? 証拠もないでしょう?」
俺はスマホを操作して、ある画像を見せた。
「この腰の特徴的な黒子、見覚えあるだろ?」
写真の女性の腰には、ゆえに記号(∴)のように並んだ黒子が写っていた。
「……だから、何? それが私だって言いたいの?」
先輩はまだ余裕な態度を崩さない。
ここまで出してるのに、まだ証拠がないと思ってるのか……。
尊敬してる先輩だったのに……残念だ。
「証拠があるに決まってんだろ」
「あるなら、早く出してみなさいよ! どーせ無いんでしょ?」
先輩は勝ち誇ったように笑う。
俺はスマホを操作して、一つの動画を再生した。
そして、先輩に見えるように目の前にスマホを出してやった。
「これ、アレでしょ? 音瀬さんの……待って。……どうして。どうして、これをアンタが持ってるのよ!」
やっと崩れたか。
俺は表情を変えずに言った。
「この元動画、どこで手に入れたと思います?」
俺の言葉に何か心当たりがあったのか、先輩は目を見開く。
「……まさか。まさか、まさか!」
「絢斗先輩に貰ったんだ」
「何で絢斗がアンタなんかに……」
──数日前。
『おい』
振り返ると、絢斗先輩が立っていた。
顔にはまだ、殴られた跡が残っている。
『何の用だよ。こっちは忙しいんだ』
無視して通り過ぎようとしたその時、スマホが胸に当たった。
『雅の動画の件だろ?』
画面を見て、息が止まった。
『……これって』
『……借りは返す』
先輩はぶっきらぼうにそう言った。
「最初は疑ったよ。でも、あの人なりにケジメつけたかったんだろ」
「……何で? あのクズ……どこまでもクズね……」
「絢斗先輩が言ってたよ。黒子が特徴的だから、すぐに分かったって。顔は加工しても、身体まではしてなかったみたいだな」
「……っ!」
「もう、言い逃れ出来ねーぞ!」
「……はは。だって、あの子が佐藤君を傷付けたから」
先輩はポソリとそう言うと顔を上げた。
「だって、あの子が私の大切な人を傷付けた! だから、仕返ししてやったの!」
「佐藤って……佐藤 律の事?」
「そうよ! 佐藤君と委員会が一緒になってから好きだった。それなのに、あの女……」
だからか……。
だから音瀬はもういいって言ったのか。
……でも、先輩はやり過ぎた。
「どんな理由があろうと、先輩はやっちゃいけない事をした」
「でも……でも、許せなかった……」
気付いた時には、先輩の胸ぐらを掴んでいた。
「それで人が死にかけたんだよ!」
「え?」
先輩は驚いたように、目を見開いた。
……っ。
俺はすぐに手を離した。
「音瀬も悪い……でもな」
拳に力が入る。
「そこまでされるような事、したかよ!」
先輩は気まずそうに視線を逸らした。
「音瀬がもういいって言っても、俺は許さない」
先輩はその場に崩れ落ちた。
「二度と音瀬に関わるな。……次は、ない」
俺はそう忠告をして、図書室を後にした。




