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CHERRY─彼女が狩人になった理由─  作者: 彩心
第二章 二学期

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第48話 それでも

 唇を放して「はぁ」と息をする。


 すると音瀬がクスリと笑った。


 「何?」


 「いや、ちゃんと息してたのかなって」


 「お前、昔の事を……」


 俺は音瀬を軽く睨んだ。


 「はは、ごめんごめん……なんか、気恥ずかしくてさ」


 音瀬は恥ずかしそうに笑った。


 けど、その目はまだ少し赤かった。


 「……ねぇ、朝陽君」


 「ん?」


 「私、学校行けるかな……」


 「動画の件か……」


 犯人はまだ分からないし、動画だって消えたわけじゃない。


 「どうするかな……」


 本当にどうしてやろうか?


 ここまで音瀬を追いつめたんだ、犯人を見つけたらそれ相応のむくいは受けてもらわないと……。


 「朝陽君、顔怖いよ」


 「え? あ、ごめん。犯人にムカついて……」


 「そっか……朝陽君、私のために怒ってくれるんだ……」


 「当たり前だろ!」


 「そっか……そっかぁ……」


 「どうしたんだよ?」


 「朝陽君が怒ってくれるなら……もういいかな」


 「は!? 何でだよ!」


 「私も悪いから……私がクズだった結果だから……」


 「……それでも、自分壊されて納得すんのかよ」


 音瀬は諦めたように笑った。


 「私、犯人知ってるの」


 「は?」


 「その人に言われたんだ。『人を傷つけて、何様のつもりだ』って……」


 「それは……」


 言いかけて、止まった。


 『自分が傷つけられたからって、他人を傷つけるのは違うだろ……』


 前に自分が口にした言葉が、ふと頭をよぎった。


 「違う」と言いたくても言えない……。

 

 「本当にその通りだと思った。自業自得だし、証拠もないし……」


 「……違うだろ」


 「もういいの……」


 「え?」


 「もういいの」


 音瀬はそう言って俺の目を見つめてきた。


 「……分かったよ」


 今はそう返事を返した。


 音瀬は俺の返事に満足したのか、笑って俺の胸に顔をうずめてきた。


 甘えてくる音瀬は可愛いが、頭の中はそれどころじゃない。


 音瀬が許しても、俺には関係ない。


 あの時、俺は何も出来なかった。


 だから今度は──


 絶対に、終わらせる。


 俺の中でもう答えは決まっていた。


 そんな中、音瀬がポツリと言った。


 「……でも、学校……やっぱり怖いかも」


 さっきよりも、少しだけ小さい声だった。


 俺は一瞬だけ言葉を探して、それから口を開いた。


 「じゃあさ」


 「え?」


 「無理に行かなくてもいいんじゃね?」


 「……え?」


 音瀬が顔を上げる。


 驚いたような目だった。


 「だって、今の状態で行ってもキツいだろ。無理してまた追い詰められても意味ないし」


 「でも……休んでたら、そのまま行けなくなりそうで……」


 「なら、俺と行けばいい」


 「……え?」


 「俺が一緒に行く。教室も、廊下も、全部」


 自分で言っておいて、少しだけ恥ずかしくなって視線をらす。


 けど、続けた。


 「何か言われたら、俺が前に出る。そのために髪を切ったようなもんだし」


 「髪を切ったのって……」


 「音瀬を守るって決意表明……かな」


 「……私ね、少し嫉妬したの。朝陽君の顔、私しか知らないはずだったのにって」


 「え?」


 「朝陽君がかっこいいって誰にも知られたくなかった」


 「え、音瀬、俺の事かっこいいと思ってるの?」


 「思ってるよ」


 「いや、反応薄かったから何とも思ってないのかと思った」


 音瀬が呆れたように笑う。


 「朝陽君はいつでもかっこいいよ」


 音瀬のその言葉に、俺の顔は熱くなった。


 「……ありがとう」


 「朝陽君が照れてる……その顔は私しか知らないね」


 そう言った音瀬の表情は、さっきよりも少しだけ軽くなっていた。


 「……そうだな。音瀬しか知らないかもな」


 音瀬は満足そうに笑った後、少しだけ考えるように黙り込んだ。


 それから小さく息を吐いた。


 「……ちょっとだけ、勇気出たかも」


 そう言ったものの、音瀬はまだ不安そうだった。


 けど、さっきみたいに全部を諦めた顔じゃない。


 ちゃんと、()を見てる顔だった。


 「……明日」


 音瀬が、少しだけ躊躇ためらうように言う。


 「明日……一緒に行ってくれる?」


 「あぁ」


 俺は即答した。


 「最初から最後まで、付き合う」


 「それはそれで重くない?」


 「文句あるならやめるけど」


 「やめないで」


 即答だった。


 その後少しだけ気まずい沈黙が落ちて、音瀬が「ふっ」と笑った。


 「……ほんと、ずるいよね」


 「何が?」


 「そういうとこ」


 「……?」


 音瀬は何も言わずに、ただ少しだけ俺の袖をつかんだ。


 その力は弱かった。


 けど──


 さっきより、ちゃんと()()()()感じがした。


 

 


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