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あの星に煌めきを  作者: そーら
第六章 全てのはじまり
37/64

皇一族

 



 その日は、新しい生命が誕生する日だった。

 皇一族に属する大海原家に長女が産まれようとしていた。


「水明さん、体調はどうですか?」


「…大丈夫、です。少し暴れん坊のようですけど、元気な証拠ですね。」


 麗生は汗ばむ水明の手を握り、優しく背中を摩る。

 皇一族の総帥である麗生は、その生命の誕生の瞬間を見届けるという役目があり、有葵と命は一族の者に預けていた。


「水明っ…!」


「蒼汰…、来てくれたんだ。」


「当たり前だろ…!」


 慌てた様子で水明の夫、大海原 蒼汰(わたのはら そうた)も到着し、出産に向けて少し張りつめた空気が漂う。

 そこからはあっという間の出来事で、お産が始まると水明は分娩室へ。数分後、院内には元気な産声が響き渡った。


「…っ、初めまして…。」


「ありがとう…、ありがとう。」


 水明と蒼汰は幸せそうに涙を浮かべ、産声が止んだ我が子を愛でている。

 その神秘的な空間に横槍を入れるのは無粋だと思った麗生は労いの言葉を心の中で呟き、その場を後にした。


「…っ、麗生さんっ!」


「華乃子?どうかしたのですか?」


 すると、血相を変えた様子の華乃子が娘の燈子を抱えながらやって来た。あまりに異常なまでの慌てっぷりに、ただ事ではないと察した麗生はその場を後にし、人気の無い場所の椅子に座らせた。


「華乃子、落ち着いて話して下さい。」


「は、はい…。こ、この子が怖い未来を見ると言って…内容を聞く限り、麗生さんに話した方が良いと思って…。」


 息を整えながら、華乃子はそう言った。彼女の膝の上で燈子が不安気にギュッとカードを握り締めている。


「あのね、有葵ちゃんと命ちゃんが来てたからうらないをしたの。そしたら、このカードばっかり出て…こわい女の人が………ひぅっ。」


 燈子は未来を視る能力を持ち、それは占いをするようにカードを使うとより鮮明に見えるようになる。

 不吉なカードを差し出して、その先は幼い彼女には相当怖いのか言葉にする事が出来ず、華乃子の服を掴んで震えていた。


「燈子、ありがとうございます。無理して言う必要はありません。」


 震える燈子の手を優しく握り、頭を撫でた。しかしその麗生の顔は真剣で、華乃子は背中にゾクリと悪寒が走る。


「………とりあえず、今すぐ帰りましょう。」


「車で来たので麗生さんも乗って下さい。」


「ありがとうございます。」


 そうして、麗生と華乃子、燈子は車に乗り込み、皇邸に向かう。

 道中の空はとても曇っていて、今から起こることが良くないことだと言っているような気がして胸騒ぎが止まない。


 すると、プルルルと麗生の携帯が鳴る。急いで出ると、張り詰めたような真美の声が聞こえて全てを察した。


「麗生!今どこにいる!?」


「真美、私は今家に戻っています。どういう状況ですか?」


「有葵と命が…!ゆ、誘拐されたの…。手口を見るにあの子かもっ………。」


 いつもなら業務中は敬語で話す真美が素の口調になっている。それだけ突然の事で、冷静ではいられなくなっている。

 自分だけは冷静さを掻いてはいけないと、麗生は奥歯を噛み締めながら平静を保つ。しかし、今にも涙が溢れてしまいそうだった。


「…えぇ、えぇ。分かりました。そちらは真美を中心に居場所の特定を。それと…もしもの時のために、千夜子さんに連絡をしておいて下さい。」


 真美と情報を共有し、到着するまでの指示をして電話を切る。すぐに

 秀一郎に連絡をしようとして、彼のアドレスを表示するが手が止まる。


 彼にどう伝えるのが最善か、分からない。

 大事な娘たちが誘拐されたとなれば、今どこで何をしていようが彼は来てくれる。しかし彼は今自分の夢を叶えるために奔走している最中で、とても大事な時期だった。


「麗生さん、着きました!急いで下さい!」


 麗生が色々と考えている内に車は皇邸へと辿り着き、答えが出る前に行動に移さなければ無くなってしまった。


「ありがとうございます。華乃子は燈子と一緒に安全な場所へ。未来が変わるか確認したいので、いつでも視られるようにしておいて下さい。」


「はいっ、どうかご無事で…。」


 麗生は華乃子たちと別れ、一族たちが集まっているであろう本家の広間へと向かった。

 殺伐とした空気の中、真美はいち早く麗生の存在に気付く。


「麗生っ!」


「真美、状況は。」


「はい。只今、篤志さんの透視と美颯さんの超聴覚で居場所の特定をしております。すぐに迎えるよう澄佳に来てもらい、夜陰家の方々にも連絡を致しました。」


 先程、電話した時より冷静になっている真美を見て安心する。

 一族全ての力を使い、有葵と命の救出を急ぐ。今出来る最善の術を一瞬で判断していかなければならない。


「麗生さん、視えたぞ。港の倉庫街跡だ。」


「それにやっぱり、犯行はあの子の仕業よ。何をやるか上手く聴き取れない、注意して。」


 真美が指示をした火影 篤志(ほかげ あつし)土井 美颯(どい みはや)が、犯人の居場所を特定した。それでも嫌な予感は拭えず、最悪な想定をしてしまう。


「…彼女を救えなかったのは私の責任です。彼女と対話出来る自信はありませんが…行きましょう。澄佳、お願いします。」


「は、はいっ…!港の倉庫街跡ですね?行く方々は…。」


「私と真美だけで良いです。皆さんは身の安全を確保して下さい。」


 麗生は決意を固めて、娘たちと()()がいる場所に澄佳の瞬間移動の能力を使って向かった。


 目を開けると景色は一変し、薄暗く静かで不快感しか与えない臭いが辺りに充満していた。


「麗生、本当に大丈夫?」


「…はい。きっと彼女は、こうすることでしか生きていけないのでしょう。」


 コツコツとしばらく歩くと、一つだけ異様な空気の倉庫があった。まるでここにいると麗生に伝えているような。

 そちらの方へ向かうと、外の光は一切届いていないそこに彼女はいた。


「…来たんだ。思ったより早かったね…。まぁ、色んな能力使ってんだから当たり前か。」


「………零那。」


 暗闇に目が慣れないが、声ですぐに分かった。

 彼女は数年前に、皇一族の能力に溺れ暴走し、挙句の果てに行方不明になった延冥 零那(えんめい れいな)だった。


「零那、その子たちを離して下さい。」


「フッ…バッカじゃないの?折角あんな場所から連れ出したのに、はいどーぞって返すわけないでしょ。」


「…あなたにこれ以上傷を付けたくはありません。」


「傷、ねぇ…。アタシの身体にこのクソみたいな血が流れてる時点で手遅れだけど。」


 神より生まれし皇一族の能力は、強力なものが殆どでその能力を操りきれず暴走してしまうケースが稀にある。そして延冥家は特にその傾向にあり、能力を剥奪するか、最悪な場合は自死の道を歩む者もいた。


 零那はそんな家に生まれたことを恨み、能力を操ることが出来なかった自分を蔑み、それらに抗えなかったことを悔やみ、行方を晦ました。


「…分かりました。少し、お話しましょう。」


 麗生は零那にこれ以上、辛い道を選んで欲しくない。

 大切な友人を救えなかった罪悪感。一族の決まりを守らねばならない使命感。他にもたくさんの感情が麗生を動かしている。


「息災でしたか?」


「………。」


「こんな形でも、あなたにまた会うことが出来て嬉しいです。零那は…。」


「うるさい!!!!!」


 しかしそんな気持ちは、心を閉ざしてしまった零那には伝わらない。

 自分の気持ちを分かる人などこの世にはいない。この数年間、一族から離れて知った外の世界はそう思わせるのには充分で、彼女の悲痛な叫びはキン…と耳を劈くほど倉庫中に響いた。


「アタシはあんたが憎い…。一族の中心に生まれ、能力にも血にも恵まれて、それなのにアタシのことを知った風にして………。だからあんたを不幸にするの。」


 零那は自分の能力、ネクロマンサーを使って足元で眠っている有葵と命の身体を死者の魂で包み込む。

 背筋が凍るような寒気と共にやって来るそれは、他人を死に至らしめる能力だった。


「っ!零那!止めて…っ!」


 麗生がそう叫ぶと、死者の魂はピタリとその場で止まり、不思議な空気がまとわりつく。誰の能力なのか気付いた麗生は振り返って彼女がいる方を見た。


「香夜…。」


「間に合いましたか。」


 現れたのは時間停止の能力を持つ夜陰 香夜(よかげ かよ)と、その母である夜陰 千夜子(よかげ ちよこ)だった。

 先程の真美からの連絡を受け、ここに来たようだ。


「…チッ、面倒臭いのが来たな…。」


「零那さん、何処にいるのかと思っておりましたが…あなたから現れてくれて良かったです。香夜、輝夜を。」


「はい、お母様。」


 千夜子は零那を強く睨み付け、香夜に孫の夜陰 輝夜(よかげ かぐや)を連れて来るよう指示をする。彼女が何をしようとしているのか分かった麗生は焦る。


「ま、待って下さい!零那から能力を奪うというのですか!?それに、輝夜はまだ能力を上手く使えません!」


「…それでも零那さんをそのままにはしておけません。彼女の能力はこの世の常識から逸脱している。

 我々だけでなく、他者にまで影響を及ぼし世界が壊れてしまう可能性がある…。それほど強力なものだというのは、あなたも分かっているはずです。」


 千夜子の言うことはご最もだ。零那の死者を操る能力はこの世に留まっている者だけでなく、あの世にいる者すらも無造作に引きずり出し、操ることが出来る。

 本人はまだその発想が無く、その事態に陥っていないが、能力をそのままにしておけば時間の問題だ。


「でも…私は………。」


「しっかりなさい。我々の長であるあなたが、これ以上あの子を苦しめるのですか?」


 麗生はまだ総帥を継いでまだ数年。気持ちも若く、未熟な部分がある。

 だからこそ長年皇家を見てきた千夜子には、能力を捨てることも救う術だと教える。


「黙って聞いてりゃゴチャゴチャと…、能力が使えなくたって殺す方法はいくらでもあんだよ…っ!」


「ダメっ…!!!」


 零那は叫んで隠し持っていたナイフを有葵に目掛けて刺そうとした。

 麗生が庇おうと駆け出すと、既に何者かが零那を押さえ付けていた。


「んなっ…!」


「麗生!今のうちに!」


 それは麗生の後ろにいたはずの真美だった。どうやら彼女の能力、記憶操作で零那が見ている真美の記憶を固定していたようだ。


「有葵っ!命…っ!」


 麗生は眠っている娘たちを抱き締め、その場から離れた。ゆっくり呼吸をしていることが分かった麗生は安堵し、一粒だけ涙を流した。


「お母様、輝夜を連れて参りました。」


「…麗生さん、宜しいですね。」


「っ…。」


 香夜がまだ一歳の輝夜を抱っこして連れて来る。

 夜陰家の能力は主に一族の均衡を護るもの。その中でも輝夜は能力を奪取する能力だ。

 しかし幼すぎる輝夜にはその能力を使うリスクも、奪った能力で暴走してしまうリスクもある。ましてや、零那の能力は使う本人に強い影響を及ぼす。


「輝夜が危険です。他の方法を…。」


「…輝夜の中に入ってさえすれば、あたくしの能力で抑制出来ます。」


「でも、零那が………。」


 未だに真美に身体を押さえ付けられて暴れている零那を見て視界が揺らぐ。

 一族に縛られ、能力に溺れ、人の道を外していく彼女を麗生はもう見ていられなかった。


「…宜しいですね。」


「………っう……………。」


 麗生は目を逸らし歯を食いしばって、有葵と命を強く抱き締める。零那と向き合う選択肢を諦めたのだ。


 千夜子が動き出したのを見て零那はさらに激しく抵抗したが、香夜による時間停止のせいで上手く能力を使えず、輝夜によって能力を奪われた。


 それにより力を無くした零那は気絶し、病院に運ばれて行き騒動は収まった…かに、思えた。


「…未来が変わっていない?」


「あぁ…。燈子が何度視ても同じ景色が見えるようなんだ。」


 麗生たちが皇邸に戻って数分後、篤志が燈子の見た未来が変わっていないことを報告した。何度見ても変わらない景色に、怯え憔悴しきった燈子は眠ってしまっている。


「…燈子は玲二(れいじ)に診せ、必要であれば治療を施してもらって下さい。トラウマになりかねません。」


「それにしても、能力を奪っても未来が変わらないなんて…。零那には厳重に監視するよう手配してありますし、もう手出しは…。」


「麗生、大変っ!」


 真美がそう言いかけると、今度は勢いよく美颯がやって来た。彼女の額には視認出来るほどハッキリと汗が滴っている。


「美颯?どうしたのですか…、そんなに焦って…。」


「零那の様子に耳を傾けていたら、あの子の周りに有り得ない数の魂が…!多分、今まであの子が操ってきた魂だと思うわ。」


 予想外の事態に一同が驚く。今まで零那の能力によって意思を操られていた魂たちが解放され、その恨みを零那にぶつけようとしているとのこと。


「聞いているだけでも悍ましい…。魂たちは零那に復讐を完遂させる気よ。あの子を弄んで…あの世に連れて行こうとしている。」


「そんな…零那をこれ以上苦しめたくない。」


「麗生!あなたは有葵と命を第一に考えて!零那は私たちが何とかするわ。死者でも能力は効くはずよ。」


 麗生がぐるぐると娘たちと零那の両方を助ける方法を考えている間、真美たちは行動に移そうと会議する。

 考えれば考えるほど、自分に何が出来るのか分からなくなってきて、逃げ出したくなる衝動に駆られていると、真美に両肩を力強く掴まれた。


「麗生、あなたはとにかく有葵と命のすぐ側に居て。零那の様子を見に行くために何人か連れて行くけれど、あなたは此処に居てね。」


「……………。」


 真美の言葉に何か言う気力も残っていなかった。

 麗生の様子を少し心配しながら、真美たちは部屋を後にし、零那の元へ向かって行った。


「有葵…命………、秀一郎…。」


 麗生がこの世で最も愛する人たちの名前を呟く。その声は誰にも届くことはなく、眠っている娘たちからは返事が無い。


 柔らかい命の頬を撫でようとすると、足元に何か落ちているのに気が付いた。


「…これ、は………。」


 それは麗生が描きかけていた絵本だった。有葵と命の為に作った世界に一つだけの絵本。

 まだ途中までしか描いておらず、後半のページは真っ白。


「…全部、私が守りたいもの全部…私の世界に閉じ込められたら良いのに…。」


 ポタ…ポタ…と、絵本の上に麗生の涙が落ち、美しい絵が滲む。




 一生愛すると決めた人、そして生まれた宝物。自分を守ってくれた一族、助けられなかった友人。


 全部全部、自分の中に。


 でも、それは許されない。だからせめて、私の煌めきを_____。

・火影 篤志

常盤市にあるジムのインストラクター。皇一族の分家、火影家に生まれ『透視』の能力を持つ。熱血で男らしい性格だが、娘には激甘。


・土井 美颯

フリーランスの作詞家。皇一族の分家、土井家に生まれ『超聴力』の能力を持つ。冷静で他人に無頓着。小説家としても活動をしている。


・大海原 蒼汰

水明の夫。好奇心旺盛で知らないことがあると気が済まない。海洋研究者で研究のために長期間、家を空けることも多い。


・延冥 零那

皇一族の分家、延冥家に生まれ『ネクロマンサー』の能力を持つ。家出して以来、消息不明だったが、復讐のために麗生の前に姿を現す。


・夜陰 千夜子

皇一族の分家、夜陰家の長で『抑制』の能力を持つ。一族を影から支え、古い仕来りを重んじ、厳格な様相をしている。気難しい性格。


・夜陰 香夜

皇一族の分家、夜陰家に生まれ『時間停止』の能力を持つ。気難しい母の元で育ったせいか、常に他人の顔色を窺ってしまう気弱な性格。


・夜陰 輝夜

星空学園中等部二年B組

皇一族の分家、夜陰家に生まれ『奪取』の能力を持つ。生まれつき能力の適性が高く、その影響なのか右目の視力が弱い。大人しい性格。

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