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あの星に煌めきを  作者: そーら
第四章 世界に届く歌を
23/64

清く純粋な心

 



「ふっ…………ふっ………………。」


 その日の朝、弥生は家の道場で竹刀の素振りをしていた。それは彼女の日課で、練習がてら精神統一をする為にやっている。


 弥生の家は様々な武道の家元、神楽坂流の宗家本元で弥生自身も華道に弓道、剣道と日々励んでいる。

 木刀や真剣などを扱うこともあるが、竹刀の撓る音が集中するのには丁度良く、初心に帰るという目的もあってそれをずっと使っている。


 しかし、今日はどうやらいつものように気持ちの整理が付かない。ずっと胸に何かを抱えてしまっていた。


「………はぁ…………………っ!?」


 竹刀を下ろし、深く溜息を吐く。集中が途切れ、気が緩むとふと背後に人の気配がして振り返る。彼女の一つ結びにした美しい黒髪が宙を舞い、サラサラと流れた。


「漸く気付いたか。」


「お、お祖父様!?いつからそこに…。」


「少しばかり前からじゃよ。随分と集中しておったのぉ。」


 にこやかに弥生を見つめる彼女の祖父、龍堂はホッホッホと愉快に笑い竹刀を見る。


「しかし集中していた割にはブレすぎじゃ。心に何かを抱えておるのが目に見えて分かる。珍しいのぉ。」


「…っ。」


 龍堂に全て見透かされていることが分かり、自分の未熟さを恥じる。

 いつもなら彼は他人が集中しているところを邪魔などしない。見ていられないほど、弥生の心の乱れが気になったということだ。


「何を抱えているかは分からぬが、それを抱えたままでは満足に事は運ばぬぞ。誰かに話すなり、解決策を見つけるのも良い経験になるじゃろ。」


 そう言って、龍堂は道場を後にした。一人取り残された弥生はしばらくそこで立ち竦んでいた。




 ・・・




 通学路、弥生は閑静な住宅街を一人で歩く。その凛とした雰囲気と相まって、何も寄せつけそうにない空気が張り詰めていた。


「やーーーよいーーーーー!!!」


 そんな彼女の背後から大きな声でその空気を打ち破る少女が猛スピードで走ってくる。


「双葉、おはようございます。ご迷惑になりますから大きな声は出さぬようといつも言っているでしょう?」


「あ…ごめんなさーい。」


 弥生に注意されて素直に反省する。彼女の名前は夢心 双葉(ゆめごころ ふたば)。弥生の幼馴染で気心知れた相手だ。


「ねぇねぇ、弥生〜。今日ね不思議な夢を見たの。」


「また明晰夢ですか?」


 双葉が昨晩見た夢の話をすると、弥生はそう言う。双葉は明晰夢と言って、夢の中を自由に歩くことが出来る。

 いつも夢の中の話をされるが、今日はなんだか雰囲気が違う。


「うん、そうなんだけどね。いつもと違って…双葉の思うようにならなかったの。」


 明晰夢は自分の思い通りになることが多い。まるで、自分というプレイヤーを動かして好きなことが出来るゲームのような感覚だと双葉は語っていた。

 しかし、昨晩の夢は双葉がそこにいるという感覚だけで、身体を動かすことは出来なかったようだ。


「…それは変ですね。何か悩みでもあるんですか?」


「え〜?双葉に悩みなんてあると思う〜?」


「…失礼ながら。」


 双葉の問いに、少し言いにくそうに答える。彼女は悩むタイプでは無い。普通、人が悩んだりすることを彼女は悩みとも思わず、いつの間にか解決されているのがいつものオチ。


「………不思議な夢と言えば…私も今日見ました。」


 双葉の話を聞いて、ふと思い出す。今朝もその夢のせいで素振りに身が入らなかったのだ。


「白銀の世界、二人の見知らぬ少女が美しい唄を歌い、その後世界は闇に飲まれてしまうような…。」


「あれ?双葉の見た夢も全く一緒だよっ!」


 二人は顔を見合せる。同じ夢を同時に見るというのは中々無い。

 双葉は勉強こそあまり得意では無いが、夢の中の出来事に関してはきちんと覚えている。その双葉が一緒というのならそうなのだろう。


「不思議ですね…二人とも同じ夢、なんて…。」


 不思議な出来事に疑問を抱えながらも二人は学園へ向かう。

 校門前はチラホラと見覚えのない大人がいる。蘭たちのライブや先日の出来事もあってからというもの、以前より人数は少ないがそれでも一定数のマスコミは来ている。

 注意を払いながら、弥生たちは校門をくぐる。


「…あ、今日水やり当番の日だから先に教室行ってて!」


「はい。分かりました。」


 双葉が慌てたように走っていく。双葉は園芸部で学園にある植物園を部員たちが管理しているのだ。


 弥生は一人で昇降口に向かい、靴を取り替える。生徒会役員だからか、生徒から挨拶されることが多い。

 それに丁寧に返しながら、教室に着く。荷物を整理していると、ペンケースが無いことに気が付いた。


「…あれ、忘れてしまったんでしょうか。」


 鞄の底まで探すが見当たらず、昨日どこで使ったのか思い出す。宿題をする時は家に元々置いてあるペンを使っている為、鞄から出すことは無い。


「そういえば…。」


 記憶を遡り、最後にペンケースを見た時のことを思い出した。その通りならばペンケースは家ではなく生徒会室にあると思い、弥生はそこへ向かった。


 昇降口の賑やかさとは裏腹に、人気のない廊下はとても静かだ。コツコツと弥生の足音だけが響き渡る。


「弥生ちゃん?」


 すると、足音も無しに正面から蘭が現れた。突然現れたことと、気配に気付かなかったことに驚き、弥生は目を見開く。


「おはよう。どうしたの?こんなところで。」


「あ…ら、蘭様!おはようございます。生徒会室に忘れ物をしてしまったみたいで…。」


「そうだったんだ。じゃあこれ…鍵渡しておくね。赤城先生に返しておいて。」


 蘭の差し出した鍵を見て、普段は鍵が閉まっているのを思い出す。いつも蘭が先にいて、鍵を開ける習慣が無かったからか気付かなかった。


「ありがとうございます。畏まりました。」


 少し照れ臭そうにして鍵を受け取る。

 蘭が歩き出して学年棟に向かう。その後ろ姿が美しくて、弥生は見蕩れる。


 蘭のように、凛とした自分でありたい。


 しかし、彼女にはなれない歯痒さと他者になりたいと思ってしまう自分の弱さが弥生の胸に残る。

 蘭から目を逸らし、生徒会室に向かう。ペンケースは弥生がいつも使っている机の上にあり、安心する。


 それを握り、ふと生徒会室を見る。いつも賑やかというわけではないが、居心地のいい場所。大好きな人と過ごせる大切な空間。

 何を思うわけでもなく、ただぼんやりとそれを見つめていた。






 _____ふわふわとした曖昧な意識の中、気がつくと弥生は不思議な場所に立っていた。

 何も無い、ただ存在するだけの空間。時の流れがゆっくりと感じ、まるで夢のような感覚。


 次第に意識がハッキリすると、弥生は目を見開いた。


「…ここって、蘭様たちの………。」


 その小さな声が世界に木霊する。何も無い世界にどこまでも続いていく。


『弥生。』


「っ!何奴!」


 すると、頭の中に自分の名前を呼ぶ声が響く。その声に驚き、弥生は隠し持っていた木刀を素早く構えて辺りを見渡す。

 しかしそこには誰もいない。


『初めまして、私はアリア。今はあなたに直接語りかけているから、姿は見えないの。』


 淡々とアリアと名乗る少女の声がまた頭の中に響く。

 現実では有り得ることの無い現象だが、弥生の頭は冷静だった。


「…アリア様。ここは最近、蘭様たちが活発に活動なされるきっかけとなった場所。あなた様が始められたことなのですか?」


『流石ですね、話が早くて助かります。ここは『煌めきの世界』…強い煌めきを持つ者を導く場所。弥生の歌を聞かせて欲しいの。』


「…歌…………。」


 予想していた言葉だけれど、弥生は少し顔を顰める。

 蘭たちのように歌うのならば、それに乗せて踊ることもしなければならなくなる。それが、弥生には少し難しいことだった。身体がというより、心が。


『あなたの事情は知っているわ。ですが、それでも私はあなたに歌って欲しい。』


 アリアの真っ直ぐで美しい声が頭に響く。それが弥生の心に渦巻く何かが余計に残る。


『…弥生、あなたは清く正しい。自分に出来ることをただ真っ直ぐに突き詰める。でも、それが本当に自分のやりたいこととは限らない。

 あなたはやりたいんでしょう?お兄さんのように、自由に。』


 アリアの言葉に瞠目する。本当に心が透けていることを理解した弥生は、涙を一筋流す。


『あなたの本当の煌めきはそこにあるわ。真っ直ぐだけが道じゃない。どんなに遠回りをしたって、あなたの進む道があなたの煌めき。』


 ずっと欲しくて堪らなかった言葉が聞けて、弥生は安心する。

 気がつくと弥生は昔話の姫君が着るような美しい着物を身に纏い、左手にはマイクが握られていた。


『弥生、歌って。あなたがなりたい自分で。』


 導かれるように手に持つマイクを口元へと持っていき、浮かぶ言葉をメロディーに紡ぐ。




 古都の街並み 美しきかな

 あけぼの映ゆる 花衣かな


 アマツオトメ 見下ろすと

 あまねく宙に 数多の星

 アマツオトメ 見上げたら

 あまつさえ 雨模様


 うたかたの彼方まで かかずらう_____。




 ・・・




 _____夢から醒めるような微睡む意識の中、気がつくと双葉は不思議な場所で寝転がっていた。どこか現実味の無い幻想的な空間。


 双葉は起き上がると、そこを自由に走り回った。ふわふわとした地面にダイブしたり、空から降る煌めきを掬ったり。


「きれーい!!!」


 双葉は前後の記憶なんて無視して、純粋に夢を楽しんでいる。彼女にとって夢と現実は対して変わらない。それが夢であるか、現実であるかは関係ない。


 しかし、ここはその狭間。


『…双葉。』


「わあっ!」


 急に頭の中に声が響き、双葉は驚く。周囲を見渡すが、そこには誰もいない。


『初めまして、私はミコト。双葉に直接語りかけているから、姿は見えない。』


「そっかあ…どういう夢なんだろう。」


 色んな夢を見てきたせいか、ミコトの言葉を夢と捉えてすんなりと受け入れられる。

 けれど、ミコトはそれを否定した。


『双葉、ここは夢じゃない。現実との狭間…存在すら曖昧な『煌めきの世界』。全ては不思議な力で生まれたもの。』


 急な難しい話に双葉は顔を顰める。元々難しい話が得意でない双葉には理解しがたい話。

 ミコトはそれを察したのか、分かりやすく話し始める。


『昨日の夢は覚えてる?』


「うんっ!あ、よく見たらこの場所の夢だったなぁ…。」


『うん。双葉が見た夢…あの夢の最後、煌めきを失ってしまったこの世界をまた煌めきで溢れさせる為に双葉に歌って欲しい。』


「お歌?」


『双葉の歌には特別な力がある。真っ直ぐで純粋な心は世界に届く。闇を知らないその歌声は生き物すべてに響いていく…。』


 双葉はミコトの話を聞きながらいつの間にか目の前にあったステージにあがる。神殿のように神々しく美しい場所。


 ドキドキと高鳴る心臓の音が聞こえる。

 気がつくと双葉は彼女が大好きなヒーローを模した衣装を身に纏い、左手にはマイクが握られていた。


「わあっ!何これぇ!?」


『双葉、歌って。その純粋な心で世界はきっと救われるから。』


 導かれるように手に持つマイクを口元へと持っていき、自然と詩が浮かぶ。目の前に広がるのは、緑で溢れた理想の世界。




 ぴょこっと芽生えた ハート

 ドキドキ射抜くよ アロー


 この先もずっと駆け抜けるよ!

 きらきらのゆめ目指して


 いくよ、わたしの

 ピュアハートアロー_____!

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