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あの星に煌めきを  作者: そーら
第三章 ふたつの光
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ミュージックビデオ

 



 数日後、蘭たちはライブに向けてかなり本格的に活動をし始めていた。

 ライブの内容も大体固まり、今日は宣伝やライブで流すミュージックビデオの撮影日だ。


「皆、紹介する。今日の撮影でカメラマンをしてもらう大地 丞空さんだ。」


「大地です。本日はよろしくお願いします。」


 結弦に紹介された男性、大地 丞空(だいち たすく)はぺこりと頭を下げる。温厚そうな顔でとてもしっかりした人のようだ。


「大地さん、お久しぶりです。こちらこそよろしくお願いします。」


 奏空も挨拶をする。どうやら彼にはPentagram☆*。の撮影をしてもらったことがあるようだ。


 協力してくれるスタッフに挨拶回りをして、ミュージックビデオの内容と衣装の確認をする。内容はチームで考えたものを採用してもらい、プロにより濃密にしてもらったものだ。


 撮影準備はチーム毎に分かれ、チームAは衣装の確認をしている。サイズはピッタリで直すところはあまり無いようだ。


「ゆずの衣装すっごく可愛くない!?」


「うん、ゆずちゃんにとても似合ってるよ。」


「馬子にも衣装ですね。」


「孫?おじいちゃんたちに見せるの?」


「…バカにも衣装でしょうか。」


 いつも通りのやりとりをしながら衣装を着る。普段着と違って装飾が脆い部分もある為、スタッフが慎重に着せている。


「わぁ…とても似合ってますね…。スリーサイズ聞いたときはほんとにこんな理想的な体型の方、いるのかなって思ってたんですけど…。」


 蘭の姿を見てボソボソと喋る女性。その女性は蘭の全身をくまなく見るように周りを回っている。


「…あの…?」


「ハッ、すみませんっジロジロ見てしまって…け、決して怪しい者ではっ…!」


 首からぶら下げた関係者パスを慌てて差し出しながら頭を下げる。慌ただしい人だなと思いながら、蘭はそっと宥めた。


「頭を上げてください。スリーサイズを聞いた時は…と仰っていましたけど、この衣装を作ってくれた方ですか?」


「あっはい!私、大地 澄佳と申しますっ…!『PRISM(プリズム) CARAT(カラット)』っていうブランドのデザイナーをしてまして…ま、まだまだ無名なんですけど、秀一郎さんとは知り合いで…今回、急ぎの製作とのことだったのでお話が…。」


 そう言って女性、大地 澄佳(だいち すみか)は震える手で名刺を差し出す。ふわり…と茶色のウェーブ髪が揺れ、下を向いていたせいで見えていなかった顔がよく見えるようになり、蘭たちは彼女の美しい顔に見蕩れる。


「綺麗な人ぉ…。あ!この衣装作ってくれてありがとうございますっ!」


「ひっ、ひえっ…!こちらこそ、あの、とても良くお似合いで…こんな可愛らしい方に着てもらえて…こ、こここ、光栄ですっ…!」


 柚希はとびきりの笑顔で言うと、それが眩しかったのか手で顔を覆いながらまた勢いよく頭を下げる。

 莉愛は澄佳の挙動不審っぷりに少し共感しつつ、自分よりも慌てた人を見て逆に冷静になった。


「そういえば…大地って、もしかしてカメラマンさんの…?」


「ふぇっ!?あっはいっ!本日皆さんのカメラマンをする大地 丞空は私の夫です…。」


「うぇえ!!!こんな綺麗な人とあんな普通な人がぁ!?…あ。」


「ゆずちゃん………。」


 驚いて柚希が思っていたことを口にしてしまう。すぐに失礼なことを言ったと口を抑えるが、その大きな声はその場にいた全員に聞こえており、流石の蘭も呆れた顔をしていた。


「ご、ごめんなさいっ!」


「ふふふ、良いですよ。丞空さんとお付き合いさせて頂いた時からよく言われます。」


「普通の私には勿体ないくらいですよねぇ…」と少し勘違いをしながらも柚希の失礼を流す澄佳。


「なんか大きな声が聞こえたけど、大丈夫か?」


 先程の柚希の大声を聞きつけて、結弦が心配してやって来る。柚希がすみませんと謝りつつ、何でもないことを伝える。

 すると、結弦は蘭たちの衣装を見ている澄佳に気付き、声をかけた。


「澄佳さん、奏空たちの方も確認お願いします。」


「ふぇあ!?あっ!は、はいぃ〜…。」


 いきなり結弦に声をかけられて驚きつつ、慌てて奏空たちの楽屋へ向かった。

 見てるだけで疲れそうだと思いながら、蘭たちはひとまず先にスタジオへ向かった。


 ・


「まずは奏空さんのカットからいきます!」


 軽い段取りの説明がされた後、本番が開始する。最初はお手本も含めて現役アイドルの奏空からだ。

 蘭たちのセットは隣のスタジオにあるのだが、カメラマンが一人しかいないのと、蘭たちに経験が無い為、ここで見学することになっていた。


「そらしかわいい〜。」


「こうやって映像が出来るんすね…。」


 実際に動いている奏空と、返しの映像を交互に見ながら関心する。曲に合わせて自由に動く奏空が楽しそうで、見てる側もつい曲に乗ってしまう。


「私にも出来るでしょうか…。」


「リアさん、コスプレの撮影する時とてもカッコイイデス!大丈夫デス!」


 莉愛は趣味のコスプレで撮影は何度かしたことがある為、ポーズの仕方や動きなんかは何となく分かっている。しかしカメラマンはいつも慣れ親しんだ姉である為、初対面の人相手にいつも通り出来るか不安だった。

 けれど、アイリーンの明るくて可愛い笑顔を見ると緊張が解れてくる。


「はい、それじゃあ映像確認しまーす。」


 奏空の撮影が終わり、ふぅ…と息を吐く。ただ動いているだけのように見えるが、実際は曲のリズムにハマるように動く為、神経を使うのだ。


「お疲れ様です。」


「ありがとう〜。私がお手本で良かったのかな?」


「要領が分かりました。助かります。」


「流石蘭ちゃん。飲み込みが早い。」


 ふふっと奏空が笑う。

 無事、奏空の撮影が完璧に終わり、次は楓、アイリーンとチームBの撮影が進む。所々失敗もありながら、最後に三人でのダンスパートを撮り終えると撮影は終了した。


「お疲れ様でした!」


「ありがとうございました。」


「ありがとうございますっす〜!」


「ありがとうございますデース!」


 三人が口々に感謝を述べる。蘭たちも拍手で迎えていた。

 次は自分たちの番となり、スタジオを移動する。奏空たち同様に曲の雰囲気にあった大きなセットが組まれており、少し感動する。


「すごぉーい!」


 柚希の声が響くほどの広さ。そこを今から蘭たちの世界で染めなければならない。


「…それじゃあまずは蘭さんから。」


 カメラをセットして、丞空がセットに立つよう促す。蘭は礼儀正しく「よろしくお願いします」と凛とする声で言うと、スタッフたちは身が引き締まるような思いだ。


「ここで良いですか?」


「…はい、大丈夫です。それでは行きます!」


 丞空の声が響くと、蘭の撮影がスタートする。先程チームBの撮影を見ていたとはいえ、動きに一切の無駄がなく、美しいダンスはその場にいる者を魅了した。ということはつまり、これをこれから見るであろう人も魅了するということだ。


「………。」


 呑気に見ていた柚希も蘭と同じくらいのクオリティーで出来るか、少し不安になる。胸の前でギュッと拳を握ると、それに気付いた莉愛がそっ…と手を重ねる。


「りあち…?」


「私も緊張してます。こんなすごい蘭先輩を見せられると…。」


 莉愛の手も微かに震えていて、柚希はさらにもう片方の手を重ねた。


「でも、蘭先輩が先で良かったです。このクオリティーを見ずにやってたら実力差がかなり出来て、MVが出来た時すっごく恥ずかしくなってましたから。」


「…競走する時、前に人がいる方が燃えるって感じ?」


「まぁ、そんな感じですね。」


 相変わらず、お互いの言いたいことが分かっている。普段なら漫才と言われるが、こんな形で役に立つとは思っていなかった。


「慣れない環境ばっかりで、常に緊張してますが…その場にはいつも蘭先輩とゆず先輩がいますから、大丈夫です。」


 莉愛のその頼もしい笑顔は、柚希の胸に沁みる。柚希は自分でも知らない内に緊張していたようだ。


「明るく振舞っているようで、空元気なだけな時もありますから。蘭先輩の凄さを見た時は特に。」


「りあち…。んも〜、恥ずかしいから言わないでよ〜。」


 柚希は照れた顔を見られたくなくて下を向く。そんな柚希を見て、莉愛はふっ…と息を吐く。どうやら気持ちが落ち着いたようだ。


「…はい、ありがとうございます!映像確認します。」


「ありがとうございます。」


 蘭の撮影が終わったようだ。蘭が柚希と莉愛の元へ向かうと、二人は手を握っていて柚希が下を向いている光景が不思議で首を傾げる。


「ら、蘭先輩、お疲れ様ですっ!」


「わぁ!蘭〜、お疲れ〜。」


 慌てて手を離す柚希と莉愛。その姿が可笑しくて、蘭は少し声を漏らして笑った。


「ふふっ、二人とも緊張してるの?」


「も〜蘭がスゴすぎるからだよっ!ゆずたちにプレッシャーかかってるんだからね〜。」


「最後はゆず先輩に任せます。」


「え〜!無理!もっとプレッシャーじゃん!」


 さっきのことがあってか、程よい緊張感はあるものの、柚希と莉愛はいつものやり取りが出来るようになっていた。


「蘭さんオッケーです!次、莉愛さんお願いします!」


「は、はいっ!行ってきます。」


「んえ〜!ほんとにゆず最後ー?」


「あはは!ドンマイっす!」


 莉愛がニヤリとした笑顔を柚希に送る。煽られた柚希は口を尖らせるが、楓に宥められる。

 文句は言いつつも、莉愛の調子が良さそうで柚希は安心して撮影に臨むのだった。




 ・・・




 撮影が終わり、一同は事務所に戻って来た。ライブまであまり時間が無いため、少しでも時間がある時は会議をすることになっている。


「…あの、提案とかじゃないんですけど…。」


 早速、蘭が手を挙げる。鞄から数枚のDVDを取り出して全員に見せるようにした。


「配信でも楽しめるかどうかっていう話だったので、この木咲 アイさんというアイドルの映像がとても凄くて…何か参考になればと思いまして。」


 前にアイのライブ映像を見てから、事務所にある分を全部見た。どれも画面越しでもその会場の熱気を感じられる素晴らしいライブだった。

 蘭はそれが自分たちの刺激になればいいなと思ったのだ。


「木咲 アイさん、良いよね!私もアイドル始めるってなった時に見たよ。凄く参考になると思う。」


 奏空は目を輝かせて言う。彼女もまた、アイの虜のようだ。奏空のような実力者が参考にしたと言うのなら見る価値はあるとなり、映像が会議のモニターに映し出された。


『みんなー!行っくよー!』


 そのアイの声に会場全体が歓声で震える。そのビリビリとする感覚が肌全体に伝わってくる。初めて見た柚希たちも一瞬で彼女の凄さが理解出来た。


「すごいっす…。」


「ヤバい…アイちゃんってゆずたちが幼稚園児くらいの時のアイドルだよね。あんまり見たこと無いから覚えてなかった…。」


「ですね…、これが出来れば配信でも十分に楽しんでもらえますけど…。」


 自分たちに出来るでしょうか…と不安になる莉愛。彼女と同じことを思っていたのか、全員の士気が下がる。


「現在は活動なされてませんし、調べても行方は出てこないので会って話を聞く…ということも出来ませんね…。」


「そうだね…私も業界でアイさんの話は聞いたことがないかも。」


 蘭の情報網にも、奏空の芸能情報にも彼女の名前は無い。会って話を聞くのが一番早い方法だが、それが出来ない以上は自分たちで考えるしかない。

 うーん…と空気が暗くなると、別の仕事をしていた結弦がやって来た。


「すまない遅れた…って、なんでこんな暗いんだ?」


 話で盛り上がっているだろうと予想していた結弦は驚く。奏空が説明すると、結弦はそんなことかと笑う。


「木咲 アイならお前たちの近くにいるじゃないか。」


「えっ!?」


 ケロッとした表情で言う結弦に、今度は奏空が驚く。言うなれば憧れの人が近くにいると言われたのだから。


「でも、そんな名前の人いないよ…?」


「それは木咲 アイが芸名だからだよ。あ、でも本人にこれ言って良かったか聞くべきだったか…。」


 少し待ってろと言って結弦は会議室を出て、彼女に電話をする。憧れの人に会えるかもしれないとなり、奏空は珍しくソワソワしていた。


「…そういえば、私も木咲さんを見たことあるような気がしてるんですよね。」


「蘭ちゃん、本当?」


 アイを見るたび、どこかで見たことあるような気がしている蘭。それがようやく確信に変わる。

 結弦が戻って来た。どうやら許可がもらえたようだ。


「どうせまた明日会うから学園で、だそうだ。」


「え、学園の人!?そんなに身近だったんだ…。」


 誰だろうと学園でいつも会う人を頭に浮べるが、アイらしき人はいない。その謎は明日にならないと解けないようだ。

・大地 丞空

様々なアーティストのミュージックビデオを手掛けてきた敏腕カメラマン。至って平凡な容姿だが、優しく気さくな性格。澄佳の夫。


・大地 澄佳

ファッションブランド『PRISM CARAT』のデザイナー。挙動不審で根暗だが、非常に綺麗な顔立ちをしている。丞空の妻。

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