26話 答え合わせ
今回も長め
レン君視点に戻ります
パラパラと流れる土塊を頭に受けて目が覚めた
恐ろしいスピードで飛来した仮面は聖職者の男を貫通するだけでは飽き足らず目標である俺に到着した後にも衝撃波という形で俺を吹き飛ばし被害をもたらした
そしてどうやら、俺は壁にめり込んでそのまま気絶していたようだ
本来、俺の体は気絶イコール即死と変わらない状態だから意識が戻ったことは奇跡と言っても良いんじゃないだろうか
意識の無い状況下ではこの体は異常成長する樹と変わりない
そのせいでとてつもなく動き辛くなっているようで、手も足も動かない
体のあちこちから土の壁に伸びている根を引き剥がそうと体をゆすってみるが、少し震えるだけで体に溜まっていた蜜を舐めていただろうカブトムシが逃げるのみ
体そのものも相当樹に近づいて機動性が無くなってしまっているようだ
仕方がないので未だ少ない魔力で節約しながら少しずつ体を柔らかい素材に変質させていく
今、周りからは人の形をした仮面の埋まる木が唐突に震え始めたように見えるだろうなと苦笑する
己の不気味さというよりそれがむしろ本来の姿に近いことに対して
なんとかして視力だけは取り戻してやろうと監視花を目に埋め込む形で作り出す
すると、聖職者の男の亡骸が目に入った
胸のあたりにぽっかりと穴が空いている
血溜まりを見るに大量の血を垂れ流したらしい
まだそれほど時間が経ったわけではないようで虫は一匹もたかっていない
安心安心
その奥には必死に体に包帯を巻くヘンゴの姿もあった
まだ生きているらしい
まだ俺が覚醒したのに気がついていないようだが…
まあいいか、無事なら
今回の戦いは本当に綱渡りだった
だけど結果だけを見れば大成功と言って問題は無いのではなかろうか
なかなかに無茶なことをした自覚はあるけどね
仮面で殺す
これが唯一のやつを殺す方法だった
覚えているだろうか?
俺がヘンゴを殴ろうとしたとき、外していた仮面は俺の顔に飛んできたということを
あれは仮面の効果の一種で、『仮面を一度装備したものが他人を傷つけようとしたときに仮面が装備されていない場合、仮面は飛来し顔に装着される』というものだ
例によってこれも初代魔王が検証している
魔王は自身の頭をもぎ取り、生首ごと仮面を持ちうる限りの技術を駆使して封印した
その状態で新しい顔を生やした魔王が仮面から数十メートル離れた場所で他人を傷つけようとするとどうなるか?
その答えは、仮面は魔王が害意を持った瞬間から、新しい魔王の顔までの直線上にある魔法的な封印や物理的な障害物を全て破壊しつつ飛来してきて、相手に魔王が被害を及ぼす前に魔王の顔に装着されて、攻撃ができなくなったそうだ
古い生首には一切執着することなく新しい顔に飛んできたという
また、それは魔力などは一切使われない神の力と言うべきもので動いているらしく干渉は不可能だという
よって仮面の封印は不可能であり、神の力でもって解除するか装備者が死ぬかでしか解除できないと考えられるらしい
このことからわかるように、仮面は仮面と装備者の間にあるものを破壊して直進することがわかる
正義のためならあらゆる犠牲は仕方がないということだろうか?
なんとも皮肉なことである
さて、もし仮面の通り道に人がいたらどうなるか?
これが攻撃のできない俺と非力なヘンゴの二人にとって唯一通用するかもしれない方法だった
また、もう一つ気になる文があることに気づいただろうか?
それは装備者が害意を持った瞬間から実際に行動がなされる間までに仮面は顔に装着されるということだ
例えばの話だが、純粋な愛でもって相手に抱きついたけれど唐突に殺意が芽生えて爪で肉を裂こうとしだしたら、どうだろう?
さらに仮面が離れたところにあったら、一体時速何メートルで飛来してくれるのだろうか?
とても興味深いことだ
答えはそこにころがっているがな
だが、普通そんなことはできない
常人は自身の心など操れないのだからもの凄い偶然の連続が必要となる
ただ、俺は常人ではないのでな
アレヌのせいで自分の精神なんて隅からすみまで理解できている
自分を騙すなんて簡単なことだ
さて、これで対抗手段は整った、と思われた
だが、一つ懸念点があった
精神魔術だ
一旦撤退したあの時、明らかに自分の心を覗かれるような感覚があった
いくら自分の心をいじれるといっても、精神魔術にそうそう対抗なんてできるわけもなく、それで全部見られたらなにもかもおしまいだ
また、仮面をどうにか合理的に外す必要もあったが、その能力を知られては作戦に支障が出る
そこでどうしたのか?
答えはヘンゴだ
咆哮だけでなく精神魔術までも習得していたと言うのだ
都合がよすぎると思うだろうか?
だが、その生い立ちから想像して考えればそこまで不自然でもない
上流階級の人々にも関わる商人は皆総じて精神魔術を習得する
ヘンゴの魔術がそこまでの腕でないことを考えれば貴族ではなく商人の息子と考えるのが妥当だろう
しかし父親は魔物…
そして今ヘンゴはしがない底辺冒険者
ということを考えればヘンゴの人生は容易に想像できるのではないだろうか?
…脱線したな
ヘンゴの精神魔術は正直下手くそだ
本来ならあの男にはとても相手になれない
だが、精神魔術が人の心を操るものである以上、魔術の対象、その本人の助けがあれば随分精度が上がる
ヘンゴに作戦そのものや仮面に関する記憶、そして感情を偽ってもらうことでやつの精神魔術に対抗することができた
また、商人と貴族の扱う精神魔術の特徴の違いもうまくことを運ぶ要因になったのだろう
奇跡的に何もバレることなくやつを『ビックリさせる』ことができた
これらのことを行うために、ヘンゴには致命傷にならない程度の攻撃を受けてもらい気絶したふりをしてもらっていたのだ
まあ、とにかく最後に本当にできるかどうかわからない仮面当てをするためだけにここまでやったというわけだ
あそこで失敗したら笑いものじゃあすまなかったな
けれどうまくいった、そのことが今純粋に嬉しくなる
…やっぱり、あの逃げ出した一瞬でこれら含めた全部の作戦を立てた自分、天才なのではないだろうか?
いやよそう。こうやって天狗になってるときが1番危ない
うだうだと戦いのことを考えていたら、ようやっと体も動かせそうになってきた
みしりみしりとだいぶ大きく体が音を立てるようになった
それでヘンゴもこちらに気がついたようだ
ついに、やっと、喜びを分かちあえる
素敵なことだ
本当は戦闘をレン君視点で書き直したものを投稿しようかとも思いましたが、とりあえず回想という形にしてみました
そのおかげで必須の解説をたくさん入れることができたので、そこは良かったのですが…
変わりに戦闘のそれぞれの行動の意味まで入れると余りに冗長になってしまうためその部分はカットしなければならなくなってしまいました。残念です
一応それぞれの行動の意味はちゃんと考えて書いていますので是非妄想してみて下さい
2章完結まではもう一息です
そこまでは執筆のスピードをあげれるように頑張ります




