第十四話 魔王様、討伐依頼ですか?
本日も(途中力尽きなければ)何度か更新すると思いますので、宜しければどうぞお付き合いください。
冒険者として仕事を請けることが出来なくなってから五日が経過した。
そろそろ日銭も尽きる頃合いだ。
このまま現状を打開する策を思いつかなければ、俺はこの村を出る気でいた。
特にこの村に思い入れというのはない。のんびりと過ごせるのであれば、俺はどこでだって良いのである。
まあこの状況を招いたドルガには相応の報いは受けてもらうにしても、だ。
――――などとそんな事を思っていたら、ドルガ側から動きがあった。
「討伐依頼の同時受注?」
「はい! ドルガさんが是非ともサタンさんも一緒に、と」
その話を持ってきたのは勇者見習いであるアルカだ。ニコニコと無邪気な笑顔を浮かべている。
アルカの持ってきた話はこうだった。
今回、ドルガが村近くの山に生息している魔物「キラーファング」の討伐を依頼されたらしい。
キラーファングは本来、この周辺の地域には生息していないそうだが、何らかの理由によりこの地域に入り込んで、生態系を変化させているとのこと。
キラーファングが新たに縄張りとした場所から追い立てられた魔物が、ティアルカ近くへとやって来ているケースも散見しているだとか。
村に被害が出る前に大本の原因であるキラーファングを討伐することが、今回、ドルガに求められた依頼だ。
キラーファングはそれなりに凶暴な魔物である。鋭い鍵爪を持ち、強力な身体強化スキルや必殺のスキルをも持ち合わせている。危険なモンスターだけにBランクである冒険者、ドルガに話が回ってきたのだろう。
当然ながら、この依頼に見習い冒険者がいれば足手まといになることは間違いない。
だがそれでも。ドルガは俺に同行して欲しいという。
「……どういうつもりだ?」
俺はアルカの横に立っている男へと聞いた。
金色の短髪に、馬鹿デカいネックレスが目立つ男。今は普通にしているが偉そうな態度が所作からにじみ出ていた。
その男――ドルガは俺へと笑顔を作りつつ、言う。
「どういうつもり? ここ最近でお前も分かっただろう? この村で冒険者をやろうと思ったのなら俺に逆らってはいけないって」
「まあ、あんたのお蔭でな」
ここまで露骨な嫌がらせを受ければ、それは嫌と言うほど分かった。
ドルガは笑顔を崩さずに、手を差し出した。
「確かに俺があんたに嫌がらせをしたのは事実だ。けれども、俺はあんたの強情さを気に入ったんだ。てっきりすぐに逃げ出すと思ってたからなぁ。だが、逃げださなかった。あんたにはガッツがある。だから俺はあんたを俺の派閥に勧誘しようって言うんだ。今回の依頼は高ランク。これを俺と共に受けることで、お前も晴れて見習いから卒業できる。どうだ? 悪い話じゃないはずだ」
「…………」
「この依頼を共に受けるのは、俺からの餞別だと思ってくれて構わない。なぁ、冒険者は横の繋がりが大事だって言うだろ? ここは一つ、今までの事を水に流して一から友好的な関係を作っていこうや」
ドルガが笑顔で俺を見遣る。差し出した手は引っ込めない。
まあ――――当然、罠だろう。
奴の性格を鑑みるのであれば、どう考えても俺と友好的にやって行くなんてことを選択するはずがない。
こいつは弱者相手に搾取し続けるタイプ。俺は魔王軍で指揮を担うに当たってこういう者を何度も見かけた。
……まあ、その度に俺が粛清するか。もしくは「交渉」して止めさせたのだが。
そんな奴が俺に甘い言葉をかけている。警戒しない方がどうかしている。
冒険者は横の繋がりが大事とはどの口が言うのか。
まったく……笑わせてくれる。
しかし、まあ――――これはチャンスだ。
「そういうことなら。お互い協力して行こうじゃないか」
そう言って俺は彼の手を取り、握手を交わした。
ドルガが一瞬だが、にやりと笑ったのが分かった。
おめでたい奴だ。俺が罠に掛かったのだと、そう思っているのだろう。
――――そっちが罠に掛かったとは知らずに。
「じゃあ、ご一緒ですね、サタンさん! 今回はボクもドルガさんと一緒に同行させてもらうことになっているんです! 同じく見習いとして一緒に頑張りましょうね!」
そう言って目をキラキラと輝かせるのはアルカだった。
……どうやらこいつはドルガの思惑は知らないらしい。
そして、気付いてもいない。
おめでたい奴だ。だが、まあ、こいつのような鈍感は組織では意外と重宝する。
ドルガもそれを分かって、こいつを手元に置いているのだろうか。
いや……ドルガにそれを見抜くだけの優秀さがあるのであれば、このような現状を招いてはいない。
今回はアルカの純粋さを利用して、交渉の矢面に立たせただけだろう。
俺がこいつであればもっと上手くやる。少なくとも横暴な態度を表には出そうと思わないだろう。
出る杭は打たれる。それがいつであるかは誰にも分からないが。
――――
ギルド職員であるマリナは祈っていた。
サタンの無事をひたすらに祈っていた。
「さ、サタンさん! 我々、ギルドが依頼したキラーファングの討伐依頼。あれをドルガさんと共に請けるとお聞きしましたが……ほ、本当ですか?」
ドルガに発注した依頼をサタンも共に請けると聞き、マリナは事の真偽をサタンへと問い質した。
その問いに対して、サタンは頷く。
「本当だ。今日この後すぐ、俺は奴らと一緒に討伐へと出立する」
「えと……その、私のような一ギルド職員がこんなことを言ってはいけないと思いますが……、ドルガさんと一緒の依頼は危険だと思います。今からでもお断りするべきです」
心配そうな表情を浮かべるマリナ。それに対し、サタンは笑った。
「だろうな」
「分かっているなら何故……依頼ならその、……ど、どうにかサタンさんに合うのを私が責任を持って選びますから! ……どうか」
マリナは必死になって、彼が考え直すように努めた。
実は言うと、マリナはサタンに惚れていた。
一目惚れだった。ギルドの受付で一目見た瞬間、その渋い顔立ちに見惚れてしまっていた。
だから一瞬だけ反応が遅れてしまったのだ。
声も渋くて恰好良い。さらに口調や態度も紳士的と来た。
年上趣味のマリナからしてみれば、理想の相手に違いなかった。
こんなむさ苦しい、しかも横暴な冒険者が犇めいている職場環境の中で、マリナはすっかり参ってしまっていた。
マリナは元々は他ギルドの職員を担当していたのだ。それが異動になって、こんな辺境の村へと来ることになった。
その職場でドルガのような面倒な一件を担当してしまい……、心身ともに疲れきっていた。
そんな中、理想の相手が来たとなれば、舞い上がっても仕方がない。
彼がドルガという横暴な冒険者相手に一歩も退かない姿勢を見せているところも恰好良かった。
苦境に立たされても少しでさえ弱音を吐かないのだ。
見習い冒険者だと言うのに……何故か非常に頼りになった。
冒険者になる以前は戦闘職で無かったと聞くが、さぞや凄い組織での会計職や事務職として、その辣腕を振るっていたに違いない。マリナはそんな勝手な想像をしていたのだ。
そんな彼がドルガと一緒に依頼を請けるという。
きっと罠だ――――マリナは直観した。
正直に言って、ドルガのこのような行動はこれが一度や二度ではなかった。
ドルガと一緒に依頼へと出掛けた者がそのまま帰ってこないケースが今までに何度かあったのだ。
ドルガは「途中ではぐれた」と言っていたが、そんな訳はない。
しかし、一ギルド職員がそれに口立てすることはできない。
何度もギルド本部に密書を送り、ドルガの所業を告発したものの、証拠不十分として取り合ってはもらえなかった。
そして、今回、サタンがドルガの次のターゲットだ。
気が気ではなかった。どうにか辞めるように説得しようとした。
だが、
「心配するな、マリナさん」
渋い声色でそう言うサタン。何故だか非常に説得力があった。
そうしてサタンは旅立ってしまう。マリナに出来ることは祈ることだけだった。
「どうか……どうか、無事で……」
マリナはあの紳士的で渋いダンディな魅力を持つ彼が、生きて帰ってくるように祈り続けていた。
次の更新は多分、夕方前くらいです。宜しければ読んでやってください!