第一部:8
俺たちは玄関先からキッチンを中継して居室へと場所を移した。
同メーカー同色で揃えられたテレビとBDレコーダー、通販で安く買ったソファベッド、中央に置かれたこたつ机。それだけしか目につかない個性が逸脱されたものになった俺の部屋。昼から五花が掃除を頑張ったからだ。どうやら合理的に床に散らばらせておいた参考書、ラノベ、漫画は押入れに仕舞われたようである。
「へえー。男の子の部屋にしては綺麗にしてるじゃない。もしかして私が来るからって片づけたの?」
芝居めかした野太い声が狭い六畳の部屋に伝わる。なんと俺の声だ。
「キモっ、どうして彼氏の部屋に初めて招かれた年上の彼女みたいな口調なの? 自分の部屋でしょ? もしかして何かに目覚めちゃった?」
「……いや、なんとなく」
だって、自分の部屋な気がしないから。さっきの玄関先での騒動でこの場にいづらい。招かれざる客ならず招かれざる主な感じ。帰りたい。
「ふーん。まあ、いいけど」
しかし、はっきりしなければならないことはある。
「で、ええと……お前って……何? 非処女なの?」
バチン!
天丼一丁上がり。連続でビンタをされた右頬は海老の尾のように朱に染まっていることだろう。えげつねえ。
「そんなわけないでしょ!」
額に青筋を立てて五花は大声で否定する。御来屋はというと気恥ずかしいのかキッチンと居室を往復して食器、ホットプレート、野菜、高級そうな牛肉を運んでいた。やっぱり焼肉か。人の金で散財しやがって。
「じゃあ『とっくに済ませてる』っていうのは……?」
「話の流れから見てパイタッチ以外に何があるの! 馬鹿じゃないの!」
パイタッチ……何とも魅惑的な響きだ。処女だと確認もできて安心する。まあ、エロイことは他にもしてそうだがそれは目を瞑ってやろう。
「いっちゃん、先輩。もうそれくらいでいいじゃないですか。僕はお腹が空きました。早くパーティーを始めましょう」
我もう関せずといった雰囲気であった御来屋は一通りの準備を終えたのか俺たちの間に割って入る。カレーパンで一時は凌いだ空腹も再来していることだ。俺はそれに賛同することにした。
「そうだな。あっ、ホットプレートの電源コードは押入れの下の段にあるからな。ダンボール箱に入ってるやつ」
五花はというと、
「蔵之助くんがそれでいいならいいけどさあ……」
何やら不服そうにぶつぶつと漏らしていた。