会議を始めます!
「ねぇ……」
真っ赤なワンピースに大きなマスクの女性が、夜道を歩く一人の女性に背後から声をかける。
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
振り向いた女性が夜闇に、絹を裂くような悲鳴を響かせた。
「なに!?なに!?透けてるんだけど!!!」
「え」
赤いワンピースが視線を落として自分の体を確認する。
「透けてるぅぅぅっ!?」
「お化けぇぇぇぇっ!」
赤いワンピースが悲鳴を上げている間に、女性はダッシュで逃げ出した。
「いやちがっ……お化けだけども……!!!」
赤いワンピースの心の叫びは虚しく夜闇に行っていったのだった。
「……………私、綺麗……?」
伸ばした手を力なく下げて、問うはずだった言葉をしょぼんと呟いて、それを最後に赤いワンピースはその姿を消したのだった。
「会議を始めます!!」
とある駅の構内で蠢く影。その中で、おかっぱ頭の女の子が声を上げた。その横で赤いワンピースの女が半ば透けた状態でスンスン泣いている。
「ちょっと口裂け女、メソメソしてないでほら」
「だって花子ちゃん……私このままじゃ消えちゃうよぉ……あ、でも透明感の美肌って……」
「違うから。透明感はそういう意味じゃないから」
口裂け女は大きなマスクで目まで隠すように顔を覆ってしまった。
「おぅおぅ、口裂けよぉ。そんなに泣くなって。まだ消えちゃいねぇんだし、べっぴんさんが台無しだぞ。ほれ、俺であにまるせらぴーとやらをしてみるか」
口裂け女の足元に近寄って、足の上に前足を置く人面犬。その顔を、マスクを少し下げて目を出した口裂け女が見つめて一言。
「………………おっさんじゃなければねぇ……」
「てめぇ、こっちが下手に出てれば……!」
バウッ!と人面犬が不機嫌そうに吠えて下がる。根は悪いやつではない。残念ながら可愛くもないが。
「最近はマスクも当たり前だもんねぇ」
「むしろ、生きてる人間のほうが怖がられるまであるからな……」
「あー……」
なんとも虚しい納得である。そして彼らにとっては死活問題であった。
「でも、どうしようねぇ……」
ため息をつく怪異一同。
「この間、若い男が数人、私のところに来たのよ……どーがをとる?とか言って……」
おかっぱ頭のトイレの花子さんが遠い目をして話し始めた。
「おぉ、まだまだ現役じゃねぇか、嬢ちゃん」
人面犬が嬉しそうに尻尾を振った。
「それがさぁ……ちゃんとノック3回と遊ぼ、の誘いがあったから行ってみたら、いきなりなんか光ってる板切れ向けられて……おぉ!マジで出た!すげー!!って、なぜか喜ばれて……」
花子さんは都市伝説の噂通りに手を伸ばした。そしたら、その手を握られたのだ。
「花子さんと握手しちまった!俺すごくね!?やばくね!?」
ブンブンと勢いよく振られた勢いとあまりの元気さに花子さんはすごすごと消えざるを得なかった。恐れない人間、生きるエネルギーに満ちあふれた人間を地獄に引きずり込むのはなかなか大変なのだ。しかも、噂が薄れて力が弱まってしまった現代では。
「さすがに、泣きそうになったわ……」
ずぅん、と空気が沈んだ。トイレの花子さんといえば、一時期は一世を風靡した都市伝説の星であったというのに、今となってはこの有様。
「わしもなぁ……」
端っこで話を生きていた婆さんが口を開いた。
「昔はあんなに楽しかったというのに……最近はいーてーしー?とかいうののせいで途中で止まらざるを得ん。それに、最近はかめらが多すぎる……速度違反で追われてのぉ……怖がらせはしたいが、そういう意味で有名になるつもりはないんじゃ……わしはターボババアであって、速度違反ババアではないからのぉ……」
「お婆ちゃん、そういえばお爺ちゃんは?」
口裂け女が周りを見回して首をかしげる。
「リアカージジイかい?爺さん、どうも車に後ろから煽られたらしくてねぇ……最近は夜中は100キロ以上で飛ばすトラックとか多いからのぉ……」
あちゃあ……と皆が顔をしかめた。
「今は田舎道をのんびりするほうがいいとかって真っ当なジジイみたいなこと言ってるよ」
実に世知辛い世の中になったものである。
「最近の人間は恐れを知らなすぎるからねぇ……」
「そういえば姦姦蛇螺の縄張りにも入った阿呆がいるって話じゃねぇか」
「つくづく、最近の人間ってのは畏れを知らない」
「良くないわよねぇ。おかげで生きづらいったら……」
身体が透けてきたり力が弱まったりと実害が出ているのだ、どうしよう。
「というわけで、生存戦略会議よ!現状は今の話で皆わかったでしょ!さ、バンバン提案していくわよ!」
花子さんが張り切った声を上げたものの。
「「「「しーーーーん」」」」
沈黙。都市伝説黎明期を駆け抜けた怪異たちが揃いも揃ってこのザマである。
その時、構内の電光掲示板がジジッ……と音を立てた。
『バズろう』
たった4文字が瞬いた。実に余計な一言である。
「ばず……なに?」
「そういえば、私に握手かましてきたやつらが、「これでバズる!」とかなんとか……」
「なんじゃ、最近の言葉か?まったく、最近の若いのはわけのわからん言葉ばっかり使いおるわ」
「っかー。最近の若いのはまともな日本語も使えんくせにわけの分からん言葉ばかりは使いこなすんだから、人間ってやつは分かんねぇもんだ」
きさらぎ駅に設置されたモニターが動画サイトを映し始めた。どうやら、人間のイメージに合わせて近代化されているらしい。便利な怪異だ。
再生回数の多い動画が次々と流れていく。
「これが、ばず……?」
「よくわからんのぉ……」
「んだこりゃ。おい、ここの文章を見てみろ。これを書いたやつは話し言葉と書き言葉の違いも分からんのか?」
「人面犬……気にするとこそこ……?」
「ここの数字が多ければいい、ってことかしら……」
首を傾げながら流れていく動画を見る都市伝説怪異たち。シュールだ。
「なにかしら……この、踊ってみた、とかやればいいの……?」
「わしらが踊るのか……?」
「俺、2本足で立って踊るのは無理だぞ……」
むむ、と皆して顔を見合わせた。
「きさらぎ駅は、今でも力のある有名な都市伝説……私たちも、弱まってるとは言えまだ覚えられてる有名な都市伝説……」
「きさらぎ駅で踊ってみた動画、ね……」
「花子に口裂け、お前たち本気か!?」
大きな口をパカっと開けて、人面犬が食ってかかった。
「俺たちはそりゃ由緒正しき妖怪とは一線を画して弱いがな、それでも怪異として生まれた以上は誇りってもんが……!」
「じゃあやらないの?」
ぴたっと人面犬の口が閉じた。
「むぅ……人面犬の言うことも物凄くわかるが……しかしこのままのやり方では消えるのを待つ一方……」
「婆さん、あんたもか……!………確かに、消えるのをただ待つよりはマシかもしれんが……」
難しい顔で自分の体を見つめる人面犬。厳めしいおっさんの顔に似つかわしくないモフッとした尻尾がフリフリ。人面犬は尻尾を追いかけ始めた。犬である。
「じゃあ決まりってことで」
花子さんが会議を閉めようとしたその時。
「にゃぁん」
猫の声にモニターを再び見る。いろんな猫の動画が流れていく。
「わ、可愛い!」
「こういうのも、ばず……なのね」
ふむふむ、と皆してモニターを覗き込む。
「なぁ、おい……きさらぎ駅、一つ前の動画に戻せ」
人面犬が首を傾げて声を上げるときさらぎ駅の電光掲示板が『OK』と流れた。現代かぶれめ。
三毛の可愛い猫がカメラ目線で可愛らしい仕草をしている。
「………こいつ、猫又じゃねぇか……」
人面犬が呟く。
「……………いやいやいや!由緒正しい妖怪の猫又さんがこんなこと……」
「そ、そうじゃな。猫又さんといえばわしらとは格が違うれっきとした妖怪。それがまさかこんな……」
ド困惑する都市伝説怪異一同。
「にゃあん」
カメラ目線。肉球とお腹を見せてゴロンと転がり、体を丸めて顔を洗う。カメラに向けて上目遣いで……。
『かわいい!』
『飼い主さんのことが大好きなんだろうなぁ』
『これはギネスに載るくらい長生きしてほしい!』
『猫最高!』
コメントが流れていく。
「長生きって……」
「500年はもう生きてるわよね、たぶん」
「まだ長生きするだろうなぁ……」
「わしより長生きじゃぞ……」
都市伝説怪異一同がぼやぼやとそんな言葉をこぼしている間にも、視聴回数が爆速で伸びていく。
『猫ちゃん神!』
『おぬこ様の奴隷羨ましいー!』
コメントが積み重なって……。
「おい待て……これ……下手したら本当に神格化するんじゃねぇか……?」
「猫だからって……!可愛いからって……!!」
「わしらも頑張っとるんじゃがのぉ……」
ずぅん……と空気が死んだ。きさらぎ駅はそっとモニターを切った。
「私たちもバズるわよ!」
花子さんが立ち上がって拳を振り上げる。
「私たちが生き残るために!」
「そ、そうじゃな……!神になりたいとは言わん、じゃが、存在を自力で保てるくらいには……!」
「猫にできるんだ、犬にできねぇはずがねぇ……!」
「あんたは顔がおっさんだから比較には向かないんじゃない?」
「うるっせぇぞ、口裂けぇ!」
「いいから!とりあえず、『きさらぎ駅で踊ってみた』動画を撮るわよ!!!」
その後、本当にその動画が流れたのか。バズったのか。ディスられたのか。
その結果を知るものはいない。
「にゃんだかんだ、人間に飼われてご機嫌取りするのが一番楽にゃんだなぁ〜。猫缶もちゅ~るも美味いにゃ」
メインにしている『殴る勇者と斬る魔王』は積み重ねていくタイプの小説なので、こいつどんな話書くんだろ、が見えづらい作品となっております。
なので、不定期更新の短編集合型を作ることにしました!
次の話は少しシリアスめに考えておりますので、ぜひ読んでいただければと思います!
お読みいただき、ありがとうございます!
またよろしくお願いします!




