第一章 「永遠のプリンセス」専用クラス
私立あかつき学園の旧館三階、西側廊下の一番奥。
そこに、非公式に「プリンセス棟」と呼ばれる特別クラスがある。
正式名称は「特別選抜国際教養クラス」。
だが、誰もそうは呼ばない。
在籍する生徒が、雑誌やネットで「三人のプリンセス」として騒がれているからだ。
一人目は、財閥令嬢で才色兼備の鷹宮ユリア。
二人目は、人気インフルエンサーでもあるモデルの霧島玲。
三人目は、国内随一の名家の娘で、政界ともつながりが深い九条院沙羅。
彼女たちは、学園の噂話と憧れの頂点にいた。
同時に、教師たちにとっては扱いが最も難しい三人でもある。
その「プリンセス棟」に、俺は今日から臨時担任として配置された。
教務主任に言われた第一声は、今も耳にこびりついている。
「絶対に、余計なことには関わるな。彼女たちは『永遠のプリンセス』なのだから」
意味が分からないまま、俺は旧館の扉を開けた。
ガラス戸の向こうで、三人が振り返る。
まるで舞台のスポットライトの中央に立っているかのような、完璧な振り向きだった。
「今日からこのクラスを担当する、春野悠真です。国語を──」
名乗りかけた俺の言葉を、霧島玲が笑いながら遮る。
「知ってる。急に配置換えになった新任の先生。
歓迎するよ、春野先生。ここは、退屈しないから」
彼女の笑みに、かすかな棘を感じた。
そのとき、窓際の席から、九条院沙羅が穏やかな声で言った。
「先生。ここは『永遠のプリンセス』の部屋なんです。
捨てられない人形のように、いつまでもここに飾られている。
……でも、見た目ほど楽しい場所でもありませんよ」
最後の一言だけ、微かに震えていた。
鷹宮ユリアは本から目を上げず、ボソリと言う。
「先生。ひとつだけ忠告を。
ここには、プリンセスが三人、プリンスが一人、います」
俺は思わず聞き返した。
「三人はプリンセス、なのに……一人はプリンス?」
ユリアはようやく顔を上げ、俺の顔を真っ直ぐ見た。
その瞳は、試すように鋭い。
「ええ。プリンスは一人。
でも、どの一人がプリンスなのかは、ここでは誰も知らない。
知ろうとした人たちは、みんな、ここからいなくなったそうですよ。先生も、気をつけて」
その日、俺が余計なことに首を突っ込まないと心に誓ったのは、言うまでもない。
だが、その誓いが一週間と持たないことも、まだ知らなかった。




