始まりの街、ハジマチ
「なるほど!あなたのスキルは『腕力強化』なんですね!凄まじかったです!」
俺はアリサちゃんに、自分の腕力について簡単に説明した。
そういやこの世界の「スキル」って、具体的には何なんだろう。
アリサちゃんは『潜伏』スキルを持ってると言っていたが……。
「そういやスキルってなに? あんま詳しくなくて……」
「フッフッフ……そんなことも知らないんですか? あなたって意外とおバカなんですね!いいでしょう!教えてあげますよ!」
……なんだろう。
この子に「おバカ」と言われると、妙に腹が立つ。
「スキルっていうのは、生まれつき誰しもが一つ持っている能力のことですよ!例えば私だったら『潜伏』!息を止めてる間は誰からも見られなくなります!匂いや音は消せないので注意は必要ですが!」
なるほど。この世界では、全員が何かしらの特殊能力を持っているらしい。
確かに、さっきの潜伏は本当にすごかった。一瞬で姿が消えたからな。
「そういえばウサキングさんは——」
「ウサキングじゃねえって!颯太な!寺井颯太!」
そういえば、ちゃんと名乗ってなかった。
ツッコミに夢中になりすぎていたらしい。
「えへへ!ソータさんですね!覚えました!それで、ソータさんは何しにこの森に来てたんですか?」
「あー。それはだな……」
「それは!?」
「えっとだな……」
「うんうん!」
……言いたくなさすぎる。
なんでこんなに目を輝かせてるんだ。
「迷い込んだ」
「へ?」
「腕力使えば簡単に移動できるんじゃね?って思って試したら、すげえ高く飛べてさ」
「なるほど?」
「着地のこと考えてなくて、気づいたらこの森に真っ逆さまだった……」
思い返してみても、意味が分からない理由だ。
「あっはははははは!ソータさんって、意外とドジっ子で残念なタイプなんですね!」
——うわ。
この子にだけは言われたくなかった。
「それじゃあ迷子さんってことですよね?よかったら街まで案内しましょうか?」
「マジで!?いいのか?」
「はい!これも何かの縁ですし、助けていただいたので」
あのクマ相手なら、この子は逃げられただろう。
それでも一緒に来てくれるらしい。ありがたい。
「ありがとう!じゃあそうさせてもらうよ!」
「えっへへ!りょーかいです!じゃあ一緒に行きましょう!」
そう言われ、俺はいつものように手を後ろに組み、ウサギ跳びを始め——
「そういえば気になってたんですけど」
「ん?」
「腕を動かすと危ないから、手を後ろに組んでウサギ跳びしてたんですよね?」
「そうだぞ!」
「別にそれ、腕を後ろに組んだまま普通に歩けばよくないですか?」
「た、たしかに!!!」
完全な盲点だった。
そんな発想、なぜ今まで出てこなかったんだ……。
「もしかして、めちゃくちゃおバカですか?」
絶対にこの子にだけは言われたくない。
⸻
その後、街までの道中を、俺たちは数日かけて歩いた。
アリサちゃんから、この世界のいろんな話を聞いた。
四年前、突然魔王が現れ、魔物が凶暴化したこと。
冒険者という職業があり、ギルドで登録できること。
ランクは松級、竹級、梅級、特上級——。
うな重と同じシステムなのかよ!特上級ダセえな!
「ちなみに、私は松級です!」
「えっへへ!本当に何も知らないんですね!どおりで.....」
「ん?」
「いえ、なんでもないです!」
「俺も冒険者になろうかな」
「え!?冒険者じゃないんですか!?あんなにすごい攻撃力なのに!勿体ないですよ!でも、それなら今向かってる街はピッタリですよ!何しろ冒険者にとっては『始まりの街』と呼ばれてるんで!」
「そうなの?」
「はい!周辺の魔物は弱めで、依頼も比較的簡単めなんですよ!」
「なるほど」
この数日間は、正直言って騒がしかった。
アリサちゃんが「服を落としたかも」と言い出して一緒に探し回ったら、普通に着ていたり。
服を落とすってなんだ。そういうのって帽子とか、せいぜい手袋とかだろ。
食料確保のためにモンスターを狩るのを手伝おうとして、俺が倒した瞬間に消し飛ばしてしまい、めちゃくちゃ怒られたりもした。
そんなことを繰り返すうちに、少しずつ分かってきた。
この力は、振るだけじゃダメなんだ。
だが、確実に前よりはマシになっている。
物を持つことも、腕を動かすことも――普通に、できるようになってきたのだから。
「でもやっぱ焼肉には塩を少し振るだけで肉本来の味をだな...あっ!」
他愛もない話をしていると、ついに見えてきた。
「いやいや、焼肉はタレが1番美味しいんですよ!分かってないですね〜...おっ!ついに到着ですね!ここは冒険者にとって始まりの街!始まり...街...ハッ!ハジマチです!ようこそハジマチへ!」
「それ今思いついただろ!そのくっつけるやつ好きだな!?」
街に足を踏み入れた瞬間.....
「すごい!」
思わず声が漏れた。
この世界に来てから数日――人の住む街を見るのは、これが初めてだ。
ここまでの道中は、森を突っ切り、腰のあたりまで伸びた草原をかき分ける毎日だった。
足場は悪く、歩くだけでも一苦労。
だからこそ、人の手で丁寧に舗装された石畳が、やけに眩しく見える。
それに、人の数がとにかく多い。
アリサちゃん以外の人間を見るのも、これが初めてだった。
獣の耳を生やした人、背が低くて耳の長い人――たぶんエルフだろう。
見た目も種族もさまざまで、まさに異世界って感じだ。
行商人の威勢のいい呼び声。
道を走り回る子供たちの笑い声。
街全体が、生きているみたいに騒がしい。
……なるほど。
確かに、ここは「始まりの街」だ。
「おっ!アリサちゃんおかえり〜!久しぶりだね!」
「はい!ただいまです!」
「おっ、隣の子は?」
「この人はソータさんです!あそこの森で知り合いました!」
「どうも!冒険者になりに来ました!」
「お〜!大歓迎だよ!ようこそ『ハジマチ』へ!」
マジでハジマチなのかよ!?!?
ということで、俺たちは早速冒険者ギルドへ向かうことにした
「いや〜楽しみだな!冒険者ギルド!俺もついに冒険者か!」
「......」
「どうした?」
「......へ?何がですか?」
「ん?いや、冒険者になるの楽しみだなって話」
「あ〜!そうですね!あ、着きましたよ!冒険者ギルド!」
どうしたんだろう。まあいいか。
早速ギルドの扉を開けた。フッ。今の俺にかかれば、開き戸を開けるくらい容易いもんさ。
ドーン!扉が遥か彼方まで吹き飛んでいった。中の冒険者たちにすごく見られてる。気まずい。
「ごめん力加減ミスった。」
「もー!扉なら私が開けますから!まだまだ制御できてないじゃないですか!」
「まじごめん」
「ガッハッハッハ!いきなり扉をぶっ壊すなんてやるじゃねえか!」
一人の冒険者がそう笑うと、ギルドの中は笑いに包まれた。良かった...とりあえず怒られては無いな...
「おー!アリサじゃねえか!生きて帰ってこられたか!どうだい?そろそろうちのパーティに入る気になったかい?」
「言ったでしょ?お断りだって。」
「おー!いつも通り冷たいね〜!」
さすがアリサちゃん、『潜伏』は便利なだけあって、色んなパーティに誘われてるのだろうか。
しかし、いつになく冷たいトーンだ。それに「いつも通り」?何言ってんだろうコイツは。
「それよりソータさん!受付はこっちですよ!」
アリサちゃんに連れられて、ギルドの受付まで来た
「冒険者登録に来ました!」
「は〜い。登録ね。それでは、500うぇ〜ん頂きます。」
うぇ〜ん!?通貨だろうか。なんだそのふざけた単位は。単語に"〜"を使ってもいいのか。
「ちょいアリサちゃんアリサちゃん!500うぇーん?ってのが必要らしいんだけど」
「うぇーんじゃなくてうぇ〜んですようぇ〜ん!」
「そこそんな大事なの!?」
「超大事ですよ!はい!クマ退治の報酬も兼ねて、50000うぇ〜んです!」
「ありがとう。」
「へえ...。はい。10000うぇ〜ん頂いたので、9500うぇ〜んのお返しね。」
うぇ〜んマジで嫌だな。響きがほんとに嫌すぎる。
「はい。じゃあこの水晶に手を置いてください。」
「分かりました。」
お!これは知ってるぞ!水晶でステータスとか測るやつだろ!
よく見るやつだ!
「気安く水晶に触らないでください。」
「なんでだよ!」
何がしたかったんだこいつ!マジで何!?
「あ〜!ベネッタさんま〜た変な絡みしてる!」
「ははは。ごめんアリサ。ついからかうのが面白くて。」
「も〜!」
からかわれたのか...変なマジで変な絡みすぎるだろ。
「それじゃあ少年、このカードに触れてみてくれ。大丈夫、もうからかわないさ。」
「はあ...。」
カードに触れてみた。すると、カードに文字が浮かび上がってきた。
「おお!」
「それが冒険者カードだよ。個人情報と、倒したモンスター、そして冒険者ランクが表示されるよ。素材がなくても、カードで倒したモンスターを見せてくれれば討伐報酬が渡せるから。まあ、まずは松ランクからせいぜい頑張ってくれよ。」
「はい!」
なんだかワクワクしてきた。
...うん?でも何かが引っかかる...。なんだろう?
「ところで少年、キミはアリサの友達だろう?」
「はあ...。まあそんなところですが...」
「そりゃ珍しいな。まあ、あの子の事もよろしく頼むよ。」
「はあ...」
どういう事だろう?俺がよろしくされるほどあの子は弱くないと思うが...。
「ほら、早速お友達の出番だよ!行ってきな!」
「え?」
振り向くと、驚きの光景が広がっていた。
「アリサよ〜、そろそろ俺のパーティこいや。」
「やめてください!引っ張らないで!」
アリサちゃんが絡まれていた。しかも本気の拒絶をしている。
珍しいな。
「ただでさえ女で冒険者とかカスみたいなもんなのに、スキルが『潜伏』とか弱すぎんだろ!顔がいいからパーティ入れてやんだから感謝しろよ!心の広い俺と、顔をよく産んでくれた親によお!」
なるほど。理解した。そりゃ嫌がるわけだ。どうやら女冒険者は差別されてるらしい。まあそれもひどいけどしかし、気に食わんな。一発キレとくか。
「はあ!?『潜伏』超強いだろ!馬鹿じゃねえの!?」
「......え?」
アリサちゃんがキョトンとした顔でこっちを見てる。
「ギャハハハハ!!『潜伏』のどこが強えんだよ!?」
「はあ?いつだって逃げられるし、奇襲もできる。それに、どこから攻撃されるか分からないってクソ強えだろ!」
「ギャハハハハ!!聞いたかみんな!?逃げる!?奇襲!?そんなのはザコの手段だ!パワーこそが最強なんだよ!」
何人もの冒険者に笑われた。本気で言ってるのだろうか。
「なあアリサちゃんアリサちゃん、こいつらめっちゃ馬鹿だぜ?」
「う、うん...。」
自信なさげだ。コイツらの言うこと真に受けてんのか?
「テメエ2回もバカっつったか?俺を鎖鎌のリュウと知ってて言ってんのか?」
「マジで誰だ?」
「「.....プッ。」」
アリサちゃんとベネッタさんがウケてる。いや、ほんとに知らなくて...
「キエッキエッキエ!!!俺を怒らせるなんていい度胸だなあ!?ジュルルルル...いてっ。」
リュウが鎖鎌の刃の部分を舐めて舌を切ってる。
「おいコイツめっちゃ馬鹿だぜアリサちゃん!?」
「や、やめてください...プフッ!」
笑いを堪えきれなくなってる。こいつがバカすぎて元気を取り戻してきたな。よかった。
「キエエエエエ!!!よくもやったな!」
「だいぶ自分のせいだっただろ」
「俺を怒らせた罪はデカい!くらえ!『雷撃』!」
「鎖鎌関係ねえのかよ!」
ホントなんなんだこいつ!スキル『雷撃』なのか!
「避けてください!」
ズシャアアアン!
アリサちゃんが忠告したが既に遅く、ものすごい轟音と共に俺の頭上に雷が降ってきた。
雷は前世で死にかけた技だ。まずいと思ったが...
あんま痛くない。やっぱあのカス女神、めよカスが別格なのか...認めたくねえ...
「キエッキエッキエ!!!俺を怒らせたからこうなるんだキエ!」
「そんな語尾じゃなかっただろ」
「いやあああ!ソータさああ...あれ!?」
「キエエエキキエ!?」
思わずツッコミを入れたら驚かれた。
驚き方もキモいなコイツ
「なんか俺、耐久力凄まじいらしいんだよね」
じゃあ次は俺のターンだな。
数日で身につけた俺の攻撃の制御を見せてやるよ
俺はそっと鎖鎌のリュウに近づいた。
「な、なんだキエ...!?」
絶対最初そんな語尾なかったよね?
警戒しているリュウに、そっと、ビンタをした。
その瞬間には、彼は壁にめり込んでいた。
遅れて衝撃波とパアアアン!と軽快なビンタの音がやってくる。
「ねえ見たアリサちゃん!?どこも消滅してないよ!」
「凄いです!制御が上手くなってます!」
「「「「「......はあああああ!?!?」」」」」
冒険者たちが、さらに遅れて驚愕の声を出していた。
「パワーこそ全てみたいなことを言ってたな?この俺が『潜伏』を強いって言うんだ!文句あるやつはいるか!?!?」
「........」
ギルドが静まり返っていた。
これで一件落着だな!めでたしめでた___
「はい。じゃあ少年、壁と扉の修理費で20万うぇ〜んね」
「……え?」
まじですか。
「うえええん!アリサちゃああああん!お金稼ぎ手伝って〜!!!!!」
「……私で、いいんですか?」
「は?」
「……私、女ですよ?」
「知ってるけど」
「『潜伏』なんてスキルですよ?」
「だから超強いって」
「でも……」
「そういえばさ、倒したモンスターって、冒険者カードに記録されるらしいじゃん?」
「はい」
「俺、クマを消し炭にしたし、クマの素材は残ってないはずなんだよ。しかも冒険者カードもなかったから、クマを倒したという証拠がないよね?ならギルドから報酬は出ないはず。」
「......」
「クマの報酬として俺にくれた50000うぇ〜ん、自費だよね?」
「......はい。」
「ありがとうだけど、今度からそういうのやめてね。」
「.....すみません。」
「お金貰った分の借りも返さないといけないね。それと俺、常識ないし、力の制御も上手くできなくて、残念だろ?」
「そうですね!」
即答やめろ。
「だからさ——俺には理解してくれるアリサちゃんのサポートが必要なんだ!俺の仲間になってください!」
「……はい!こちらこそ、お願いします!」
こうして、アリサちゃんは俺の仲間になった。




