女神と呼ぶにはあまりにも
俺は寺井颯太、18歳。
高校を卒業し、大学への入学が決まり、一人暮らしを始める予定だ。
現在は大学が始まる少し前――いわば人生で一番ダメになれる“実質ニート期間”を満喫している。
「いや〜至福の時間だ!ゲーム楽しい〜!ありゃ、ポテチが切れてる……買いに行くかあ……」
ポテチが切れたのなら仕方ない。
ポテチとコーラを用意してやるゲーム以外なんて言語道断だ。
俺は渋々、徒歩でコンビニへ向かうことにした。
その途中だった。
突如、空気を叩き割るような轟音が鳴り響いた。
「びっくりした!なんだ!?」
そう思った直後、異変に気がついた。
身体が、動かない。
息を吸おうとしても、胸が言うことをきかない。
全身が一瞬で熱に包まれ、思考が真っ白になる。
――あ、これヤバいやつだ。
苦しい、痛いという感覚だけが遅れてやってきて、
次の瞬間、意識が強制的にシャットダウンされた。
そう、雷が直撃したのだった____。
*
「すみませんでした!」
意識が途切れた直後、俺は真っ白な空間に立っていた。
目の前では、やたら整った顔のお姉さんが深々と頭を下げている。
「手違いで雷を落としてしまいました!」
ははーん。
“いつものお約束”だな。神様の手違いで死んで転生する系のアレだ。
理解はした。でも俺はキレなきゃいけねえポイントがある。
「いやせめて即死させろや!クソ苦しかったわ!死ぬかと思ったんだぞ!?」
「いや死んでんねん」
即ツッコまれた。
確かにその通りだが、お前に言われたくはない。
「人殺しといて何ツッコんでんだよ」
「まじごめん」
ノリが軽い。軽すぎる。
「ガチで痛かったんだからな!」
「ガチミスったごめん。でもそれはそうと、痛いで済んでしばらく生きてたのはあなたがおかしいです。可哀想だったので息の根を止めてあげました」
「息の根止めてあげました!?」
「はい。でなければ、その後も苦しいまま生き続けて、最終的に餓死します」
「いや誰か通って救急車呼ぶだろ」
「それが、なぜか誰も通りませんでした。いつもは人通り多いのに。なんででしょうね?」
「知らねえよ!え!?マジで何!?」
「ご都合主義的なやつじゃない?」
「ご都合主義」
なんてメタいことをさらっと言うんだ、この女。
そんでご都合主義を起こすなら神であるお前だろ
「しゃーなしで息の根止めてやったんで感謝してくださいね!マジしゃーなしですよ!」
「そもそも手違いで雷落としたのはお前だろ」
「それはそうと、手違いで雷とはどういうことですか?」
「はい。普段は雷を落として、極悪人に天罰を与えたり、気に食わないやつを殺したりします」
「気に食わないやつでも殺しちゃダメじゃない?」
「まあダメですね」
「だよね」
「でも暇つぶしにムカつくやつに天罰を与えるとスカッとしますよ!」
「カス野郎か?」
「で、その……今回はですね」
女神様は視線を逸らした。
「手が、滑っちゃって!」
「え〜!?!?」
そんなうっかりミスで人を殺しちゃったというのかこいつは
「それはともかく、ここに世界があります」
「すごいパワーワードだな」
女神と呼ぶにはあまりにもカスすぎる女――
略してめよカスさんが、映像を見せてくる。
そこには、人間と魔物が争う異世界の光景が映っていた。
「めよカスって呼ぶのやめてくださいね」
「心読めるんだ」
「実はあなたには才能があります。天罰を受けてあれだけ耐えた人間は初めてです。普通は即死なので」
なるほど。
どうやら俺は“耐久力”だけで人生を突破してきた存在らしい。
……言われてみれば、だ。
人生で耐久力を使う場面なんてほぼなかったから、気づかなかった。
「なのでお詫びに能力を授けて転生させます。人間側でも魔王側でも可です。正直どっちが勝っても神的にはどうでもいいので!」
「すげえこと言ってるな……じゃあ人間側で。それで能力って?」
「おけまるだよ〜ん!能力はなんでも可能ですよ!」
なんでも、だと……?
ならば魔法、スキル、特殊能力、etc......。なんでもできるというわけか。
だが俺は複雑なのは嫌いだ。
ならば、元の自分の延長線――シンプル・イズ・ベスト。身体能力強化だ!
「決めました!俺が欲しい能りょ」
「身体能力上昇ですね!どのくらい?」
「心の声聞こえてたんだった!言わせてよ〜……」
どのくらい……?
どれだけでも可能なら、例えば腕力2兆倍みたいな___。
「了解!腕力2兆倍ですね!それでは行ってらっしゃ〜い!」
「は!?まだ何も言ってねえよ!?」
抗議する間もなく、視界が白く染まった____。
*
気がつくと、見知らぬ荒野に立っていた。
どうやら異世界らしい。
(どうせなら街に飛ばせよ……)
そう思いながら一歩踏み出した、その瞬間。
ドン、と空気が爆ぜる音がした。
俺が腕を振った衝撃で、
地面も、崖も、遠くの山すら消し飛んでいた。
「腕力2兆倍、想像以上にやべえな!?」
――こうして、俺の異世界生活は、最初から色々と終わっていた。




