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偽りの侍女

「中々に辛辣でしたね」

「思うところがあるのでな。

 後で教えよう。

 まずお茶を入れて欲しい」

「少々お待ち下さいませ」


 カール殿下の住んでいた宮殿、まあ専用の建物なのだがこれは館と言った方が正しいのではないだろうか。

 あの愚物との遭遇の後に進んだ訳だが、目の前にあったのは歴代の第一王子が使う建物だった。

 伯爵領で言えばどれぐらいの建物に相当するだろうか。

 うーむ、此処で夜会を開いたり、執務を執り行う事があるのだとか。

 領主の館規模はあると見ていい。

 今は年齢的に人を集めるとしても茶会止まりだけど、この先、王太子になるとそうもいかないそうだ。

 うん、カール殿下が早く帰還してくれないと困る。


「殿下、お待たせしました」

「ああ、有難う」


 ソファに腰かけてゆったりとさせて貰っていた所にヴィオラが茶道具一式を乗せたワゴンと共に現れてお茶を淹れてくれる。

 うん、いい香りだ。

 もしかするとルードルフ産かも知れない。


「さて、先程のクラウスに対しての対応だけど、うん、今は周囲も上も誰もいないね」

「はい、影は基本的に王族一人に対して一人が付きます。

 そして影の事を知るのは本来国王陛下と王太子殿下のみです、カール殿下が早くも我らの存在をお知りになっていたのは少々特殊な事になり、身辺に危険が迫った可能性を考慮しての事だと聞いております」

「成程、あとは外二人が警護に回っているんだね」

「常に二名と一名の連絡役が」


 ヴィオラは目を見開いて頷き、警備状況を説明する事で肯定を示した。

 そうか、更に連絡役もいるのか。

 護衛の方法や配置なども一度見直さないといけないのだろうな。




 暫し間を空けて。




 淹れて貰ったお茶を飲んで一息ついた所でヴィオラにも席を勧めたのだが、まだ態度が硬いのか固辞された。

 うーむ、まあ仕様が無い、そのうち慣れるだろうし、慣れて貰うと言う事で話を始めよう。


「まあ簡単な話なんだが、殿下と似たような所があってね、ああ顔って意味じゃないんだ。

 殿下は幼少の頃から王城で暮らしていて臣下としての知り合いや学友という名の配下のような者はいても、心から只の友人と言える者はいなくて、そして兄弟といえばあの愚物と妹しかいなかった。

 そして殿下は聡明であるが故に、友人と知り合いの線引きをされていた訳だ。

 一方で俺、いや癖になると困るな、私にも兄弟はいなかったし、友人と呼べる者はいなかった」


 俺の遊び相手と言えば基本的に父さんか母さん、爺に騎士団長といった大人たちだけだった。

 これは俺が養子だったからじゃない。

 小さい頃の俺は力加減が下手だった。

 物理的にも魔法的にも。


 今でこそ何かを殴っても壊さないでいられるが、子供同士で遊べば下手をすると相手を傷つけるだけでは済まない状態にする可能性が高かった。

 簡単に言えば事故で子供を殺す可能性が在ったと言う事。


 一部要因は父さんと母さんにもあるとは思う、なにせ俺が剣を持ったのは二歳を過ぎて半年も経たない頃だそうだ。

 そして対抗するように母さんが魔法を教えてくれたのだから、早すぎるとしか言えない。

 爺も最初は止めようとしたが、頑張って父さんの真似をする俺をみてホッコリしたそうだ。

 騎士団長辺りは将来有望だよなと言ってもっとやれと煽ってたとか。


 まあ、才能というか素質が無ければ微笑ましいだけの良い話だったろうな。


 そして五歳頃に気が付いた時には手遅れで、身体強化を使う子供が屋敷内部や庭を走り回り、城の裏にある野山を駆けていたと言う訳だ。

 まあ殿下とは少々違うけれど、そうした理由で幼少期を過ごしたものだから友人という者を知った時には既に周りから領主の息子、養子の嫡男という目で見られている事になった。


 少なくともルードルフ領の家臣なので大丈夫だったのかもしれないが、最初に寄ってきたのが所謂親に命令された子供達だったのが俺にとっては駄目だった。

 使ってくる言葉は全ておべっかで本心では恐怖されているのが見えてしまう。


 まあ、今振り返れば子供ぐらいは簡単に倒せるような武術に魔法を修めている相手を平気で近づける人間が居る訳も無いとは理解は出来なくはないのだけれどもね。


 上辺だけとは言っても、おべっかを使う事なんかも将来を考えれば当然の事だったのに、それが無性に嫌でたまらなくなった俺が無意識に発動した身体強化で玩具の剣を握り折ったから大変な騒ぎになった。

 フフフ、思い出してもジョビジョバと子供達が失禁して泣き喚いた景色が脳裏に蘇る。


 そういう訳で俺に友達が居なかった訳だけど、同じように殿下にも友達が居なかった。

 二人して同じ顔をした人間に友達が居ない状況。

 思わずお互いに笑えない過去の話しをしていたのに目を合わせて笑いあった。

 其れが原因というか切っ掛けになって、親友になろうかと言う前に何故か俺と殿下は義兄弟の契りを交わして俺が兄になってしまった訳だけれど。


 訳が分からない? 俺にも判らないから当然だろう。

 うむ、結果としては見事な戦闘兄、知性弟の凸凹コンビの出来上がり。

 先程確認できた現実の兄弟は賢兄、愚弟だった訳だけど。


 其処からは兄と弟というより更に互いを理解してルードルフ領での暮らしを楽しんだ。

 俺がカール殿下の聡明さに教えを受け、カール殿下には野山で遊ぶ楽しみを教える。

 そうしてお互いに誰かと共に遊び過ごす楽しさを覚えた。


 まあそういう事でさ、俺の弟であり親友でもあるカール殿下に対する態度として、クラウスの言は許せるものではなかった。


「弟の為に怒らない兄は居ないと言う事だ」

「不思議で御座いますね、義兄弟ですか」

「そう、義兄弟、弟が賢すぎるけれどもな――ん、これは」

「何か……」

「いや近づいてきた人間が誰かと思ってな」

「先程もそうでしたが、殿下は我らの認識範囲を遥かに超えて周囲を把握されておられますね」

「まあ、大量に人がいると無理だが、これ位の密度ならば慣れれば出来ると思うがな、普段は大抵森か山にいるような野生児と言われていたぐらいだ。

 魔力を使って索敵する位は森の猟師でもやる事で大したことではないさ。

 で、来客というか護衛が来るな、お茶を二人分追加で準備しておいて、ヴィオラにも同席して貰う必要がある」

「はい、では準備してまいります」




 それから然程時間を要さず。




 護衛に立っていた兵士から来訪を告げる知らせが届いた。

 ノックの音と共に入室の許可を求める声がする。


「殿下、ソニア・フォン・レフェル様が到着なされました」

「どうぞ、殿下がお待ちです」


 入室の許可に対して目上の者、つまりこの国で国王陛下と王妃殿下以外は俺が対応する訳にはいかない。

 了承の意をヴィオラに示して対応してもらった。


「失礼致します、殿下この度護衛の任に就く事になり、着任のご挨拶に伺いました」

「ご苦労、一先ず其方に掛けて」

「ハッ、失礼いたします」

「ヴィオラお茶を、それと淹れ終わったら一緒に座って下さい」

「はい」

「殿下この者は」

「ああ、私の身の回りの世話をしてくれる事になったヴィオラだ。

 侍女の取り纏めも頼む予定だ。

 信頼をして貰って構わない」

「ヴィオラと申します、殿下のお世話をする事お役目を頂き傍に控えさせて頂く事になりました」

「そうか、私もこの度、陛下より勅命をうけ王妃様の護衛から殿下の護衛責任者に就くことになったソニアだ宜しく頼む。

 殿下、ではこの者は」

「うむ、相変わらず察しが良くて助かる」

「殿下、ソニア様も」

「ああ、事情を知る一人だ」


 部屋の周囲に人が居ない事を確かめて二人の自己紹介をして貰った。

 まあ、うん、ソニアさんが二〇歳独身云々は知っていたのだけど、ヴィオラさんが一六歳なのはちょっと驚いた。

 いや、なんというかもう少し年上だろうと思っていた、顔には出さなかったけど。

 落着きもあるし頭も良さそうで、女性の方が成長が早いとはよく聞くが、同年代の女性がここまで大人びているとは思っていなかった。

 いや、だがソニアさんが二〇歳と言いながら見た目が俺と同じか下位に思えることから考えても個人差と言う事だろうな。

 そして印象通りに精神年齢の差と言える様子は次の会話で示された。



「では別にソニア様は殿下のお気に入りの方という訳では御座いませんのですね」

「ブハッ」


 ソニアさん汚いよ、お茶を吹くのは感心しない。

 即座にクリーンを発動したので大事には至ってないけれども、本格的に嫁の貰い手が無くなるので、もう少々落着きと冷静さを備える事を勧めよう、素材は悪くないだけに残念だ。

 だが今回のこれは説明が不十分だったのが原因なのかも知れない。

 俺からこういう事は説明しておくべきだったかも。


「ヴィオラ殿、ナナナナニを」

「いえ、私が殿下にソニア様が仰る通り夜のお相手としてナニをするのも当然の事、この身を捧げる積りで御座いましたが、殿下が望まれる方や殿下をお慕いする方がいらっしゃるのならば確認は必要です。

 他にもそうした方がいらっしゃる場合にいらぬ諍いを起こす訳にはいきませんので事前に確認をさせて頂こうかと」

「殿下、何とは何では御座いません、いえ何が何と言う訳では御座いませんが、ヴィオラ殿のいうお世話というのはそういう事で御座いますか。

 いえ、これは興味があるとかそう言う事ではなく、夜間の警備状況の配置に問題が生じないようにですね」

「ソニア、落ち着け」

「ハッ」


 一言で落ち着けるというか、従順に黙るのって相変わらずどこか犬っぽいなこの人は。

 見た目も良いのだから普段から落ち着いて欲しい。


「ヴィオラ、その手の事に関しては必要ないと告げようと思っていた」

「そうなのですか、上の者から侍女として仕えるのであるから其方の世話も言い含められましたが」

「わ、私もごしゅもう、御所望とあれば」


 ハロンゾさん何を自分の娘に言い聞かせてるんだろうね。

 あとソニアさんはどうもこの手の話題は苦手のようだ、緊張し過ぎて噛んでいる。

 伯爵領の女性はもっとオープンな人が多かったけど、母さん曰く王都の貴族女性は慎ましやかな人が多いと言っていた。

 こっそりひっそり女性同士で妄想の会話を楽しむらしい。

 中には危険な妄想を始終している者もいるから気を付けるようにと言われたな。

 ソニアさん、いやソニアの場合は慎ましやかというよりも完全に奥手なようだ。


「少なくとも私がその手の事を無理に頼む事は無い。

 殿下にもそうした教育係はまだついていなかったと聞いている。

 責任を取れぬのにどうにも出来る筈がないだろう。

 それにだ、初めてを女性は大事にするものだと聞いたのだがな」

「……殿下が何故それを」

「直感と答えておこう」


 まあ嗅覚とかその他諸々とだけ答えておこう。

 自慢するものじゃないし、理由を告げることは母さんからも止められている。

 だがここは有効活用すべきところだと思う。


「しかし、教えには男性は一五歳にもなれば女性を求めて当然とありました。

 諸先輩からの教えでも健全であればあるほどに夜の側女は必要になると。

 殿下のお立場からすれば、それこそ他の侍女にも手を出せません。

 今後の事を考えれば教育係を採用する訳にもいきませんし街に降りる事も不可能でございます」

「其処まで詳しいのも教育の賜物なのだろうが、其の辺りはどうにかする。

 勤めだと言えど己を殺し過ぎだな。

 正直に言えばヴィオラは十二分に美しいが、責任を持たない関係や本心では無い相手も好みではない」


 告げる内容は本心で答えておこうと思う。

 魅力的な女性に詰め寄られるのは嬉しいが任務というのは頂けない。

 だが、不満はあるか、当然だろうな、容姿も含めて自信もあるだろうし、命じられた事が出来なければ影というのは駄目なのかも知れない、俺には関係ないが。


「……」

「成程其の辺りも了承していて、自信があったのにという所か」

「そうですね、殿下に終身に渡りお仕えするというのはあらゆる意味を含めてで御座います。

 任務だからといって自分から身を捧げる相手位は出来れば選びたいと思っておりました。

 殿下であればという事で決意もしておりましたので」

「カール殿下に一つだけ驚かれた事がある」

「は?」

「容姿が此処まで似ているだろう」

「確かに記憶にある殿下と殿下に寸分の違いもなく」

「まあただな、魔力の差というのは凄まじいもので、男性はそれがナニに現れやすい。

 下世話な話だが一つの理由でもあるし今のうちに言っておくが、教育として連れていかれた娼館で断られた事がある」

「娼婦が断るとは地位的な」

「いや、まあナニがまあ女性の指で言えば7本ぐらいで手首を超えるまでの長さは無理だと断られた」

「指が七本、手首を超える、指が七本……」


 突然ソニアが再起動したが場面が悪かったな、また思考と妄想の海へと沈んだ。

 暫くは放置するしかあるまい。

 まあこの話には続きがあって、可愛い系をお店が気を利かせて用意したのが原因だったとか、後から妖艶と言える程の女性達が現れて相手をされたとか、父さんが俺を連れて行った理由を話した事で母さんが納得するしかなかったとか、まあ色々とあったなうん、どうして俺の過去は笑い話ばかりなのだろうな。


「それは殿下の」

「ああ、まあそう言う事だ。

 此処の部分だけは随分と違うものだなと風呂場で互いに笑いあった。

 まあ義兄弟同士、男の下らない笑い話の一つだ。

 殿下も大きくあったが、私のが特大だっただけの話だ。

 簡単に言えば初めての乙女には酷ということだよ」


 対処法はお姉さん方に教わっているが、まあそれは言うまいよ。




 ソニアの再起動を待って。




 最後はなんとも言えない雰囲気になったが、取り合えず挨拶も済ませた事だし解散した。

 誰のせいだろうな、うむちょっとだけ反省したが後悔はしてない、早めにこうした話は済ませる方が好い筈だから。

 ソニアも貴族の女性としてその手の勉強はさせられていただろうに、思った以上に赤面していたな。


 考えること知る必要がある事がまた増えた。

 影という存在が果たしてどのような者達なのか本当の所は流石のカール殿下も知らなかったので、これから知るしかない。

 だがしかし、暗殺阻止や防諜、又はその逆を請け負うだろう組織かと思うが、何故俺に対して身を捧げるまで必要なのか。

 しかも一族の当主であろうハロンゾの娘ヴィオラを差し出してまでだ。


 寝具の上で寝転がりながら考えてもまあ答えは判らない。

 推測する事しかできないから仕方がないけれど、こう釈然としない。


 銀の髪の狼とは父さんの事だし、まあ偶に王都に顔を出す事だけはしていたから知っていても不思議はないだろう。

 何せ先代国王陛下に仕えていた程の近衛だっていうからには優秀だったのだろうから。

 うん、国王陛下も憧れていたとか言っていたな。

 ただあまりにも貴族としての領地拡大や地位向上に興味を持たない人だったから王宮の晩餐会とかには顔もだしてなかったようだ。

 抜けれない重要な新年の挨拶とか式典だけ出席して、あとは母さんと一緒に暮らしている事を選んでいたからな。


 となると、考えられるのは一族に俺の血を取り込むことかも知れないな。

 俺の魔力量を正確には計れなかっただろうけどもハロンゾには其れなりに判ったみたいだったし。

 それならば子種を貰えるように夜伽を命じていても不思議じゃないか。

 ある意味貴族よりもそうした組織の連中の方が自由な結婚なんて認められないだろうし。


 うーむ、そうなると益々思い通りになるのは癪に障る。

 だと言うのに、このタイミングで部屋をノックするなんて、ヴィオラしか考えられないな。


「殿下、お休みにはまだなられておられませんか」

「寝具に横たわっているだけだが」

「失礼してもよろしいでしょうか」

「構わない」

「失礼します」


 うーむ、あれで通じるぐらいにはお話し合が出来たと思ったんだがな。

 無理強いなんて懐柔したり取り込むには逆効果だろうからその日の内にとは思わなかった。

 というかソニア! 扉前の護衛は如何したんだ。

 これはあれか「解っております、察しました」的な奴か。

 妙な所で配慮しすぎて失敗してるじゃないか。

 警備の交代でもする為に移動させたのかと思っていたのだが、察した感じで機転を利かし過ぎるとまでは俺にも察せなかった。

 ソニアは男女の仲が関係すると途端に役立たずになるのだな今後注意しよう。




 ポンコツのせいで奇襲を受ける事になった。




 いやさ俺も若い訳だ。

 上に纏っていただけのガウンを一瞬で脱いで、裸と見間違う程の恰好とかされると目がいく。

 なにその恰好、透けて見える程の薄絹一枚を羽織るとか問題ありだ。

 この人は自分の体が魅力的なのも判っていてやってるよな。


「身を清めてまいりました、どうか」

 ――ジリッ

「いや、どうかでは無いし、身を清めてと言われてもな、先程も話したと思うのだが」

「ですが、詳しくは判りませんけれども、一族の長である父上からも一生を捧げて殿下に尽くせと言われております。

 これは謂わば嫁げと命じられたと同じ事ですし、一生を捧げろと命じるなど余程の事。

 そして私は命を受け入れ覚悟を決めました、一生を捧げるに相応しい方であると私が決めての想いです。

 ならば遅いか早いかの違いでしかありませんし、十本で肘まであろうとも受け入れるか否かの問題でしかありません。

 それに何よりも、女の勘が告げています、殿下に愛される事が間違いではないと」

 ――ジリッ

「まず疑問に思っているのならその真意を突き止めた方がいいだろう。

 私が何者かは聞いているのだろう。

 それにだ、一生を捧げて尽くせというのは重すぎると思わないのか。

 そもそも嫁げと言われたのと同じと思っているだけでそうではない可能性がある」


 ああ、女性に理論で説得するのは無駄だと色んな意味で知っているのに、なんで説得してるのか。

 ヴォオラの抱かれにきた根拠が最後に言った女性の勘なのだから無駄な説得でしかない。

 あと十本もないし、肘まであったらもう馬並みという奴だと思うぞ、そこまでじゃないからね、どれだけ覚悟決めてるのかちょっと不安になって来てるよ俺。


「いえ、母上からも同じように尽くすようにと言われました、尽くすとは身も心も捧げねばなりません。

 相談も致しましたので、万が一にも入らない場合は徐々に慣らす方法も一族の者から聞いておりますからご心配には及びません。

 安心して事に及んでいただければ、最悪でも手練手管を用いてみますので」

 ――ジリッ


 あー、確認もしてきていると、そして方法も何とかする技を教えて貰ってきたと。

 一種の暴走と言わないかなこれは、いや美人にこうして喋る度に徐々に近づいて迫られるのが悪い気分なのかと言われたら否と答えるざるを得ないわけなのだけれども。


 出会ってその日にってのは納得がいかないし。

 なんだか国王陛下と王妃殿下にハロンゾ夫妻、果てはカール殿下辺りにも嵌められている気もしないでもない。

 だがしかし、ヴィオラを拒めばどうなる。

 傷付ける事になるのだろうか、なるだろうな。

 こんなに美人が一生を捧げるとまで言っているのに断るのか。

 あぁ畜生、判らんが、これ、責任とってヴィオラを奥さんにすれば誰も迷惑は被らないのか。

 自分が異常であって決してお買い得なだけの存在じゃないのは知っている。

 何が不満なんだ、考えろ――不満は……ないな。

 父さんは笑いそう、母さんは、うん大丈夫だろう責任さえとれば怒らない。

 王族の影とか知ったらそれこそ父さんと一緒に笑ってくれるかもしれないよな。


 悩んで解決しないなら、直感に任せようじゃないか。


「そうか、其処まで覚悟しているならば何を言おうが無駄だろう。

 ならば最初に言っておくが、俺に抱かれると言う事で子を里に残すなどさせない。

 一生を捧げるというならば俺の横に常に立つ覚悟が必要になる。

 例え一族の掟が在ろうが無かろうが、そんな物は俺には関係がない」


 一族を捨てろ、最低でもそれが条件だ。

 酷い話かもしれないけれど領主の妻にするのだから、其処から飛び出すか否か。


「一生を捧げるべきお方であるとの勘を捨てる事はありません。

 仕えるとはつまりそう言う事です。

 私の勘は今まで外れたことが無いのが自慢ですから。

 末永くお傍に置いて下さいませ、殿下」

「わかった、ヴィオラ俺も俺の勘を信じてお前を抱こう。

 だがこれから俺と二人この部屋にいる間だけは俺をラルフと呼べ。

 呼び名は重要だ、殿下ではな、問題が有る無しではなく情緒に欠ける」

「はい、ラルフ様と、お呼び」


 ――コンコンコン


 絶妙なタイミングでのノック。

 流石に一生に関わる事を考えていたから少し索敵を怠っていたか、人の接近に気がつかないとはまだまだ俺も甘い。

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