第1話「森の声」
朝。
森に囲まれた小さな村で、17歳の少年・レオは母親と暮らしていた。
「レオ、起きてる?」
「……起きてるよ」
「なら早く降りてきなさい。朝ご飯できてるわよ」
「分かった」
眠そうな顔で階段を下りたレオは、母親と朝食を取る。
「そういえばレオ。今日は森から薪を拾ってきてくれる?」
「また俺?」
「嫌ならお母さんが行こうか?」
「……行ってきます」
「ふふっ、お願いね」
レオは籠を背負い、家を出た。
村から少し離れた森。
レオは落ちている枝を拾いながら歩いていた。
「これくらいあれば十分かな」
籠の中を確認した、その時だった。
「……助けて」
「……え?」
レオは足を止めた。
周囲を見回す。
しかし、誰もいない。
「誰かいるのか?」
返事はない。
「気のせいか……」
そう思って歩き出した直後。
「……助けて」
今度は、はっきり聞こえた。
「誰だ?」
レオは声のする方向へ進んでいく。
森の奥。
そこには、古びた墓地があった。
「こんな場所、あったのか……?」
村の近くにあるはずなのに、レオは今まで一度も来たことがなかった。
ゆっくり中へ入る。
すると、一つの墓石の前で足が止まった。
墓石には――エドと刻まれている。
「ここから聞こえるのか?」
レオが墓石に手を触れた。
その瞬間。
『……ありがとう』
「っ!」
レオは慌てて手を離した。
「今……墓から声がした?」
心臓が激しく鳴る。
すると突然――
ガシャッ。
背後から物音がした。
「……何だ?」
振り返る。
地面から、白い骨の手が伸びていた。
「う、嘘だろ……」
骨の手が地面を掴み、ゆっくりと身体が起き上がる。
一体のスケルトンだった。
「スケルトン……?」
レオは後ずさる。
スケルトンが一歩、また一歩と近づいてくる。
「来るな……!」
その瞬間、レオの右手に黒い紋章が浮かび上がった。
「……何だ、これ?」
紋章が淡く光る。
するとスケルトンは突然動きを止め――
レオの前に跪いた。
「……え?」
レオは呆然とスケルトンを見つめる。
そして頭の中に、無数の声が響き始めた。
『寒い……』
『苦しい……』
『助けて……』
「やめろ……!」
レオは頭を押さえる。
『お願い……』
「やめてくれ!」
叫んだ瞬間、声が消えた。
森に静寂が戻る。
レオは荒い息を吐きながら、自分の右手を見る。
そこには、黒い紋章が残っていた。
「俺に……何が起きてるんだ?」
目の前では、スケルトンが静かに跪いている。
この時、レオはまだ知らなかった。
自分が300年前に滅びたとされる禁忌――
ネクロマンサーの力を受け継いだことを。
そして、この小さな村で起きた出来事が、やがて世界を巻き込む戦いの始まりになることも。
――第1話・完――




