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第三話かくしごとクラス

休日が終わり、月曜日。

俺と千は並んで学校へ向かっていた。

俺たちが通うのは県立朝霧高校。

この町では一番大きな高校だ。

生徒数も多く、部活動も盛ん。

進学校というほどではないが、不良校というわけでもない。

どこにでもある普通の高校。

……少なくとも、一か月前までの俺はそう思っていた。

校門をくぐる。

グラウンドでは野球部が朝練をしている。

吹奏楽部の音が校舎から聞こえる。

眠そうな生徒。

楽しそうに話すグループ。

先生に怒られながら走る男子生徒。

いつもの朝だった。

「普通って、いいよな」

思わず口からこぼれた。

「急にどうしたの?」

千が笑う。

「いや……こういう日常が続くと思ってたからさ」

俺は左腕を見る。

制服の袖に隠れた悪魔式義手。

見た目は普通の腕。

でも、普通じゃない。

あの日から、俺の日常は少しずつ壊れてしまった。

「そういえば」

俺は千を見る。

「結局、お前がKETに襲われた理由って分かったのか?」

千は少し考えてから首を横に振った。

「分からない」

「心当たりも?」

「全然ない」

少し困ったように笑う。

「でもね」

「KET、私を見た瞬間に『見つけた』って言ってた」

俺もその言葉は覚えている。

偶然襲ったようには見えなかった。

「蓮斗さんに聞いたんだけど」

千は続ける。

「『KETほどのGRANDが理由もなく人を襲うとは思えない。たぶん何かを探している』って」

「また『たぶん』か」

「それ以上は教えてくれなかった」

やっぱりだ。

蓮斗は何か知っている。

でも話さない。

そんな気がしてならない。

「まあ、今考えても仕方ないか」

「そうね」

二人で教室へ入る。

「おはよう!」

クラスメイトの声が飛び交う。

俺たちも軽く挨拶を返し、自分の席へ向かった。

ホームルームが終わり、一時間目までの休み時間。

「あの……」

遠慮がちな声が聞こえた。

振り向くと、一人の女子生徒が立っていた。

玖珠南。

同じクラスの女子だ。

どこか緊張した表情をしている。

「千さん」

「少し相談があるんだけど……」

「私?」

千が首を傾げる。

南は小さく頷いた。

「できれば……慎治君も」

俺は少し驚く。

俺まで?

三人は人気の少ない廊下へ移動した。

南は周囲を確認してから、小さな声で話し始める。

「私の友達……金本静って覚えてる?」

「ああ、同じクラスの」

「うん」

南は唇を噛む。

「静がいなくなったの」

空気が一変する。

「警察にも相談した」

「先生にも話した」

「でも、家出だろうって……」

悔しそうに俯く。

「静はそんなことする子じゃない」

千が静かに尋ねる。

「何か心当たりはある?」

南は少し迷ったあと、小さく頷いた。

「ある」

「静が消える前に、変な夢を見てるって話してたの」

俺と千は顔を見合わせる。

「夢?」

「暗い廊下を歩いていく夢」

「その先に、一枚だけ扉があるの」

「赤い扉」

南の声が少し震える。

「毎日その扉に近づいていって……最後には目の前まで行くらしいの」

「静は言ってた」

『次にその夢を見たら、扉を開けちゃう気がする』

「そして、その次の日……静はいなくなった」

俺は黙って考える。

夢と失踪。

偶然とは思えない。

千も真剣な表情になっていた。

「他にも、その夢を見た人はいるの?」

千の質問に、南はゆっくり頷く。

「いる」

「でも、その人は扉を開けなかった」

「だから今も無事なの」

俺と千は視線を合わせた。

これはまだ仮説だ。

だが、もし夢と失踪に関係があるなら——。

「その人に会わせてくれない?」

千が言う。

南は少し安心したように頷いた。

「うん、放課後なら会えると思う」

その約束が。

俺たちを最初の事件へ導くことになるとは、この時はまだ知らなかった。

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