気付いた想い
キースが自分を好きだと、そしてずっと共に居てくれるという都合のいい夢を見た。でも本当は、キースは夢でなくてもずっと言ってくれていたことだ。ただ私が信じなかっただけ。なぜ自分なんかと、どこか言い訳を付けて。誰かの唯一の愛情が欲しかったのに、なぜ戸惑う必要があったのだろう。ミアの言う通り、誰かの愛情を手に入れることを諦めていたのは自分自身ではないか。
ソフィアになって、それは実感していたことだ。父との仲も、母との仲もその関係性を修正できたのだから。だからミアとの妹との関係も、心のどこかでいつかと修正出来ると思っていた。瑞葉と瑞希は無理だったけれど、ソフィアとミアならば。
「ソフィア? 気がついたか」
「キース様?」
ぼーっとする意識が急浮上する。ベッドに横たわる体に、心配そうに駆け寄るキース。ここは侯爵家ではない。
「私、気を失っていたのですか」
「ああ、そんなに急に起き上がってはいけないよ。宮廷医が病み上がりに無茶をしたせいだと言っていたよ。よほど疲れていたんだな」
「いえ、そんな。キース様ほど働いているわけでもないですし。何も無茶など」
「しているよ。そのか細い体で、一人でどれほどの想いを抱え込んでいるんだ。俺はどんなことでも力になれるなんて盛大なことは言わないが、側で支えることは出来る。ソフィアが泣きそうな時はその肩を抱いて、愚痴を溢したいときは隣でいくらでも聞く。そして共に悩み、共に困難な出来事に立ち向かいたい。それでは、まだ力不足だろうか」
「キース様」
「……すまない。返事は急がないと言いながら、焦っているのは俺の方だな」
違う、そうじゃない。きちんと言わないと。
「私、キース様のことが好きです」
「ソフィア!」
真っすぐキースを見つめて言えば、キースは飛び跳ねんばかりに私の両手を包み込む。
「キース様と共に過ごす時間も、キース様と共にする仕事もとても楽しい時間でした。今まで生きてきたどの時間よりも、私には輝かしく思えたのです。それにキース様は王族でありながら、自ら即座に行動し実行する。その姿がとても素敵だと思います」
「ソフィア……。一つ聞いてほしいことがある」
「はい」
「俺はずっと自分の姿を偽ることで、王としての兄の地位を守ろうとしてきた。王は兄にこそふさわしいと思っていたから。しかし兄が王位を返還したいと言い出した時、本当は王位を兄に押し付けて、俺は体よく逃げていただけじゃないかと思ったんだ」
「そんなこと」
「そんなことあるさ。その方が楽だったんだ。でも君を見つけて、共に居たい者、本当に守りたいものを自覚した時、逃げるのを辞めようと思えたんだ」
いつも周りに女の子たちを侍らせ、特定の婚約者などを作らず遊び惚けているように見せることで、国王の地位を守ろうとしていたのか。それほどまでに慕わせる兄。そんな兄弟仲もあるのだと、少し羨ましくなる。
「どうして笑っているんだい、ソフィア」
「いえ。ただ国王様が羨ましくて。こんなにも自分のことを思ってくれる弟がいるなんて、なんて誇らしいことだろうかと」
「すまない、ソフィアは」
「いいんです。どこでボタンをかけ間違えてしまったのか、いつからなのか……。もう分かり合える日が来るとは思えないほど、私とあの子の仲はこじれてしまったんです」
そう仲の良かった日々が思い出せないくらいに。
「分かり合えなくたって、いつか思い合える日が来るさ。ソフィアもミアも、まだ取り返しのつかないところまでは行っていないと思うんだ」
「まだ……まだ大丈夫ですかね……」
「ああ。少なくとも、俺もグレンもそう思っている。だけど、だからといってミアがしてきたこと全てが許されるとは思ってないさ」
キースは先ほどのプレゼントの包み紙を私に見せる。
「よく考えれば、あの時あの時間にソフィアがギルドにいることは分かっていたはずなんだ。それなのに、ミアに姉のためのプレゼントをと言われ、ソフィアの好きなものを教えてもらおうと考えた俺がダメだったんだ。全てこれは俺の落ち度だ。君を傷つけてしまった。すまない、ソフィア」
「! 辞めてください。王族であるあたなが、そんなことで軽々しく頭を下げるなど」
「軽々しくはないさ。君を傷つけた。それは俺にとって、何よりも代えがたいことだ」
プレゼントを持つ手に力が入ったのか、綺麗に包装されたそれは、少しくしゃりと歪む。
「キース様……」
「俺はまさかミアが、わざとこの状況を作り出したなんて、ソフィアが倒れるまで気づきもしなかった」
「ギルドを出てすぐに、侯爵家の馬車に気付きました。そして吸い寄せられるように、あの店の中を覗いてしまったんです」
思い出しながら話し出す私に、キースが私の肩に触れた。そしてもういいと言わんばかりに、首を横に振る。
「本当にすまなかった」
「いえ、もう謝らないで下さい。これを選んでいる姿を見てしまった時、私はまた大切な人をあの子に取られてしまうんじゃないかって思ったんです。でも、キースはずっと私の側にいてくださるんでしょ?」
「ああ、もちろんだ」
体を引き寄せられ、そのまま抱きしめられる。もう疑わない。キースのこの想いだけは疑ってはダメだ。ミアの言う通り、私はキースの愛が欲しいと思ってしまったから。
あと予定話数は片手ほどです。
最後までよろしくお願いいたします。




