二人の時間
「このまま今日は城に泊まっていかないか? 部屋を用意させるから」
「でも、父や母が心配しますので、今日は帰ります」
「それならば、ではせめて、家まで送らせてほしい」
「でも、それではご迷惑が」
「そんなことくらいで、何も迷惑になどならないよ。むしろちゃんと無事に帰れたのか確認しないと、俺が心配で眠れなくなってしまう」
「分かりました」
宿泊を断った以上、私の体を心配するキースをこれ以上無下にも出来ず、頷く。
「そういえば、グレンはどこに?」
倒れるまでこの部屋にグレンがいたことを思い出し、急に自分の行動が恥ずかしくなる。
「グレンなら君の家へ遣いを出した後、ミア嬢のいる領地へと向かったよ」
「まさか今回のことをグレンにも」
「話はしてある」
「そんな、ミアとの婚約は」
「破棄にはならないさ、今回の件は俺の落ち度でもあるから。ただ、何もなかったということにも出来ないとは思う」
「ミアのことが心配かい?」
「あの子はこの婚約をとても喜んでいましたから」
半分は本心で、半分はこれでミアの監視から逃げられると思っていたから。そう思う私も、十分に嫌な姉だなという自覚はある。
「ミアをグレンに押し付けて自由になりたいって思っていたと言ったら、幻滅しますか?」
「いや、しないさ。それに、案外それもいいんじゃないか。グレンにとったら」
「そうなんですか」
グレンはミアの性格など知っていて、婚約を申し込んだということなのだろうか。そういえば、自分と違うところに惹かれたとは聞いていたけど、どの部分がという具体的な話はグレンとしたことはなかった。キースはもしかしたらグレンからもう少し詳しく聞いているのかもしれない。
「馬車の用意は出来ている。さ、行こうか」
「え、な、ちょっと待ってください」
キースは寝ていた私をそのまま抱き上げる。いわゆるお姫様抱っこだ。
「歩けます、歩けるので下ろして下さい」
「ダメだ。また倒れたら困る」
私の抗議など全く意に介さず、抱き上げたままキースは器用にドアを開け、進んでいく。すれ違う騎士や侍女たちが、頭を下げながらも、何が起きたのかとやや怪訝そうな顔で見ている。
「キース様」
「恥ずかしいなら、何も見えないように顔を埋めてればいいんだよ」
「そういう問題ではないと思うんですが」
「ソフィアの願いなら、何でも聞いてやりたいが、これだけはダメだ」
「過保護すぎます」
「ああ、そうかもな」
抱きかかえた私の顔をキースが覗き込む。あまりの近距離に、私はキースの肩に顔を埋める。
「うん、それでいい」
心臓の音がこれ以上もなく耳に付く。夜風は涼しいはずなのに、顔だけではなくキースに触れている全ての面が熱く感じた。
「ほら、ソフィア、馬車についたよ」
御者が開けた馬車に、キースは私を抱きかかえたまま乗り込む。
「もう着いたなら、おろして下さい」
「馬車は揺れて危ないから、ダメだ」
「そんな、大丈夫です。さ、さすがに、このままお膝の上なんて」
「嫌か?」
「い、嫌ではないですが……」
そう好きだと自覚した瞬間から、キースに触れあうのは嫌ではないのだ。歩く時は手を繋ぎたいと思うし、抱きしめられると心地いいのだ。だから余計に困る。まだ正式に婚約が決まったわけではないのに、
さすがにこれはまずいだろう。
きっとお父様が出迎えていたら、びっくりして倒れてしまうわ。
「私にもキース様にも最低限の貴族としての体面があります。馬車が着いたら、エスコートして下さいますか?」
キースの顔を見上げると、キースの顔もほんの少し赤い。ドキドキしているのは自分だけではないという事実が、ほんの少し安心させてくれる。
「ふふふ」
「ん?」
「なんでもありません」
私はキースにもたれ掛かり、体を預けた。




