第27話
「......」
樹は何も言わない。
驚いた顔をして、黙ったまま僕の事を見つめてくる。
――わかってる。
今、自分でもとんでもないことを言ったのは自覚がある。
「......なんとか言えよ」
「......夢?」
「ハァ?!」
なんだコイツ!!人が告白したって言うのに「夢?」だと?!
僕はムカつきながら樹の頬を思いっきりつねってやった。
「どうだ? 痛いか?」
「......はい。ものすごく痛いです」
樹はひりついているであろう頬を押さえながら、オレに近寄ってくる。
逃げられない距離ではないのに、身体が動かない。
「本気......なんだよね?」
「......本気じゃなきゃ、こんなこと言わない」
「それじゃあ......」
樹は僕の頬にそっと触れた。
――まるで壊れ物に触れるかのように。
「オレのこと、好き?」
「......」
心臓がうるさい。
ずっと言えなかった言葉。
認めたくはなかった感情。
でも――今なら。
「......好き」
「......っ」
「オレは樹が好き。......誰にも取られたくないくらいに」
ここまで来ると、スラスラと言葉がとめどなく溢れてくる。
......それと同時に涙まで流れてきた。
「花恋ちゃんとのキスの写真見た時、胸が信じられないくらいに苦しかった」
「......うん」
「樹はオレのこと好きって言ったのに、心変わりしたんじゃないかって、不安になった」
「ごめん。」
「樹が、取られるんじゃないかって、怖かった」
その瞬間――
樹にぎゅっと強く抱きしめられた。
「......光希」
「......苦しい」
「ごめん。でも嬉しくって」
耳元で聞こえた樹の声は、心なしか震えていた。
「ずっと待ってた」
「......うん」
「何度も、何度も諦めようとした。......でも無理だった」
首筋に冷たいものが伝う。
――これは樹の涙だ。
樹は身体を離すと、真っすぐに僕を見つめた。
「好きだよ、光希」
「......うん」
「ずっと好きだった。これからもずっと好き」
「......分かったって」
僕は恥ずかしくなって顔を逸らそうとすると、樹が僕の顎に手を添えた。
「最後に......一つだけ」
「......何?」
「オレの、恋人になってくれますか?」
「......」
僕は少しだけ迷って――
それから、小さく頷いた。
「......うん」
「! よっしゃあ!!」
「......物好きだよね。こんな猫かぶりの、しかも男が好きだなんて」
「オレの片想い歴舐めないで!!」
「ふふっ。あはは!」
僕は思わず笑みを零す。
――最初は嫌なヤツだった。
それから気になる存在になって......恋に落ちた。
ここまで僕を振り回してきたんだ。
「......大事にしろよな」
「! もちろん!!」
僕達はどちらかともなくキスをした。
――想いが通じ合ってから初めてのキス。
今まで何度もしてきたはずなのに。
今までとは、何もかもが違っていた。
触れるだけのキスがこんなにも心地いいものだなんて僕は初めて知った。
......あぁ。これが"恋"なんだ。
「......樹」
「ん?」
「......もう一回、して」
「え?!......いいの?」
「......したくないなら、いい」
「! したい!! したいです!!」
そうして僕達は二度目のキスをした。
――これが僕にとっての初めての恋。
そして。
これから始まる、僕と樹の恋人としての日々の始まりだった。




