2章ー30:バケットガップ海峡の戦い(伍)
『ざっ・・・ざっ・・・ざっ・・・」と、ゆっくり砂浜を踏みながら、僕はゲレドに近づいていく。
「そっ、そんな・・・。馬鹿な・・・」
僕の姿に恐怖したゲレドが後ずさりする。
今の僕の格好に加えて、怒るのもめんどくさくなった目が、まるで底知れない無念を持つ怨霊のように際立っているのが、かなり効果的になってるんだと思う。
「もっ、物の怪じゃ!!!」
「リオル殿の死霊じゃっ!!!」
ゲレドだけじゃなく、カワミの武将たちまで僕に怯え始めた。
まさかこんなに《《ウケる》》なんて・・・。
僕、演技なんてまともにやったことないんだけどな。
まぁ、どうでもいいやそんなことは。
今はただ・・・このクズをめっちゃくっちゃ怖がらせたい。
「なにをそんなにビビってるんだよぉ~・・・?ここは笑いどころだろぉ~・・・?『死肉食らい』の地竜が、ホントの死肉になって出てきたんだからぁ~・・・」
「わっ、わしを恨んでおるのか!?恨むのなら・・・!!そっ、そいつを・・・!!そいつを恨んだらどうじゃ!?だってあの者と心中して貴様は冥土に逝き・・・ぎゃあ!!?」
クルラさんを指差すゲレドの指に、僕は思いっきり噛み付いた。
「ひぃぃ・・・!!ひいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!」
死人に噛み付かれたゲレドは、クチバシに隠れた歯を剥き出しにして、半狂乱で怯える。
「全部お前のせいだ・・・。お前への憎しみのせいで、僕は冷たい海の底から、そのまま地獄に堕ちて、こうして腐り続けてる・・・」
「やっ、止めろ・・・!!来るなっ!!!」
陣幕の背にしたゲレドは、逃げ場が無くなって幕まで追い込まれた。
「憎い・・・。憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い!!!なんで僕だけこんな思いをしなくちゃいけないのぉ・・・?僕、なぁ~んにも悪いことなんかしてないのにぃ~・・・。お前も・・・。お前も一緒に腐ろうよぉ~・・・。地獄は存外酷いところじゃないぜぇ~・・・?地面の残飯は結構イケるしなぁ~・・・。本来行くべきじゃなかった僕が「美味い」っていうんだ。お前の口ならもっと合うんじゃねぇかなぁ~・・・」
「たっ、頼む!!許してくれっ!!この通りじゃっ!!!」
「許せるワケねぇだろうがぁ~・・・お前のせいで地獄で腐るハメになっちまったんだからなぁ~・・・」
力無くへたれ込むゲレド。
僕は奴の耳元で、最後の、トドメの一言を言い放つ。
「僕からの、お願い~・・・。・・・・・・死ね」
「ぎっ、ぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」
・・・・・・・。
・・・・・・・。
恐怖が振り切ったゲレドの叫び声が、バケットガップ海峡中に轟きそうな勢いで響いた。
僕の名演・・・いや。怪演に、クルラさん以外の、その場にいた全員がドン引きしている。
「ふふっ・・・!あははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは!!!」
みんなが黙り込む中で、クルラさんだけが、まるで子どもみたいに大笑いした。
「リオル殿~♪其方にこれほどまで芝居の才があるとは思いませんでしたよ~?能でもやれば結構な銭が取れるのではありませぬか・・・ぷははははははははははははははははははははははははははは!!!」
僕の演技に、クルラさんはめちゃくちゃご満悦のようだった。
「しっ、芝居!?」
「一体どういうことじゃ!?」
恐怖で気絶寸前のゲレドを除いて、カワミとトーウミトの者たちがざわつき始める。
「いや~!!実に愉快痛快じゃった!こんなに楽しかったのは久方振りじゃ。でも、しっかり届いたんじゃないですか?《《合図》》」
「ちょっと待て!!合図とは何のことじゃ・・・っ!!!」
バナデウスが『ピンッ!!』と耳を立てた。
気付いたか・・・。
僕にも聞こえる。
崖を下って、猛スピードでこっちに突っ込んでくる、オリワ軍の音が。
「へあっ・・・!!なっ、何じゃ!?」
僕は気絶しそうなゲレドの頬をペチペチして意識をはっきりさせた。
「いい悲鳴だったよゲレド。おかげでみんなにちゃ~んと届いた」
「どっ、どういうことじゃ!!?」
「あれ?まだ分かんない?要するに、さっきの話ぜ~んぶ・・・」
ぽつぽつと雨が降り出し、僕のカモフラージュとお化けになるための海藻メイクを落とす。
「ウソじゃボケえええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!!!」
ゲレドに飛び掛かると同時に、ルータス率いるオリワ軍が幕を破って突っ込んできた。




