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2章ー27:バケットガップ海峡の戦い(弐)

 ・・・・・・・。


 ・・・・・・・。


「お受けします」


 少し長い沈黙の後、クルラさんはOK出してくれた。


 ホッ・・・。


 良かった~。


 まぁ~この状況で断るワケないか・・・。


「それで、その()()とはどのような?」


「それでしたら、この()に内容が。悟られないように、目線だけで」


 僕は幕の下から、クルラさんに内容が書かれたメモをそっと渡した。


「ほう・・・。小蛮しょうばんが書き物に使う道具ですか。これなら石板と違って丸めて捨てることができますね」


 さっすがお察しのいい!


 細かい作戦を褒められて心の中でドヤった。


 メモに書かれていることを目線で追ってるから、クルラさんの声がしなくなった。


「へぇ~・・・。これは中々に・・・。うん・・・」


 なっ、なんかクルラさんの声が楽しそうな気がするのはなぜ?


 もしかしてこの人、()()()()()とか好きなタイプ?


「スラギア様に権謀術数の手管を叩き込まれたクルラの方様を見込んで、このような策を講じました。先程の演技力を見て、最早その考えに揺るぎなしにございます」


「まぁ。そこまで言ってくれるなんて嬉しゅうございまする。とても楽しそうな策ですね?年甲斐もなく、なんだかワクワクしてきたわ♪」


 ああやっぱこういうの好きな人なんだ。


「では、手筈通りに。頃合いを見て僕も飛び込みます」


「ええ。待ってます」


 クルラさんとの密談を終えて、僕は声を出さずに幕の中に耳を集中させた。


「ロアードルとガブナチャは穿心せんしん。残りの者は南の果ての島に流刑るけいでよろしいですな?」


「おっ、お待ち下されゲレド殿!!どうして我らが心臓を潰さなければならないのですか!?」


「貴様らは亡きスラギア様が一の家臣連中だろう?ならば主君の後を追って冥土に行くのが忠義ではないか?」


「きっ、貴様ぁ・・・!!奥方様だけでは飽き足らず、カワミを支えてきた手足まで挿げ替えようというのかぁ!!?」


「“膿は全て出すべし。”それがわしの理念ゆえでな」


「おっ、お館様は・・・!!死せる時にあっても我ら家臣を案じていた!!ここで散華さんげすれば、あの方に申し訳が立たぬっ!!!」


「家臣なら主君と運命をともにするのが忠義と呼べよう?そこのガブナチャは受け入れているようだが?」


「うっ・・・!!」


「分かったらつべこべ言わず、とっとと胸ブチ開けろ下衆が。けけっ!」


 諦めムードのガブナチャを見て、ロアードルは口を閉ざした。


 テメェが忠義を語んなボケが。


 主君の娘手土産に敵軍に寝返ったクセに。


「まっ、待って下さいっ!!」


 クルラさんの声が聞こえてきた。


 どうやら、()()()()みたいだな・・・。


「何かなクルラの方様?」


「ロアードルとガブナチャは・・・!!息子のために・・・!!身を捧げた・・・!!忠臣ですっ!!その者どもを・・・!!穿心にするなど・・・!!可哀相ですっ!!」


 ゲレドに抗議するクルラさんは、先程とは打って変わって声を荒げたが、荒い息遣いを混ぜていた。


 おお~結構本格的だねぇ~。


「何を仰っておりますかクルラの方様っ。主君がお命を絶たれた以上、ともに果てるのが家臣としての役目であり道理でしょう?」


「貴様が道理を語るなこの逆賊がぁ!!!」


「っ!?」


 いきなり怒鳴ったクルラさんに、ゲレドは勿論、作戦を考えた僕まで『ビクッ・・・!!』となった。


 おいおいちょっとやりすぎじゃ・・・。


 一体中どうなってんの?


 僕は幕に爪で穴を開け、中の様子を窺った。


 その瞬間、僕はギョッとした。


 クルラさん、舌をだらんとさせて痙攣して、背中の電殻がバチバチしてんもん・・・。


 おいマジかよあの人・・・。


「くっ、クルラの方様・・・。どうなさいましたか!?」


「あっ、頭の中で、あの子の声が聞こえる・・・。このままじゃ、意識が・・・」


「きっ、気でも触れたかこの女っ!!」


 バナデウスが怯えるとともに、トーウミトの水竜リバイアサン連中が臨戦態勢を取る。


「いっ、いいでしょう・・・()()()()。家臣を守る、ことの、一助と、なるなら・・・この身体、あなたにお預けしっ、しままままままままままままままままままままままままままままままままままままままままま・・・!!」


 尋常じゃないほどに痙攣して、クルラさんは『ばたん!!』と倒れた。


「くっ、クルラの方様・・・」


 ロアードルが心配で彼女に近づこうとした瞬間、クルラさんは目を『カッ・・・!!』と開いて、『ぬぅ・・・』と立ち上がった。


「くっ、クルラの方、様・・・」


 ・・・・・・・。


 ・・・・・・・。


「母上から離れろ。下郎が」


 クルラさんの鋭い眼光を見たゲレドは、「ひぃ・・・!!!」と言いながら後ずさりした。


 そう。これが僕の作戦・・・『亡霊騒ぎ』だ。


 この世界の竜たちは、みんな武士と同じ価値観を持っている。


 そこで僕は思った。


「みんなめっちゃ信心深いんじゃね?」と。


 ならば僕と自害したことになってるスラギア君が、お母さんであるクルラさんの身体に憑依して化けて出たことにすればみんなめっちゃビビるんじゃないかと思って考えた。


 クルラさんに寄越したメモには、作戦の内容と、ゲレドがミーノにやった裏切り行為が書いてあった。


 自分の知るはずのないことを知ってるクルラさんを前に、ゲレドも「スラギアが化けて出てきたぁ!!」って信じざるを得ないはず。


 後はスラギア君のフリをしたクルラさんが暴れて、気を見た僕がお化け役として参加し、最後に『ドカーン!!』って何かをやったら、それが突撃の合図となる。


 それまでは「クルラさんの名演技を楽しもう!!」


 と思ってたけど・・・。


「やはり身内の身体は良く馴染む・・・。母上、ありがとう」


 目を『グッ・・・!』と閉じてクルラさんに感謝するスラギア君・・・のマネをするクルラさんに僕は感動を通り越して引いた。


 仕草、口調、声色、目の動きから息遣いに至るまでスラギア君そのものだったからだ。


 僕は確信した。


 あっ、この人・・・演技力バケモン!!!

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