2章ー17:ひっくり返る盤面
スラギア君の指示で『奇襲二段挟み』を仕掛けたロアードルとガブナチャによって、カワミ軍は出来レースかと思うくらい戦況を有利に進めていた。
ほんのちょっとでも向こうの戦法を学びたい僕は、ボートの上でかぶりつきでそれを見ている。
にしてもホンマ洗練された動きやなぁ~・・・!!
隙という隙がない・・・。
「このまま行けば、向こうも今日のところは退散してくれようて」
「え?大将首は獲らないのですか?」
「力でねじ伏せ領土を手に入れても怨嗟が残るだけ・・・。相手が白旗を上げ、交渉の席に着く際まで追い詰める。真綿で首を絞めているようであまりいい気がしないがな」
「それも母君であるクルラ様からご教授を基に考えられた戦略ですか?」
「いや。これはわしの個人的な思想によるものじゃ。平和的に戦が収められるなら、それに越したことはないからの」
なるほど、ね・・・。
つまりスラギア君は、小競り合いで連戦連勝を貫くことで、向こうの殿様が降参するのを待ってるらしい。
確かに、首を挿げ替えるよりその領土の代表が「もうこんな争いは終わりにしたい」って言った方が、住民のヘイトは起こりにくい。
やっぱスラギア君は僕と同じ・・・いや。僕よりも平和主義な考えの持ち主だ。
その考えはすっごく立派だ。
だけど、時代は乱世。
いつ如何なる時に、どんな不測の事態が発生するか分かったモンじゃない。
それこそ、半年前のシノナとの戦いみたいな・・・。
そういう時、平和的に解決したいと思ってる人ほど、ドデカイ決断を迫られると決まってる。
実際、僕はその『不測の事態』ってヤツに直面して、自分の手を血に染めた。
僕は指にはめたオリワの守り爪をしみじみと眺める。
あの時これで、穿心するガラルガの脳天を突き刺して、介錯した時の感触が残ってる。
頭蓋骨を一刺しでくり抜いて、固めの豆腐とよく似た触感の脳を刺した時の、言い様のない感触が・・・。
もしかしたらスラギア君にも、僕みたいな“手を血で汚さなければならない瞬間”ってのが来るかもしれない・・・。
って、何また後ろ向きなことを考えてんだ僕は!!
カワミ軍は連戦連勝で、今も戦いを有利に進めてるじゃないかっ!!
きっとそう遠くない内にトーウミトは白旗を上げて、カワミとの交渉のテーブルに着くはずだ!
「むっ!?何じゃと!!?」
驚いたスラギア君にハッと我に返ると、トーウミト領の方角の上空から、翼を広げた多くの何かが急接近してきていた。
あれは・・・。
「飛竜!!?」
大量の飛竜が上空から襲い掛かってきて、火球ブレスや麻痺ブレスを吐いたり、発達した脚でカワミの水竜を掴んで、口元まで持ってきて噛み殺す。
そいつらが背負ってる御旗の家紋に、僕ははっきりと見覚えがあった。
「・・・・・・シノナ領!!」
「何じゃと!!?」
間違いない!!
あれは・・・シノナ領の家紋だっ!!!
「どういうことじゃリオル!!シノナが・・・トーウミト領に加勢に来たとでもいうのか!!?」
「この状況を見るに・・・そうとしか思えませんっ!!」
カワミ軍の水竜は、空から襲ってくるシノナの飛竜に翻弄され、それをチャンスにトーウミト軍は息を吹き返したかのように反撃に転じ始めた。
「撤退だぁ~!!!」
「水面に近づかず本陣まで引き返せぇ~!!!」
このピンチにロアードルとガブナチャは、潜行して撤退を始めた。
「スラギア様!!僕たちも引き返しましょう!!!ここは危険ですっ!!」
「そっ、そうじゃな!気取らぬようそっと・・・」
「どこへ行こうというのじゃあ~?」
顔を上げた瞬間、もう二度と見ないと思ってた・・・見たくないと思ってた顔が翼をはためかせ滞空していた。
「ゲレドぉ・・・!!」
「やはり貴様が使者として出向いておったかぁ~。矮小で卑しく、生きる価値のない臭い『死肉食らい』がよくもまぁ~偉くなったもんじゃのぅ~」
相変わらず、ねちっこい声で差別的発言をしてくるなぁ~?
「そっちこそ、我が身可愛さに主君を裏切った謀反人が、たいそう偉くなったものですね?」
反抗してくる僕に、ゲレドは「クェクェ!!」とカラスみたいな甲高い笑いを浮かべた。
「威勢がいいのも今の内じゃわい。皆の者っ!ミーノ領の地竜の旗本の首をわしに持って参れっ!!」
ゲレドの後ろで待機してた飛竜達が、一斉に襲い掛かってきた。
やっぱ僕狙いかっ!
このままじゃスラギア君まで巻き込んじまうっ!!!
「リオルよ。息と足にはどれくらい自信がある?」
は?
「空気は持つか踏ん張れるか?」
まくし立てて質問するスラギア君に、僕はつい「それなりに・・・」って答えてしまった。
「命惜しくば息吸って四肢に力入れい!!」
「どわあああああああああああああああああああああああああああああああああ!!?」
次の瞬間、スラギア君はまるでイルカみたいに全速力で泳ぎ出した。




