2章ー16:カワミの戦い方
スラギア君に牽引され、僕は戦いを一望できて、かつ敵に見つかりにくいところまで来た。
「どうじゃ?ここなら余すことなく目で盗めるじゃろう?」
「確かにそうですけど・・・ちゃんと仕事はして下さいね?」
「任せろっ。《《お主の護衛》》はしっかり務めて見せるわい!」
いや君がこの戦の大将なんだから、護衛するのはむしろこっちな気が・・・。
「いよいよ始まるぞ」
さっき陣に来ていたガブナチャとかいう、深海魚のラブカとハリセンボンを合わせたような水竜の武将が、兵を率いて敵軍と相対した。
トーウミト領の水竜達は、全員が中生代にいた水棲爬虫類のような姿で、四肢がヒレになってていかにも泳ぎが速そうだった。
「行けえええええええええええええええええ!!!」
指揮官の合図とともに、トーウミト軍はカワミ軍に突っ込んでいった。
そしてカワミ軍も、ガブナチャの合図でトーウミト軍に向かっていく。
「あっ・・・!!」
僕はあることに気付いた。
カワミ軍の動きが、遅い。
さっきも言ったように、トーウミト軍は遊泳に適した身体なのに対し、ガブナチャ率いるカワミ軍はヒレ状の足をしていて、海底を歩くタイプの魚に似てて泳ぎが覚束ない。
そのせいで陣形は左右にバラけつつあった。
「スラギア様まずいですよ!!このまま激突すれば隙間を抜かれて一気に本陣に・・・!!!」
「案ずるなリオル。よく見ておれ」
「え?」
どういうことかと思ったその時、突撃する敵軍の右側を目指して水しぶきが猛スピードで向かってきた。
そして、ロアードルが、自身にちょっと似ててサイズが一回り小さくたてがみが生えてない群れを大勢率いて飛び出してきた。
「奇襲じゃあ!!!総員突撃を止め・・・うわっ!!?」
分断された後方の部隊は、ロアードルの群れで出来た、ザトウクジラのバブルネットのような渦に囲まれて一網打尽になった。
「さすがロアードル。《《側室》》の動きを操る見事な手腕じゃ」
「そっ、側室!!?」
「ロアードルは自身と血統が同じ女を数百頭と娶り、己が手勢にする。強い絆で結ばれた彼奴と側室の洗練された動きは、恐らくサンブロドで一二を争うじゃろう」
なるほど・・・。
つまりロアードルは自分のハーレムで私兵を作ってるんだ。
あれ全部が、ロアードルの雌個体。
生物にとってハーレムは子孫を残す確率を上げるためのもの。
それを軍勢に転用するとは・・・。
「前方にも動きがあったようじゃぞ?」
見るとガブナチャが率いていた軍が忽然と姿を消し、トーウミト軍は困惑していた。
「ぐぬぬ・・・!!彼奴等めどこに隠れおった・・・おわぁ!!?」
トーウミト軍が辺りを見回していると、『どぉん!!!』と激しい音と水しぶきにより、ガブナチャの手勢が水面から飛び出してきた。
奇襲を仕掛けられた前方のトーウミト軍は成す術もなくガブナチャ達に次々と討ち取られていく。
この時点で、トーウミト軍は総崩れになっていた。
「これがカワミ軍の戦法、『奇襲二段挟み』じゃ」
そっ、そっか・・・!!
正面から突っ込んだガブナチャ達は囮で、その隙にロアードルがハーレムを率いて脇を攻め敵を分断し、後方を取り囲む。
そんでもって混戦に紛れてガブナチャ達が海底近くまで潜って、困惑する敵にブリーチングで奇襲を仕掛けて前方を一網打尽にする。
二連続の奇襲と挟み撃ちを食らった敵軍は成す術もなく、ワンサイドゲームに持ち込まれる。
力技はあまり感じないが、狡猾かつ戦略的な攻め方だ・・・。
「まさかこれも、スラギア様が・・・?」
「ああ。これを編み出してからというもの、カワミは負け知らずよ」
純朴で優しく一癖強いけど、計略に長け、理詰めで物事を進める・・・。
本当に腹の底が読めない性格をしてる。
だけどそれは、天下を獲るのに十分過ぎる素養があるってことだ。
名高い戦国武将たちも、そういった性格をしてたから・・・。
この時から僕は、スラギア君をますます好きになったのと同時に、同じ目標を目指す良きライバルとして認識していた。
お互いに切磋琢磨し合う同年代の奴がいるってこんなにも心躍るものなのか・・・。
前世じゃ経験できなかったことだ。
すっごく嬉しいし、ワクワクするっ!!
「どうじゃリオルよ?カワミの戦い方を見た感想は?」
「予想以上に洗練されてて脱帽しましたっ!でもこれをミーノでも活かせるかどうかを考えたら、ちょっと自信が・・・」
「ならば良く見て盗むがいい。主君への良い土産話になろうて」
「はいっ!!!」
「負けられへん!!」と思った僕は、まるでアニメの神展開を見るかのように目の前の戦いに釘付けになった。
よく見ておかなくっちゃ!!!
◇◇◇
「おのれカワミめ・・・!!またしても姑息な手管を使いおって!!!」
早くも自軍が総崩れになったこと聞いたトーウミト領の領主は苛立ち、二本角が生えた頭を地面に叩きつけた。
巨体が巨体なだけ陣を張っていた島は揺れ、驚いた海鳥が樹々からバタバタと飛び立っていく。
「ここでもう千頭ほど突っ込ませましょうか?」
「たわけぇ!!!」
怒り狂った領主は酒の入った盆をくわえると家臣に投げつけた。
「先の戦いで我らはあの小僧に手酷くやられたのじゃぞっ!!これ以上の損耗は領土の護りに関わるであろうがっ!!!」
恫喝する領主にこれ以上火に油を注がないように、家臣は甘んじて叱責を受けるしかなかった。
「申し上げますっ!!」
「何じゃ!?わしは今虫の居所が悪いっ!!」
「ですがその・・・『シノナ領の使い』を名乗る者がお目通りを願いたいそうで・・・」
「あの飛竜の大国がか!!?むむむ・・・通せ!」
サンブロド中部で最も影響力のある国の使者とあってはおいそれと追い返すこともできないので、領主は怒りを抑えて目通りを許すことにした。
「失礼いたします。トーウミト領主・バナデウス様。此度は戦の最中でのお目通り、感謝しきれませぬ」
感謝の意を伝える割りにその使者は、粘っこいかつ甲高い声で話すものだから、バナデウスの癪に障った。
「うぬが申したように今は取り込む中じゃ。まず名乗り、それから端的に話せ」
「承知いたしました。某、シノナ領のゲレドと申します。此度はカワミ領が裏で進めている謀に関してご注進するために馳せ参じました」
「謀?」
「カワミ領は、隣国の飛竜の国・ミーノ領と同盟を結ぼうと画策しております」
「ミーノ領と!!?」
カワミ領とミーノ領が同盟を結ぼうとしてると聞き、バナデウスは驚愕した。
「我が殿は隣国であるトーウミトをさぞ案じておりまする。よって此度の戦で、カワミと決着を着けられるよう加勢せよと仰せになられました」
「シノナ領が、我が軍に加勢じゃと・・・!?」
「援軍の采配はわたくしめに一任されております。必ずやカワミを滅ぼせるよう尽力しますのでどうぞお任せを。くくっ・・・!」
ゲレドの口からつい笑みがこぼれる。
それはかつて、自分にいっぱい食わせた赤い地竜の子の計画を潰すことができる悦びの表れであった。




