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2章ー13:蓼食う竜も好き好き

「・・・・・・は?」


 スラギア君に「好きな子いんの?」と急に言われて、僕は食べかけの煮つけを口から『ぽろ・・・』っと落とした。


「行儀が悪いのではないか?」


 いやいやいや!!


 そないなこと急に言うからでしょうがっ!!


「まっ、またまた~!スラギア様はご冗談がお好きですねっ」


「冗談ではない。本気で聞いておるのじゃ。好きな女子おなごはいるのか?」


 あ~この真面目な顔・・・。


 ちゃんと答えないといけないパティーンだ・・・。


「・・・・・・いっ、いないですねぇ~・・・」


 結局はぐらかしちゃった・・・。


「そうかぁ~?わしは、お主はあのレムアという付き人に『ほの字』になっておると思っておったのじゃが・・・」


 見破ってやがったのか・・・。


「まっ、まぁ~そうですねぇ・・・。確かに、気になってないって言ったら嘘になっちゃいますね・・・。気立ても良くて料理も上手くて、それでいて勇敢ですし。実際、僕の初手柄には、彼女の尽力もありましたから・・・」


「一つ屋根の下だけではなく、戦場いくさばでも背中を預ける仲とな?くぅ~!!憧れるわいっ!」


 この短いスパンでスラギア君、イネウミブドウ酒を五杯は飲んだ。


 絶対コイツ人の恋愛話を肴に酒飲むタイプだわ・・・。


 嫌いじゃないんだけど接し方が分かんないだよなぁ~・・・。


「で?レムアはお主をどう見てると思う?」


「どっ、どうとは・・・?」


「いやの?お主のことを話すあの女子の顔は、まるで蓮の葉のようにほんのり赤くなっておったもんでな?もしや両想いなのではと勘ぐってな」


 レムアが僕を・・・か。


 両想いなら嬉しいけれど、僕にとってそれは過ぎた願いだ。


 前世の頃から女心というのは苦手で、「異性なんてアニメの画角の中にいる子で満足」なんて考えてた万年非モテ男の僕に、ちょっと優しくしただけの女の子が、好きになってくれるはずなんかない・・・。


 僕は・・・レムアのことが好きだ。


 それははっきりしてる。


 だけど嫌われたくないから、告ることはしないと思う。


 ってかできない・・・。


「まずいことを言ってしまったか?」


 ボーっとしてる僕の顔を、スラギア君が心配そうに覗き込んできた。


「いっ、いえ!何でもございませんっ。そういえばスラギア様は当に祝言を挙げられるお方がいるそうですが、できればその~・・・馴れ初めとかお聞かせ願いませんか?」


「馴れ初め、か~・・・」


 スラギア君は物思いに耽る表情をし、嫁さんとの出会いを語ってくれた。


「あれはひと月ほど前に、親交の深い水竜リバイアサンの国・ガルス領に避暑に参ったことじゃった。喪に服していたこともあって来訪はその時が初めてだったのじゃが、わしはそこの領主の娘に、一目見た時から、心奪われた・・・」


 へぇ~。一目惚れかぁ・・・。なんかロマンチック。


「わしは何度も想いを送った!「どうか夫婦めおとになってくれ!」と。初めの内は困惑し、首を横に振るっておったが、三日目にようやく!頬を赤らめながら承諾してくれた・・・」


 ほほ~猛アプローチの末に射止めたってワケね?


 根性あるだけじゃなく、幸運・・・いや、スラギア君にオッケーもらうほどの誠実さがあったってことか・・・。


 やっぱ、奥手な僕とは大違いだなぁ~・・・。


「そしてその晩、まぐわった」


「ぐぇ!?ごほっ!!ぅおほ!!なんて!?」


 味噌汁を吹き出しただけじゃなく素でツッコんでしまったが、スラギア君はおセンチに浸って気付かなかった。


 ってかとんでもないワード出てきたんだけど!!?


“まぐわった”って・・・!!その、セック・・・したってことかぁ!!?


「えっとぉ~・・・確認ですけどね!?スラギア様って、おいくつでしたっけ?」


「二歳じゃ」


 だよね!?だよね!?


 二歳児で××したってことだよね!?


 アカン!!超展開に頭パニックてる!!!


「年が年なのもあって子は成さなかったが、身体の交わりをしてしまった以上ケジメは付けなければならん。「まだ早すぎる」と申す向こうの父君を説得し、共に帰ったというワケじゃ」


 おいおいおいすんげぇ~話聞かされたんだけど・・・。


 まさかショットガンウェディング・・・いわゆる『できちゃった婚』だったなんて・・・。


 いや子どもはできなかったから『できそうになった婚』?


 あれ『作りたくなった婚』?


 あっダメだ。ま~たワケ分かんなくなってきた。


「それでその・・・奥方様は今・・・?」


「城中で嫁修行に勤しんでおる。慣れない作法に苦戦しておるが、どうにか食らい付いておる。やはり良い娘じゃ・・・」


 お嫁さんをイメージするスラギア君は、本当に幸せそうな顔してる・・・。


 マジで好きなんだろうなぁ~・・・。


「失礼いたします」


「おっ。噂をすれば影じゃ。なんだ?」


「そろそろ無くなる頃合いだと思い、代えのお酒を持って参りました」


「ちょうど良い。使者に其方のことを話しておったのだ。入って挨拶を」


「かしこまりました」


 子どもながらにほんのりと甘い声。


 めっちゃ可愛くて上品なんだろうな・・・。


 なんかわくわくしてきた!


「初めまして!拙者ミーノから来ましたリオルと申しま・・・って?」


 襖を開けて入ってきたのは、パッチリとした大きな目にピラルクのような口、甲殻がない紫の鱗に覆われた、すんごい太ってる水竜リバイアサンの女の子だった。


「家内のウナトゥだ。ウナトゥ、ご挨拶を」


「ウナトゥでございます。お初にお目にかかります。リオル様」


「どっ、どうも・・・」


「いつ見ても、お主の恰幅の良い身体は惚れ惚れさせる。この世の至宝と呼んでもよい」


「まぁ~。お前様ったら///」


 照れたウナトゥは後頭部から生えたセミロング形の薄い膜状のヒレに右手で撫でる。


 そっか。


 スラギア君・・・デブ専だったんだ。


 まっ、まぁ~『蓼食う虫も好き好き』って言葉もあって、恋愛は人それぞれだからっ!


 家康だって、『醜女しこめに目が無い』って逸話もあったみたいだし?


「リオル様」


「はい・・・っ!?」


 アザラシみたく滑ってきたウナトゥは、僕の手をギュッと握ってきた。


スラギア()のこと、どうかお頼み申し上げます」


「はっ、はい・・・」


 手を握りながら一礼してから、ウナトゥは僕とスラギア君のお膳に代えのお酒をそれぞれ置き、またお淑やかそうにお辞儀して、部屋を後にした。


「どうじゃ?いい女子じゃろう?」


「そっ、そうですね・・・」


 あっぶね~・・・。


 一瞬好きになりかけちゃったよ・・・。


 人の奥さんにトゥクンとしちゃうなんて、どうかしてるよホンマ!


 しかし、ああいう子にも一瞬惚れかけるなんて・・・。


 恋愛というものには、『多様性』という言葉では片づけられないほどの奥深さがあるのかもしれない。


 今夜、僕は異世界で、愛の深理を垣間見たのだった・・・。

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