2章ー6:迷子の仔水竜
金砂城巣を出発したその日の夜。
僕とレムアは森の中で、交代で見張りながら寝ていた。
僕の横で寝てるレムアの枕元には、スディアが書いた夜伽のハウツー書が・・・。
一応断っておくが、事後じゃないから!
ゴロンとなって目をバッキバキにしながら、レムアは夜伽の作法が書かれた石板と睨めっこしてた。
「これはどういう意味でしょうか?」なんて聞かれた時は、どう答えたらいいかマジで悩んだ。
どうやってオブラートに包んだらいいか分かんないんだもん・・・。
やっぱ年端もいかない女の子には、このテの本は目に毒かもな。
「にしても・・・今どのあたりだぁ~?」
夜目が利いて、昼間とさほど変わらない視力で、僕はミーノからカワミにかけての地図を見直す。
南に向かって一日くらい歩いたから、もうそろそろカワミ領に入ってもおかしくはないはず・・・。
聞いた話じゃカワミは、池や川が多い湿原地帯だという。
いま僕達がいるこの森にも、小さな沼や川がそこかしこにあるから、もう領内に入ってるかもな。
となると、関所を通ってないワケだから、密入国してるみたいでなんか悪い気がする・・・。
まっ、僕らの格好を見れば旅の行商人だと思うだろうし、いざとなればディブロからの書状もある。
まず痛い目に遭うことはないだろう。
「明日起きて、もう一回地図を見直すかぁ~」
独り言を呟いた後に、地図をよそにやって見張りに専念しようとした、その時だった。
すぐ傍の沼から『ガサガサ・・・!!』って音がした。
「なっ、なんだぁ・・・?」
怖くなって辺りを見回していると、レムアの顔がドアップに映ったので「うひゃ!!」ってなった。
「リオル様」
「びっ、ビックリしたぁ~・・・」
「近くに何かいます」
「うっ、うん。そうみたいだね」
「わたくしのお後ろに」
「女の子を盾にする訳にゃいかんでしょ。僕が様子を見るから、レムアが下がって」
「りっ、リオル様///」
頬を赤らめるレムアにちょっと戸惑った後、僕は沼の音がした辺りを覗き込んだ。
「なっ、なんだ・・・!?」
水草の隙間が、なんか、青白く光ってる・・・。
しかも、こっちに向かってくる・・・?
なんだかよく分かんないけど・・・やるからには先手必勝や!
沼から出てきたところをやるっ!
『ざぶん・・・』と波打って、発光元が岸に上がってきた瞬間、僕はそれに向かって飛び掛かった。
「ひっ・・・!?」
飛び掛かった直後、全身に静電気が走ったような刺激を受けて、僕はぬかるんだ岸辺に伏せってしまった。
「リオル様っ!!おのれ・・・!!この無礼者が・・・」
「レムア待って!!」
怒りMAXで目の前の物体を襲おうとするレムアを慌てて制止した。
目の前にいたのは、短い角と背びれが生えて、白い甲殻を持った、ワニと首長竜を合わせたような生き物だった。
「どっ、地竜じゃと!?」
やっぱそうだ。
さっき聞こえた、びっくりした男の子の声は、『彼』のものだったんだ。
「レムア、これって・・・」
「間違いありませぬ。水竜の子どもにございます」
◇◇◇
「大変申し訳ないことをしてしまった!!どうかこの通りじゃ!!」
水竜の男の子は、長い首をペタンと地面に付けて僕とレムアに謝った。
「こちらこそすいませんでした。てっきり沼のお化けかと思ったもので・・・。先程の青白い光は、あなたの光ってる角だったのですね」
「夜の沼は暗くて不気味じゃからな。こうして発電角に溜めた電気を灯りにして進んでおったのじゃ」
じゃあさっき彼の頭に触れた瞬間の『バチッ!!』っていうのは、やっぱ電気系だったんだ。
電気を使う竜もいるなんて、本当モンハンみたいな世界だな・・・。
「申し遅れた。わしはスラギアじゃ。其方らは?」
「僕はリオル。こっちはレムア」
「お初にお目にかかります。して、どうして子どもの身でこんな夜更けに?」
「実はこの先を進んだ川で大口鯛の狩りをしていた際に供の者とはぐれてしまってな・・・」
“供の者”?
結構いいトコの子、なのか?
「お主らこそ、童なのに何故こんなところに?見るからに、旅の商人のようじゃが・・・」
傍に置いてある荷物を見て、スラギアは訝しむ。
どうしよ・・・何か言い訳言わないと。
「えっ、え~っとですね・・・」
「駆け落ちか?」
なんで真面目な顔してそんな質問してくんだよ!!?
「わっ、わたくし達・・・夫婦に見えまするか・・・?」
「そうはないのだが~・・・愛の契りには様々な形がある故、はっきり「そうではない」と断ずることはできんのだ」
恋愛マスター気取りぃ?
愛の多様性を語るにはまだまだ若すぎるぜ少年。
「ちっ、違いますよっ!!僕たちは“兄妹で行商をしてる身”で、カワミ領で商売がしたくてミーノから来たんですっ!!」
「なんと!ミーノから!となるとここは・・・。う~む。闇雲に泳ぐあまり、国境まで来てしもうたか・・・」
「そこで実は、関所の場所を探してるんですけど、どこか知りませんか?」
「それだったらわしが案内しよう!ちょうど供の者のそこにいるかもしれんからな。なんだったら、口利きで通りやすくしても良いぞ?」
「そんなことできるんですか?スディアさん。もしかしてあなた、どこぞのお武家様の子で?」
「・・・・・・まぁ、そんなところじゃ」
ん?
なんか歯切れ悪いな。
まぁ~いっか!
通りやすくなるんだったら越したことはない。
ここはスラギア君に甘えるとするか。
「よろしくお願いしますっ!」
「うむ!では参ろう。関所はこっちじゃ」
スラギア君が関所に案内し始めた直後、僕はレムアに言いたいことがあった。
「レムア」
「はい。何でしょう?」
「どしてさっき「夫婦?」って聞かれた時に否定しなかったのさ。すんごいビックリしたんだよ?」
「えっと、その・・・まんざらでも、なかったものでしたので・・・」
「ふっ、ふぅ~ん・・・」
・・・・・・・。
・・・・・・・。
実は僕も、そこまで悪い気はしなかったんだけど、レムアに引かれたくないから胸に留めておこう。




