2章ー4:最初の布石
「お館様。リオル殿がお見えになられました」
「通せ」
後日、僕は自らが構成する『シノナ南部包囲網』を伝えるため、主君であるディブロの許を訪ねた。
「失礼いたしまする」
お座敷に入った僕は、ディブロに対し早々に頭を下げ、服従の意を示す。
「お館様。この度は、御多忙のところをお目通りする機会を与えて下さったことに感謝申し上げるとともに、次の軍議を待たずして先だって自らの意向を伝えるご無礼を、平に平にお詫び申し奉りまする」
「軍議ではお主の意見を申す場は無きに等しい。こうでもしなければ己の意を伝えられまい。だがのぅ、家臣連中の邪魔立てに屈することなく、お主には発言してほしかった・・・」
つまりそれは、勝手に仕事を進めることはせず、しっかりオフィシャルな場でプレゼンしてほしかったということだ。
これも僕の、前世からの悪い癖だ。
「自分はできる。人並み以上に」と過信して、職場で先輩や上司から指示された仕事の次のステップに無断に手を付けてしまう。
社会において、上の人間の意見を聞くことは常識だから、成功しようが失敗しようが注意されてしまう。
そしてブルーになる・・・。自分が勝手にしたことなのに・・・。
「・・・・・・我が身の不甲斐なさに、面目次第もござりませぬ。しかし、此度の案件・・・シノナ領への対処を任ぜられた身として、どうしてもお館様のお耳に入れておきたいと思った次第ですので、何卒!ご容赦下さいませ!」
僕が深々と頭を下げると、ディブロは納得したように鼻を「フンッ!」と低く鳴らした。
「よほどの自信があるようじゃな?では申してみよ。お主はシノナに対して、どうでるつもりじゃ?」
「はい!では、ご説明いたしますっ!」
◇◇◇
「なるほど。『シノナ南部包囲網』とな・・・」
僕の構成した案に、ディブロは特にリアクションを起こすでもなく、淡々と聞き入っていた。
果たして、納得してくれたかどうか・・・。
「はい!サンブロド中央の諸国が手を組めば、戦による流血を起こすことなくシノナを牽制することができると進言いたしますっ!」
ディブロは目線を上にやって、何やら物思いに耽る仕草を見せる。
「それはつまり・・・『打倒シノナ』の御旗の下に、中央の諸大竜が結するということか・・・」
『大竜』。
こっちの世界でいうところの大名のことだ。
広い領土を持ち、兵と民という大規模な群れを束ねる、一頭の竜。
「ふぅ・・・。リオルよ」
「はっ、はい!」
「お主はまっこと、突飛のない言動をしでかす性分のようじゃな。先のシノナとの戦においても、お主は考える暇もなくティアスを助けに行った。そのおかげで、今ミーノは、こうしてシノナに飲まれることなく存続していられる。天の寵愛を受けておるか、それともただの気まぐれか・・・」
「え?でっ、では・・・!!」
「絵空事に等しいが、ただ一つの犠牲も出さずシノナを牽制するにはこれしかあるまいて。やってみるが良い」
「あっ、ありがとうございますっ!!」
やっ、やった!!!
僕の案・・・通った!!
前世じゃ学校の生徒会や、会社の定例会議で軽くあしらわれてばっかだった僕のアイディアが・・・!!!
よし!!
これで天下統一にリーチがかかった!!
「しかし!」
「っ・・・!!」
語気を強めたディブロによって、部屋の空気がピリついた。
「これだけ大きな謀・・・成し得るためにはいくつもの布石を打っておく必要がある。それは、心得ておるな?」
「はっ、はい!」
それって、口で計画を言ったから次は行動で示せ・・・ということか?
「よぅし・・・!ではお主は、どこから崩すつもりじゃ?」
やはりそうくるか・・・。
この場合だと、オリワ領とミーノ領、そしてシノナ領に隣接してて、かつそれなりに影響力のある国から同盟を結ぶことが先決。
その条件に当てはまる国は・・・。
・・・・・・・。
・・・・・・・。
「水竜の国、カワミ領を先んじて味方に付ける・・・でしょうか?」
僕の答えに、ディブロは安心した笑みを浮かべた
「天下太平をうたっただけのことはある。その年で計略というものを理解しておるな、リオル」
だって身体は一歳の地竜だけど、中身は28のアラサーのおっさんだし・・・。
「では!お主に一計を授ける!!カワミに使者として赴き、ミーノと同盟を結んでくるのじゃ。最初の布石を打つとともに、お主の策が、ただの絵に描いた餅ではないことを証明してくるが良い」




