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2章ー3:シノナ南部包囲網

「『連合軍による牽制』・・・ですか?」


「そうだ。ちょっと、待って」


 僕はお膳を脇にやって、サンブロド島の地図が書かれた()を取り出した。


「それは耳長みみなが(エルフ)が使っている・・・」


「そっ。『活版印刷』っていうんだ。こないだ宣教師ンところでこの技術を見た時に興味湧いてさ。一枚だけだけど地図を書いてもらった。石板だと持ち運びが面倒だけど、これなら巻いて持ち歩けるからさ」


 でもさすがに縦3m、横5mの紙を作るにはかなりの手間とコストがかかる。


『書物』の量産は、まだまだ先になるわなこりゃ・・・。


「とりあえず見てみ」


 僕はシノナ領が書かれたところを指差した。


「見ての通り、今シノナはミーノ領、そしてオリワ領を含んだ10の国に取り囲まれている。北のゴティエ領とユーエツ領は寒冷地域で、寒さに適応できてないシノナの飛竜ワイバーンが攻めるには厳しい。だからシノナは、領土拡大をするにあたって、中央部にあって、かつ隣接してるレムアのトダン領とこのミーノ領を狙ったんだ」


 地図に注目してるレムアの顔がわずかに曇る。


 直接的な仇と決着を着けたとはいえ、やはりまだ故郷を攻め滅ぼされたことが尾を引いてるらしい・・・。


「大丈夫?」


「えっ、ええっ。続けてなさって下さい」


「うん・・・。半年前の戦で、シノナはミーノを攻略するのに失敗した。推測の域だけど、今度は入念に準備・・・つまり、国力を増強して再戦に臨むはず。とすれば、シノナの次の出方は、中央南部の4つの国を押さえて、国力を高めつつ、より確実な行軍ルート・・・道筋を確保すると思う。だからこっちは先手を打つ」


「先手?」


 僕はシノナの南側にある国を、地図に爪を立てて丸で囲った。


「この4つの国と同盟を結んで、南からシノナを見張る」


「4つの国とですか?!」


 僕のアイディアを聞いたレムアは驚いて声を上げた。


「もしこれを実現できれば、シノナはすでに同盟関係にあるオリワとミーノを入れた合計6つの国から南で見張られることになる。となると、もうおいそれと露骨な領土拡大には走れなくなる。つまりこれは・・・『シノナ南部包囲網』といったところかな?」


「シノナ南部包囲網・・・」


 これはかつて、NATOが旧ソ連を牽制するために創設されたことを参考にしてみた。


 NATOは今も、ソ連から変わったロシアが侵略戦争を起こさないように目を光らせている。


 まぁ、そのせいでウクライナを筆頭に東ヨーロッパの国際情勢が不安定になってるのは、何とも皮肉だけど・・・。


「リオル様・・・。ずいぶんと手の込んだことを考えましたね?」


「あっ。分かっちゃった・・・?」


()()の二文字を聞いてすぐに気づきましたよ」


 やっぱレムアは侮れないなぁ~・・・。


 僕がこの『シノナ南部包囲網』を立てたのには、もう一つ目的がある。


 それは・・・『サンブロド中央部の無血掌握』だ。


 領土拡大の手を封じられれば、シノナは弱腰になって、自ずと調和路線に舵を取らざるを得なくなる。


 そうすると、同盟の立役者になったミーノに中央部がそのまま転がり込んでくることになる。


 とすれば・・・シノナの侵略戦争を防いだのは僕の手柄だから、全体の統治は僕に一任されるだろう。


 これで僕は、一つの戦もせず、一人の犠牲も出さずに、事実上サンブロドの中央部を手に入れられる。


 中央南部諸国に不安を煽って、シノナを真綿でじわじわと追い詰めるようであんまりいい気持ちはしないけど、これが僕が、平和的に中央部を手に入れる唯一の方法なんだ。


 これさえ成し遂げられれば、天下を取って平和な国を作るのに、大きく前進する。


「やっぱ、卑怯・・・だよね?「みんなでシノナに対抗しよう!!」って団結してる裏で、ちゃっかり中央を手に入れようとしてるんだから・・・」


 前世の頃から僕はズルかった。


 テストの答案用紙の点数を改ざんして親に見せたり、咄嗟や事実を混ぜたウソで仕事の些細なミスの言い逃れをしたり・・・。


 僕は、そんな自分が嫌いだった。


 はっきり言って今も嫌いだ。


 今だってこうして、打算的で裏のあることを企てて、人様の領土をごっそり取ろうとしてる。


 僕みたいなズルい奴は、人の上に立つ資格なんてない。


 やっぱ・・・止めようかな?この作戦・・・あ。


 またうつの気が入った僕の背中に、レムアが優しく身を委ねてきた。


「自分を卑下せず、堂々としていらして下さい。誰も死なず、平和的に諸国をまとめ上げることができるのですよ?乱世において、これ以上の偉業がありましょうか?レムアはリオル様が進む天下布武の道に、最後までお供いたしまする」


「ありがと・・・」


 レムアの温もりを背中越しに感じ、僕はバレないよう静かに泣いた。


 うつ病持ちにとって、他人から自己を肯定されるのは何よりも嬉しいことだ。


 うん。


 やろう。


 卑怯だろうが何だろうが、誰も死なずにこの竜の島国を統一できる道があるならば、腹を括ってやるべきだ。


 たとえどんな悪知恵を以ってしても・・・!!


「・・・・・・悪知恵、か」


「リオル様、どうかなさいましたか?」


「いや、何でも。さっ!食べよ食べよ!!天ぷらフニャフニャになっちゃうやっ」


 夕飯にがっつきながら、僕はこの群雄割拠の竜の乱世に順応しつつあることを微かに感じた。

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