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1章ー22:弱さから逃げない

 城から逃げようとした自分を怒らず、しかもお守りである守り爪まで渡してきた僕に、レムアは相当驚いた様子だった。


「ここから南に行けば僕の国に着けると思うから。そこでラポリさんって人を頼ればいいよ。僕からの紹介だってことと、守りそれを見せたら働き口くらいは用立ててくれると思うから」


「え・・・?え・・・?」


「あんまり遅くなってしまうとここも危ないかもしれない。それにこう言っちゃなんだけど、僕にはやるべきことがあるから」


 足早に立ち去ろうとした僕を、レムアは引き留めた。


「リオル様!!どうして・・・!?」


 ひどく困惑した表情だ。


 そうなるのも無理はない。


「意外、ですよね?普通だったら「この恩知らずっ!!」とか「この臆病者がっ!!」とか罵声飛ばして蹴りの一つもするでしょう。でも僕は、レムアさんにそんなことはしません。だって人のこと言えませんからっ」


「それはどういう・・・」


「・・・・・・僕も、逃げてばっかでしたから」


 僕が退職代行を使って辞めた新卒の大手ゼネコン会社は、大学のゼミの伝手で入った会社だった。


 ゼミの先生と人事部の責任者が結構付き合いのある人どうしで、そのおかげもあって採用試験はほとんど形だけ。


 数回その責任者と食事に連れてってもらったのだが、「〇〇先生の教え子だから是非ウチで面倒みたい」とほぼほぼ採用が確約され、事実そうなった。


 傍からみたらコネ入社以外の何物でもない。


 そんな新卒採用先で、僕は仕事に身が入らず、怒られ続けて勝手に追い詰められ、ついには代行まで使って一年で辞職した。


 結果として、僕はゼミの先生とその人事の責任者の顔に泥を塗ったことになる。


 その二人がその後どうなったかは知らない。


 知るのが怖かった。


 正直、今でも怖い・・・。


 その次に入った測量の会社じゃ「死ね」、「殺すぞ」、「ええ加減にせぇやボケェ」とかの暴言を浴びせられ、それが祟ってうつになり、休職して半年後にフェードアウト。


 僕もレムアと同じで、恩知らずな臆病者。


 だから責める気なんてなれない。


 そんな資格全然ない・・・。


 もっとも、僕とレムアじゃ事のレベルが違い過ぎて比べること自体が彼女にとって失礼だ。


 僕が病んだ経緯なんて、故郷を失ったレムアにとってはカス同然だ。


「逃げて、ばかり・・・?リオル様が・・・?」


「なぁに。レムアさんが受けた仕打ちとは比べるに値しないほど些末な物です。どうか聞き流して下さい」


 これ以上悠長にしてられないと思って、僕はそろそろ行こうとした。


 なのにまた、レムアに引き留められた。


「りっ、リオル様は・・・!!どちらに・・・?」


「姫様を助けに行きます」


「っ・・・!?」


 レムアが驚愕して目をかっ開く。


「そんな・・・!!無謀ですっ!!!」


「やっぱり?僕もそうかなぁ~って思ってたんですよっ。ははっ」


「怖く・・・ないのですか?」


「・・・・・・怖いに決まってるじゃないですか」


 ビビっちゃいけないって心で思っても、やはり身体はそうはいかない。


 心臓はドクドク鳴って、足はガクガク。おまけに胃酸が上がってきて、ちょっとでも気を抜けば吐いちゃいそうだ・・・。


「だったら、なんで・・・?」


「なんで?そうですねぇ~・・・。「怖くてもいいじゃない?」って思うようにしてるから、ですかね?」


「怖くても、いい・・・?」


「誰だって敵陣に単身向かうのは怖いですよ。生きて帰れる保障なんてまずないですから。心が強い人なんか、早々にいないです。僕は・・・それから逃げた。「本当の僕は強い。やればできる」って気ぃ張って、自分の弱さから目を背けてきたんです。そのせいで、どんだけ傷ついてきたことか・・・。だから決めたんです。自分の弱さから逃げないって。「怖ぇんだよぉ!!震え止まんねぇんだよぉ!!」って泣きべそかいて立ち向かおうって。そしたら、ちょっと肩の力が楽になったんです」


 僕の独白を、レムアはうつむき加減に黙って聞いていた。


「領主の跡取り息子が情けない限りです・・・。ただ開き直ってるだけなのに・・・」


 なんのリアクションも返さないレムアに、ちょっとメンタルがチクっとしたけど、これ以上お互いに留まったらいけないと思って、僕は足早にその場を去ろうとした。


「リオル様っ!!」


 最後にレムアが大声で呼び止めた。


「どうして、わたくしにこれを・・・!!」


 守り爪をギュッと握りしめ、レムアが聞いてくる。


 ・・・・・・・。


 ・・・・・・・。


「大切な女子おなごに大切な物を上げるのは当たり前じゃないですか」


「っ・・・!!」


 戸惑った表情を見せたレムアに、僕の顔がカッと熱くなる。


「さっ、さっきも言ったように守りそれめっちゃ効きますからっ!!では道中!お気を付けてっ!!」


 勢いよく頭を下げて、僕はレムアと別れた。


 後ろから何かを言いかけられたような気がしたけど、多分気のせいだ。


 うっひゃ~!!!


 最後だから、どストレートに伝えちゃったよぉ~///


 年齢=彼女いない歴の男が言っちゃいいセリフじゃないって~///


 ・・・・・・でも、ちょっと寂しいな。


 雲泥の差があるとはいえ、シンパシーを感じた女の子と会ったのは初めてだったから。


 こう思っちゃなんだか、ちょっと好きになりかけてた・・・。


「・・・・・・元気にやっていけますように」


 走りながら呟いて、僕はレムアの今後を願った。

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