1章ー21:諦めてたまるか
「ぬっ・・・!!ふぬっ・・・!!あっ痛っ!!」
鎧を一人で着るのってこんな大変なのな。
ましてやこんなに身体ボロボロなんだから尚更か・・・。
まぁ~でも、これで準備は整った。
「っしゃあ!!行ったるでぇ!!!」
気合いを入れ直した僕は、屋敷を出て、誰にも見つからないようにこっそりと、『ぴょん!!』と城壁を飛び越えて、城巣の裏の森に出た。
ディブロとスディアが降伏と穿心を受け入れた後の夜、僕は屋敷に戻って鎧を着て城を抜け出した。
やることはただ一つ。
ティアスを、助けに行く。
ゲレドなんかのボケの裏切りでどうしてディブロとスディアが胸に穴を開けないといけないんだ・・・。
そんなの、どう考えたって間違ってる。
しかもわざわざ、ティアスの目の前で自害するなんて・・・。
「家族一緒に死ねるなら・・・」と聞こえはいいが、自分の親が目の前で胸に手を突っ込んで、その後家臣に首刎ねられるのをシーンを見せられる側の身になってみろよ。
そんなの・・・耐えらんないじゃないか・・・。
それに、僕がティアスを助けにいくのにはもう一個理由がある。
・・・・・・何もできないまま友達に死なれるのは、クソ胸糞悪い。
ティアスはミーノ領に来て肩身の狭い思いをしてた僕を、遠慮なく受け入れてくれた。
そんないい子が戦に巻き込まれて死ぬってのは・・・。
イメージしただけで震えが止まんない・・・。
戦争で割を食うのはいつだって子どもだ。
それが互いにバチバチにやり合ってる敵同士なら尚更・・・。
その現実を、この世界の住人だったら「仕方がない」の一言で済ませてしまうだろう。
だけど安全、快適、平和な現代日本で生まれ育った僕にとっては、そんな現実「知らねぇよ」の一言だ。
だから僕は・・・僕なりに精一杯、好き勝手にやらせてもらう。
・・・・・・・。
・・・・・・・。
「ちょっと、無謀過ぎる、かな・・・?」
とは言ったものの、たかが子どもが敵の陣に単身乗り込むってのは、やはり無理があるのではと、今更ながらビビってきた。
僕の今にあるのは短い爪に乳歯の牙、一番の武器はオリワを出る時にもらった守り爪。
防具は守り爪と同じくオリワを出る際にもらった兜と関節に付けたプロテクター。あとは親からもらった鱗と甲殻・・・。
軽装にも程があるわっ!
これで自分より何十倍もゴツい飛竜達がいる敵陣に乗り込もうってんだから、傍から見たらイカれてるとしか言えないわな・・・。
「・・・・・・なんにもやらないよりはマシやないかっ!!竜の武家に生まれたんだから気合い入れろやっ!!」
自分で自分に喝を入れて、僕はたった一人の救出任務を続行することにした。
地竜は鼻が利く。だからシノナの飛竜がどこで陣を張ってるか目で見るよりも分かりやすい。
鼻からいつもより多めに空気を吸って、僕は位置取りをより正確にする。
「よしっ!!こっちだ!!」
位置が割れた僕は、ダッシュで森を走り出そうとした。
と、次の瞬間、横からいきなり誰か飛び出してきて、僕はその人と思いっきりぶつかった。
「うぎゃわわあ~!!?」
ビビりがMAXになった僕は、泣きながらぶつかってきたヤツに守り爪で斬りかかろうとした。
「りっ、リオル様・・・!?」
「れっ、レムア・・・!?」
脇から飛び出してきたのはレムアだった。
僕と同じようにビックリして、目をパッチリ開くレムアに、僕は慌てて守り爪を引っ込めた。
「もっ、もお~ぅ!!敵だと思ったやんかぁ~!!」
改めてはっきりと見えるレムアに、僕は生まれてこの方、一番「生きててよかった」と思った。
これから敵のトコに単身行こうとする男が情けない限りである。
「りっ、リオル様。こんな夜更けにどうして城外に?鎧と兜をお付けになられて・・・」
ここでティアスが敵に攫われたことを知られるのはマズいな・・・。
なんか言ってごまかさないと・・・。
「えっ、え~っと・・・警戒任、務?ほら~もしかしたら夜襲があるかもしれませんし!!」
「そう、ですか・・・?」
ごまかせた・・・のか?
なんか微妙な感触・・・。
でもおかしいな・・・。
なんでレムアがこんな真夜中の城の外に?
「れっ、レムアさんこそ、どうしてここに・・・?」
「・・・・・・・。」
黙って下を向くレムア。
もしかして、聞いちゃマズかった、かな・・・?
その時ふと、僕はレムアの荷物に目がいった。
袋がパンパンになるほど詰め込まれた干し肉。
見た感じ最近作られたもので、かなり日持ちしそうな鮮度だ。
「・・・・・・脱出、ですか?」
「っ・・・!!」
レムアがドキっとした表情を浮かべる。
どうやら図星・・・だったらしい。
「・・・・・・降伏、なさるのでしょう?」
「っ・・・!!」
「わたくし、さっき聞いちゃったんです。お館様と奥方様が、家臣の方々に明日シノナに降伏して、胸を開けることを・・・。姫様を人質に取られているのだったら仕方のないことですよっ」
バレちゃってたかぁ・・・。
「ふぅ・・・」と観念したようなため息をついて、レムアは座り込んだ。
「意地汚い・・・ですよね。お館様には行き倒れになっていたところを助けてもらって、姫様には、地竜と飛竜の垣根を超えて仲良くしてもらったのに・・・。生き恥を晒しているのは自分でも分かってます。ですが・・・またシノナに、故郷を滅ぼされることが、決まってしまうと・・・逃げたいのは当たり前じゃないですか。死を望んでいたのに、一族の仇を前にすると尻尾を巻いて逃げる・・・。そんな女なんですよ。わたくしは」
笑ってはいたけど、レムアはものすごく思い詰めた目をしていた。
「リオル様にも、申し訳ないことをしましたね。傍付きの役目を、放り出してしまったのですから・・・。いい機会です。責を問うて折檻して頂いても、結構ですよ?」
「・・・・・・・。」
近寄る僕に、レムアは一瞬『ビクッ』とした。
ぶん殴られるとでも思ったのだろう。
だけど・・・僕はそうはしなかった。
「え・・・?」
僕は自分の守り爪を、レムアに付けてあげた。
「お守り。敵をやっつけるのに使っちゃったから、ちょっとボロくなっちゃったけど・・・。これね、結構きくからっ!」
笑顔の僕に、レムアはわなわなとした顔を向けた。
僕にはレムアを責めることはできない。
責める資格がない。
だって僕も・・・今まで逃げてばっかりだったから。




