1章ー20:戦に裏切りは付き物
敵が寄越した降伏勧告の書状にはティアスを人質に取ったことが書かれていた。
証拠として彼女のかんざし付きで・・・。
「ティアスを人質に取っただとぉ・・・!!!彼奴らめ何をしおったぁ!?」
娘を人質に取られて、ディブロは完全にブチ切れ状態だった。
スディアも言葉には出さないが、ディブロ同様に全身の血管が浮き出て湯気が出てることから相当怒ってるのが分かる。
「てっ、敵が残っており姫様を攫いになられたのでございましょうか!?」
「いや。それは考えられまい」
「スディアの方様・・・」
「妾が見た時には確かに、敵兵は引きの鳴きとともに全て撤退した。混乱に乗じて避難所まで攻めてきたとも考えられまい。もしそうなら、騒ぎになっているはずであろう?」
確かにそうだ。
となると、残る可能性は・・・。
「まっ、まさか・・・!!家臣の中にシノナに寝返った者がいると・・・!?」
「そうとしか思えんだろうがっ!!!」
僕が言ったことにスディアは荒振り、尻尾で部屋に置かれた物をなぎ倒した。
一体誰が・・・。
誰が裏切ったっていうんだよ?
「直ちに城内の家臣どもを調べて参れ!!いなくなった者がいるはずじゃ!!!」
「ははっ!!」
「ぼっ、僕は避難所で聞き込みしてきますっ!!もしかすれば、何か情報が掴めるかも・・・!!」
僕は急いで非戦闘員が匿われている避難所に向かった。
襖を『スパァン!!』と開け放って、僕は直前までティアスと一緒に居たであろう人物の下へ走った。
「レムアさんっ!!レムアさんっ!!」
「りっ、リオル様・・・!?そのお怪我・・・!!」
包帯でぐるぐる巻きになった僕を見て、レムアはすごく動揺した。
「ああっ、これ?ちょっと・・・いや、だいぶ無茶してね。でも僕は大丈夫だから」
レムアはまだ怯えてるみたいだけど、第一波を退けたという報せを受けて、ちょっとは落ち着きを取り戻したように見えて、僕は安心した。
「それはそうと、姫様見ませんでしたか?」
「え?姫様ならゲレド様がリオル様の下に連れていくって・・・」
「え?え?え?ちょっと待って!ゲレド殿が姫様を僕のところに?」
「はい。お越しになられてませんか?」
「・・・・・・その話、詳しく聞かせて」
◇◇◇
レムアによると、ティアスが避難所を飛び出した時、レムアも連れていったみたいだった。二人でお見舞いに行けば、僕も喜ぶと思ってティアスが提案したという。
そしていざ行こうとした際に、ゲレドと鉢合わせになったという。
ゲレドはお見舞いの話を聞いて、「姫様が激励に行かれれば、さぞお喜びになるでしょう。是非拙者にご案内させて下さい!」と言ってきたようだ。
レムアも行きたがったが、「貴様のような薄汚い地竜の下女の面倒なんぞ見とうない」と突っぱねた。
ティアスは「そんなこと言うな」と叱ったが、そん時のゲレドは姫様であるティアスを前にしてもしつこく拒否ったので、仕方なくレムアは置いていくことにしたという。
その話を、僕は天守閣に戻ってディブロとスディアに報告した。
「ゲレドが・・・。あのたわけ・・・!!」
僕の報告を聞いて、ディブロは「グルルルルルル・・・!!」と牙を剥いて唸った。
「殿!」
「どうじゃった?」
「城中をくまなく探しましたが、ゲレド殿だけ姿が見えませぬ!!」
・・・・・・決まりだな。
おそらくゲレドは城壁がピンチになった時、どうやってもシノナに勝てないから寝返ることを計画してたんだろう。
そこへちょうどティアスが一人になる機会ができたから、彼女の身柄を手土産にシノナのトコに行こうと決めたんだろう。
これはあくまでも想像だけど、ティアスを降伏のための材料に使おうと企んだのはゲレド自身だろう。
どんなリターンが約束されたんだか・・・。
「かねておりわしの権威を笠に着るきらいがあると思うておったが、ここまで性根が腐り果てたヤツとは思わなんだ・・・」
ディブロもゲレドのこと性格悪いと思ってたんだ・・・。
そりゃそっか。
アイツ嫌なヤツのテンプレだもんねっ!!
「どうなさいますか?殿」
脇に控えるボロスが跪きながら聞く。
「わしとスディアが“穿心”したところで、ティアスを返してくれる保障はない・・・」
「あっ、あの・・・」
「何じゃリオル?」
「さっきから気になってたんですけど、その“せんしん”って何ですか?」
「何じゃ?知らなんだか?武家の生まれであろう?」
「あいにく教養がいま一つ足りないものでして・・・」
「・・・・・・己が爪で以って胸を突くのじゃ。『詰め胸を開く』とも言うかのぅ」
・・・・・・・。
・・・・・・・。
それってこっちの世界の切腹じゃねぇかっ!!!
考えてみりゃ、戦で降伏っていえば大将が自害するしかないか・・・
でも自分の手で胸に穴を開けるなんて・・・。
腹を切るよりハードじゃねぇかよ!!!
「とっ、殿!!いけませんよそんなことしたらっ!!!そんなことしたってティアス・・・!!いや姫様が無事に返ってこないかもしれないじゃないですかっ!!!」
「分かっておる!!分かっておることじゃ・・・!!しかし、千に一つ、万に一つにも可能性があれば・・・」
え?ええっ・・・?
頭を抱えるディブロの手を、スディアはそっと握り、それを受けディブロは決心したような表情を浮かべ・・・。
「明朝、シノナ軍の陣に降伏を受け入れに行く。長石板を二つ用意して参れ。良い辞世の句を考えねばな」
なっ・・・!?
「敵の陣で、ですか?」
「もしティアスが死するのであれば・・・家族で枕を並べて死にたい」
「承知いたしました。介錯は?」
「・・・・・・ボロス。そちに頼みたい。若き頃より支えてくれたそちにな」
「・・・・・・ありがたき、幸せにござりまする」
仰々しい口調で言いながら、ボロスは頭を下げた。
こうして、僕なんかほったらかしで、シノナへの降伏とディブロとスディアの穿心が決まった。
間違ってる・・・。
こんなの・・・間違ってるよ・・・。




