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告られ彼女の守り方 ~偽装から始まる、距離感ゼロの恋物語~  作者: よるひ
6章 夏休み後半

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第279話 さらなる力を得るために

 三月の最初の土曜日。

 結城道場での古武術の稽古が、いつものように再開された。


 白い道着に袖を通し、袴を整える。帯をぎゅっと締めると、不思議と心がすっと落ち着いた。

 しっかりと体をほぐしてから、受け身、足さばき、そして形の稽古へと移っていく。


 今日は理事長も一緒だ。学校中に知れ渡った俺たちの関係は、彼の耳にも届いたようだった。

 やはり俺と真桜を二人きりにはしたくないのだろうか。

 

「蒼真、お前もだいぶ形を覚えたようだな。一年足らずでよくここまで仕上げたものだ」


「そう言ってもらえると頑張った甲斐があります」


 やはり目上の人に褒められると嬉しいものだと思った。

 実際俺も強くなったと思う。

 何度か実戦を経験できたのも大きかったのかもしれない。


「ほんと、初めての頃とは比べ物にならないわ」


 そう言って柔らかく微笑む真桜。

 結城家二人の優しい笑顔がなんだかとても――怖かった。


「二人とも何か……よからぬことを考えてない?」


 俺の言葉に理事長はニヤリと口元を歪める。どうみてもラスボスの笑みだ。


「そうだな。蒼真、お前に攻めの形を教えようかと思ってな」


「ふふ、門外不出の技なのよ。前に言ったの覚えてる?」


 妙に誇らしげな態度で真桜は尋ねてきた。


「ああ、確か口伝の技で、親族にしか教えないとか……」


「まあ、そうだな……」


 なぜか理事長は微妙に含みのある顔を浮かべた。


「蒼真なら教えてもいいってお祖父様が言ってくれたの!」


「おお……そう……なんだ」


 ていうことは、俺は結城家に婿入りってことなのか!?


 一瞬の戸惑いを理事長は見逃さなかった。


「ふん、今のお前にそんな覚悟を求めとらんわ。別に親族でなくても信用できるならかまわん。攻めの形はもう一人、お前のよく知るあいつにも伝授しているしな」


 言われてすぐに思い浮かんだのは、大輪のひまわりのような超絶美人さんの笑顔だった。


(美咲さんだ! ――ということは、あの大柄な男を一撃で倒したのは攻めの形だったのか。あれだけの破壊力なら口伝にもなるのも納得だ)


「ただし、覚えるだけだ。これは人体の破壊を目的とした一撃必殺のとても危険な技だからな。決して使ってはいけないぞ」


「使っちゃ駄目って……だったら教えなくてもいいんじゃ?」

(もう目の前で見ちゃったようなんですけど……)


「いざということもあるだろう。この先のお前には必要になることもありえる。――聞いたぞ、九条に養子に入るんだとな」


 途端に理事長の目が鋭くなった。

 確かこの件はまだ秘密なはず。いったいなぜ理事長が?


「……どうしてそれを知ってるんですか?」


「ふん、九条のクソジジイとは旧知の仲だ。きゃつめ、お前がどんな男かと尋ねてきてな。生徒のことは答えられんと言ったら養子のことを漏らしたわ」


 結城家と九条家は地元が一緒なのだから、知り合いでもなんら不思議ではなかった。


「……それで理事長はなんて返したんですか?」


「結城神影流の継承者だ。九条なんかには勿体ないわ! って言っといたわ!」


 理事長は強面を愉快そうに歪め、大いに笑った。俺はいつの間にか継承者になっていたらしい。

 みんなはなぜ俺に肝心なことを伝えないのだろうか――。


「蒼真、どうするの? 攻めの形は覚えるの?」


 真桜が妙に緊張した面持ちで聞いてきたが、俺の答えはとっくに決まっていた。


 膝をつき、正座をして頭を下げた。


「俺からお願いします。是非攻めの形を教えて下さい。俺には大事な人を守る力が必要なんです」


 じっと床を見つめながら返事を待つ。

 突然理事長からくぐもったような音が漏れた。


「くくっ……はーっはっはっは! 真桜、見たか! 俺の言った通りだろ! この男は一見優男に見えるが、その正体は獰猛で貪欲だ! やはり九条なんかには勿体ないわ!」


「当然でしょ。私が好きになった人だもの」


 散々に聞こえる理事長の評価だが、なにも間違っていない。むしろ俺という人間をよく見抜いているって思った。多分俺は人よりも“欲しがり”なんだと思う。

 真桜はきっと、そんな俺のすべてを理解し、肯定しているんだろうとも思った。


 頭を上げると、上機嫌の理事長と満面の笑みを浮かべた真桜の姿があった。


「蒼真! 真桜! これからの稽古はさらに厳しくなるぞ! 覚悟しておけ! 」


「……え? 私も?」


 意外なことでも言われたように驚いた様子の真桜。


「当然だろうが。つい先日の腑抜けを忘れたとは言わせんぞ?」


「くっ……」


 彼女は途端に顔を真っ赤にした。先日のことはあまり触れないで欲しいと切に思った。



 予告通りの激しい稽古を終えた俺と真桜。二人で大の字になって道場の床に転がっていた。


「まじ……しぬ……」


「これが……昭和よ……」


 真桜となら、なんでも乗り越えられると思ったが、物理的な困難さはどうにもならなかった。やはり俺たちには羽依が必要だった。


「蒼真、真桜、これからキッチン雪代に行くんだろ。俺も行くからさっさと支度するんだ」


「あら、お祖父様はなにをしに行くの?」


「美咲がな、『二人を店まで送り届けろ』とな」


 そう言ってニヤッと笑う理事長。

 騒がしい夜がはじまりそうだった――。


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