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第5話


「な、何で? お兄ちゃんは優勝したのよ。飛行操作技術もシュナイデル選手に引きを取らなかった筈よ。何で札が一枚も上がらないのよ」


アイラは、ステージの脇から今にもステージに登らんとばかりに身を乗り出している。


『こ、これまた前代未聞の展開となりました。今回大会優勝者に一枚の札も上がらないという誰も予想していなかった展開です。残り後三分でオーディエンス終了となります』


「・・・僕が下民でウルカニアの地下出身だからなのか?」


クロードは、悔しさに唇を噛んだ。優勝したのに一枚の札も上がらないという結果を誰が予想しただろうか。未だかつて誰も成し遂げることが出来なかった偉業を成し遂げたのにも関わらず、この洗礼を浴びせられたのだ。


全世界に公開されている中継で改めて貴族と下民の差別を示す形となった。


「ーーやはりこうなったか」


ステージの脇のアイラの隣に一人の男が現れた。アイラが隣に目をやると、


「あなたは、シュナイデル選手」


「君はーーえっと・・・」


「クロードの妹のアイラです」


「妹さんか・・・」


「はい。クロードのシップの整備士をしてます。やはりこうなったとは、どう言う意味ですか?」


「整備士を、どーりで見たことがあったと思ったよ。聞こえていたのかい」


シュナイデルは、深いため息を吐き、顎に手を置きながら喋り始めた。


「基本的にこの大会は、貴族の娯楽のようなモノなんだ。だから貴族出身選手が勝たなければ面白くない。中には賭けをしている輩もいる。その中で下民の君たちが勝つのが面白くないんだよ」


「そんな理由で・・・」


「当然だろ?ここは三大貴族たちの管轄下なんだ。君たちが活躍する何て誰も思ってないし見たいとも思ってない。況してや貴族以外の人間なんて信用してない。札が上がる訳無いんだよ」


「ーーじゃあ、お兄ちゃんは・・・お兄ちゃんの操縦士の夢は?」


「ーーーー」


『えーっ、残り後一分です。オーディエンスの皆さん、優勝者のクロード選手に未だ一枚も札が上がってませんが宜しいのでしょうか?』


静まり返る会場、各国の首脳陣や企業の代表も気の毒そうにクロードを見つめていた。


「ねえ、シュナイデルさん何とか言ってよ。お兄ちゃんは、空に憧れては行けないの?もう二度飛べないの?」


「・・・すまない。私からは何も言えない」


「そんな・・・そんなのあんまりよ」


地面に崩れ落ちるアイラ。



『残り、五、四、三、二、・・・』



「なぜあの方に札を上げないのですか?」


「嫌、それは貴族の出身ではないですし、国王様やレムリアの他の方に許可が必要でしてーー」


「ーーでは、私の名で獲得致しますわ」


「あーっ!お嬢様なんて事を・・・」


『ニ、・・・あーッとここで札が上がりました! クロード選手に遂に、一枚が上がりました。獲得したのは三大王家の一つレムリアだ』


大歓声に包まれる会場。


「やった・・・やったぞ。これで僕は、操縦士になれるんだ。空を自由に飛べるんだ」


歓喜のあまりに涙を流すクロード。


「お兄ちゃん、良かったね。良かったね」


「レムリアが獲得したか・・・」


ステージを背に立ち去ろうとするシュナイデルにアイラが呼び止める。


「シュナイデルさん。その・・・ありがとうございます」


「何がだ?」


「その・・・お兄ちゃんの事心配してた感じがしたから」


「勘違いするな! 俺はアストレアに所属する事になる。お前らとは今後も敵だ。クロードにもそう伝えておけ」


シュナイデルはそう言い残すと去って行った。



こうして、大会は幕を閉じた。


優勝者には、金の翼の勲章が与えられた。その年に一人しか貰えない証だ。そして、公約通り獲得した国の貴族のサポーターとシップが用意される事になっている。



「お兄ちゃん、おめでとう!!お兄ちゃんなら絶対に優勝出来ると思ってたよ」


「アイラありがとう。シップの性能を上げてくれたアイラのメカニックのおかげだよ、感謝してるよ」


「お兄ちゃんの為だもん。少しでも力になれて嬉しい」


目をキラキラに輝かせ、飛び跳ねてクロードに抱きつくアイラ。優勝した本人よりも嬉しさが爆発している。


「これから王宮でレムリアの偉い方に表彰してもらえるらしいよ。アイラも準備して一緒に行こう」


「うん」


二人は宿舎で着替えを済ませ貴族たちが集まっている王宮へと向かったーー。

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