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落ちこぼれ魔法師と異端の力  作者: 高巻 柚宇
7章 レイリア王国編
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第307話 久しぶりの朝

 窓の隙間から差し込む朝日によって起こされたセイヤはまだ気怠さが残る身体を何とか起き上がらせる。このアヴァロン島はレイリア王国初代女王であるモーガン・ル・フェイ・レイリア、通称モルガーナの固有世界に作られた島ではあるが、外の世界と同じように一日の中で太陽と月が交互に顔を表す。


 それはまるで連日のモルガーナによる聖属性とロナによる夜属性の修業のようだ。隔日でそれぞれの属性の修業に励むセイヤはここ数日の厳しい指導のおかげでそれぞれの属性をかなり使いこなせるようになった。このまま続けていけばもう少しで固有世界もものにできる手ごたえを掴んでいる。


 しかし厳しい修行の反動は大きく、最近では一晩寝ただけでは疲れが取れなくなっているのも事実。そのため今日はモルガーナたちと話し合った結果、久しぶりの休養日となっていた。


 「まだ腕が重いな……」


 ベッドの中で右手を動かし、その感覚がいつもより重く感じたセイヤはまだ疲れが残っているのだろうと思った。しかしその重さはここ最近では一番であり、まるで何か錘がついているような感覚。


 そこでセイヤはようやく気付く。


 「なんか柔らかいな」


 自分の右腕に何か柔らかいものが巻き付いている、というよりは抱き着いているような感覚にセイヤはその正体を薄々理解し始める。


 なぜならその感覚はセイヤにとって日常的なものであるから。いや、今となっては日常的だったといった方が正確かもしれない。しかしそれがどちらにせよ、セイヤによっては懐かしさを覚えると同時に嬉しさも覚えるものだ。


 ただそのなつかしさに比べて少し異なる点があるとすれば左腕が軽いことだろう。いつもなら両腕が重いのだが、今朝は左腕には何もいない様子。


 セイヤはそんな比較的自由な左手で布団を持ち上げる。するとセイヤの右手には白髪の少女が抱き着いており、スヤスヤと気持ちよさそうに寝息を立てていた。


 「ユア、いつの間に……」


 自分のベッドの中でスヤスヤと寝息を立てるユアを見たセイヤは少しの驚きと多大な幸福感を覚える。このアヴァロン島で久しぶりに再会を果たした二人だったが、それぞれの修業が忙しいためか、なかなか二人の時間をとることができなかった。


 部屋も別々で、連日の修業の疲労で互いにすぐに意識は夢の中だったために同じ空間にいたにもかかわらず会うのは久しぶりという感覚だ。


 安心した表情で眠るユアを見たセイヤは改めて自分が無事だったのだと考える。


 思えばセイヤは七賢人たちの思惑によってダクリアへと飛ばされ、そこでレイリア最強の名を持つ聖騎士アーサー=ワンによって始末されるはずだった。それが聖騎士アーサーが実はモルガーナの配下であり、セイヤを始末するどころか祭り上げて創造主ノアと戦わせようとしていた。


 しかもそのノアがセイヤの両親の失踪に関わっており、セイヤの目的とも合致していたために手を組むことになった。だがそれだけではなく、今回の任務でセイヤは二つの派閥に割れていたダクリアを自らがトップに立つことで再統一を果たした。


 さらには姉のような存在であるロナとの再会も記憶に新しい。


 セイヤにとっては怒涛の出来事で短くも感じられた時間も、レイリアでセイヤの帰りを待っていたユアにとっては身が裂けるほど長く感じていたかもしれない。


 そう言う意味ではユアに多大な心配をかけたセイヤは申し訳なく思う。


 「んっ……」


 ふとセイヤが最近の出来事を思い返していると、ユアがベッドの中で目を覚ます。ユアはセイヤの右腕を確認するように見つめると、ゆっくりと視線を上に向けていく。


 そしてセイヤの顔を確認すると安心した表情でほほ笑んだ。


 「おはよう……セイヤ……」

 「ああ、おはよう。ユア」


 久しぶりの朝の挨拶。二人がこうして同じベッドで朝を迎えて挨拶をするのはいつぶりのことだろうか。ただのあいさつにもかかわらず、セイヤは懐かしさを感じてしまう。同時に心のどこかでこんな朝を待ち焦がれていたのだと思った。


 それはユアも同じようで、先ほどからただセイヤの瞳を見つめるユア。


 交わる二人の視線。そこからお互いが何を思っているのか、理解するのは容易だった。二人はゆっくりと顔を近づけていくと、互いの唇を重ねた。触れ合っていた時間はわずか一秒にも満たなかっただろう。しかしそれだけの時間でも二人は満足だった。


 「おかえり……セイヤ……」

 「ただいま、ユア」


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