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落ちこぼれ魔法師と異端の力  作者: 高巻 柚宇
7章 レイリア王国編
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第303話 固有世界とは

 モルガーナによって各自の課題を与えられた一同であったが、すぐに課題に取り掛かれるかと言われれば答えは否だった。その理由としてはモルガーナが各人に抜擢した指導役のほとんどがアヴァロン島にいないためである。そのため修業を行おうにも行えなかったのだ。


 加えてモルガーナの口から語られた真実を理解するのにもみな時間を要したため、本格的な修行開始はまだまだ先である。


 そんな状況下でセイヤの姿はモルガーナの個室にあった。その部屋はモルガーナが普段から使っている部屋であり、彼女に仕える使用人でさえも滅多に入ることのない完全なるプライベート空間だ。当然セイヤとモルガーナ以外の姿はない。


 再会を果たしたばかりのユアやリリィはセイヤから離れることに拒絶感を見せたものの、モルガーナがセイヤ一人を指名したので二人は渋々だが引き下がった。


 二人がソファーに腰かけると、先に口を開いたのはセイヤだった。


 「さっきの話は本当なのか?」

 「ええ」


 さっきの話というのはもちろんモルガーナがセイヤの聖属性の修業を請け負うということである。モルガーナは聖属性の使い手でもあると同時に、『創魔記』に描かれているノアの息子の一人の妻であった。そして彼女の魔法師としての実力もそれなりにものである。


 セイヤの疑念を解消するかの如く、今度はモルガーナがセイヤに問うた。


 「ところで、このアヴァロン島についてはどこまでご存じで?」

 「ここがレイリア魔法大会の舞台となったラピス島と同じく異空間にあることくらいだ」

 「そうですか」


 セイヤの答えを聞いたモルガーナは特に表情を変えることなく、次の質問へと移った。


 「では、その異空間というのはどうやって出来たと思いますか?」


 この質問を普通の人が聞かれれば、おそらく聖教会が作り出したなどと答えるだろう。そしてその具体的な過程を説明できる者はほとんどいないはずだ。


 しかしセイヤは確信こそないものの、その過程を知っているつもりだった。そしてその真の製作者が誰であるのかも。


 「あんただろ。聖属性の生成を使って異空間を作り出した」

 「正解です」


 今度はセイヤの答えに満足そうな表情を浮かべるモルガーナ。だがセイヤからしてみれば、その質問に答えられるのは当然であった。


 なぜなら同じような現象をすでにロナによって見せられているから。


 ロナの創った固有世界は《この世界には他の世界は存在しない》という心理を夜属性で消失させることで矛盾を引き起こして世界を生み出す。それが可能なら聖属性を使って《この世界には他の空間が存在する》などといった真理を生成することも可能だろう。


 けれどもここで一つの疑問がセイヤに生じる。


 「ならどうしてラピス島がレイリア魔法大会の舞台になっているんだ? あんたが作った世界なら聖教会が使う理由がわからない」

 「それは単純なことです。私が聖教会に使わせているのですよ」

 「使わせている? つまり聖教会はあんたの存在を認知しているのか?」


 これまでの出来事を振り返ってみても、モルガーナの存在が聖教会に認知されているとは考えにくい。しかしセイヤはそのことを聞かずにはいられなかった。


 「聖教会は私が生きていることは知りません。彼らはただ遺産としてラピス島を使っているにすぎません」

 「なるほど。つまりあんたが聖教会の勝手な使用を黙認しているわけか」

 「そういうことになりますね。まあこちらとしては有望な魔法師を直接目にすることができるので相互に利害があるといっても過言ではありません」


 自らの事情を話したモルガーナはいよいよ本題に入る。


 「さて、話を戻しましょうか。あなたは世界を作る力をすでに知っていると考えてよろしくて?」

 「それで構わない。ロナの夜属性で異なる世界を作り出せることはわかった」

 「ではなぜ私たちがわざわざ異なる世界を作り出すかはご存じで?」


 その質問にセイヤは言葉が詰まる。なぜロナやモルガーナがもう一つの世界を作り出しているのか、論理的に説明できなかったから。


 だがセイヤの反応はモルガーナの予想の範囲内だったので特に気にした様子は見せない。


 「答えは互いの干渉を防ぐためです」

 「互いの干渉? それは原理や法則についてか?」

 「いい考えですね」


 そう言うとモルガーナは一枚の紙とペンを取り出した。


 「私たちがこの世の原理や法則に干渉する際には必ず自らの作り出した固有世界を展開します。それは現実世界で行使した場合のリスクを考えてです。例えば現実世界で「A」という法則に干渉した際、他の魔法師が同じタイミングで「B」という法則に干渉したとしましょう。しかし「A」に何かしらの変化が生じた場合、それに呼応して他の「B」や「C」といった法則にも追随して変化が生じます。そうなった場合、「B」という法則に干渉した魔法師の魔法が定義破綻を越してしまうのです。つまり二人の魔法師は異なる法則に干渉したにもかかわらず、どちらかの魔法はうまく機能しなくなってしまうのです。これが二人ではなく、十人単位になればその危険は一層高くなるでしょう」


 モルガーナの説明はおそらく普通の人が考えても理解できないものだ。それは聖属性や夜属性を使うことができ、かつ概念に干渉したことのある魔法師にしかわからない感覚である。


 「つまり他者の事故的な干渉を防ぐために自らの固有世界を作り出すという意味か」

 「そうです。固有世界に入ればその世界の法則に干渉できる人数は極端に減ります」

 「じゃああんたの固有世界であるこのアヴァロン島で俺やロナは概念に干渉できないのか?」

 「いえ、それは可能です。ただ基本的には私の干渉の方が優先的に適応されますが」

 「なら俺が有利になるには、あんたを俺の固有世界に引きずりこむしかないという訳か」


 固有世界の仕組みを改めて理解したセイヤ。そこで再び一つの疑問が生まれた。


 「ところで聖属性と夜属性ではどちらの固有世界が有利に働くんだ?」


 おそらくそれはセイヤだからこそ思いついた疑問。聖属性しか使えないモルガーナや夜属性しか使えないロナにとっては考える必要もない疑問だ。


 セイヤの疑問にモルガーナはわずかに笑みを浮かべながら答えた。


 「基本的には聖属性の方が有利でしょう。ルナの使う固有世界は元々無理やり作り出した世界です。そもそも夜属性は何かを生み出すのではなく、何かを消し去ることに特化した属性。逆に聖属性は何かを生み出すのに特化した属性です。二つを比べるなら、当然後者の方が生み出すには有利でしょう」


 モルガーナの説明はもっともだ。つい忘れがちだが、夜属性はあくまでも消失させる魔法であって、何かを生み出す魔法ではない。普通の魔法師が相手なら夜属性でものを無理やり作り出しても対抗できるだろうが、聖属性相手では対抗することもできないのは当然だった。


 逆に重力を消すといった法則や真理を消し去るには夜属性の方が有利に働く。つまり両方を使えるセイヤは場合によって使い分ける必要があった。


 「じゃあまず俺がやらなければいけないのは固有世界を作り出すことか」

 「そうです。一度固有世界をものにしてしまえば、帝王なら聖属性と夜属性をより使いこなせるでしょう」


 今までのセイヤの聖属性や夜属性は物体に干渉することはできても、概念や法則に干渉したことはほとんどない。だからセイヤにとって固有世界は必須の魔法だった。


 「ですから修行は固有世界から始めましょう」

 「それはわかったんだが」

 「なにか?」

 「いや、聖属性の修業ならユアも一緒にやらないのかなと思って」


 セイヤと同じく聖属性を使うことのできるユア。この修行を一緒に受けた方が効率的なのでは、とセイヤは考えた。


 しかし直後、モルガーナの口から告げられた真実は予想外のものであった。


 「それなら不要です。彼女の聖属性は偽りの聖属性ですから」

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