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落ちこぼれ魔法師と異端の力  作者: 高巻 柚宇
4章 レイリア魔法大会編
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第139話 海エリアの主(下)

 火属性中級魔法『爆散(ばくさん)』は水を爆発させる魔法で、対象が水に限る限定的な魔法だが、その分、条件が揃えば威力が高い。


 とくに海上戦を得意としているクルニセテウス魔法学園ではかなり人気の魔法である。


 「よし!」

 「やった!」


 少女たちはゲドちゃんの頭が爆ぜたことにより、勝ったと思った。


 たしかにどんな生物であろうと、頭部を失えば生き延びることは難しい。


 しかしゲドちゃんはあくまでリリィの魔法であり、生物ではない。


 少女たちはゲドちゃんが魔法を使うことから、てっきりゲドちゃん生きていると錯覚していた。


 だからこそ、次の瞬間、少女たちは心の底から驚愕した。


 「そんな……ありえな……」

 「嘘でしょ……」


 少女たちの目の前で起こっている光景、それは海の水が集まり始めて、ゲドちゃんの頭部を再形成していく光景だ。


 その光景は今まで少女たちが見てきたどの光景よりも衝撃的で、信じられなかった。


 あまりの衝撃に少女たちが言葉失っている間に、ゲドちゃんの頭が元に戻る。


 (次は負けない! ゲドちゃん! ウォーターレーザー!)


 海の水に同化しながら、ゲドちゃんを操るリリィは先ほどとは違う魔法を少女たちに向かって行使した。


 ウォーターレーザーはウォーターキャノンよりも使用する水の量が少ないため、その分、早く魔法が行使できる。先ほどよりも魔法陣が展開されてから早く撃ちだされたウォーターレーザーが、少女たちに向かって襲い掛かった。


 少女たちは先ほどよりも早く撃ちだされたウォーターレーザーに反応が遅れ、槍を持った少女は左肩にウォーターレーザーをかすめてしまう。


 「くっ……」


 反射的に左肩を抑え込む少女だが、そこに傷は無い。しかし肉体が受けるはずだったダメージが遅れて精神ダメージとなって、精神に負荷がかかる。


 「うっ……」

 「大丈夫!?」

 「なんとか……」


 剣を握る少女が槍を持った少女のことを心配すると、槍を持った少女は大丈夫だと答えた。だが見た限り、大丈夫とは思えない。額には脂汗が浮かんでおり、ウォーターレーザーの影響がかなりあるように見える。


 (このままじゃ負ける……)


 そう確信した少女は手に握る剣を見て、あることを覚悟する。


 「あれをやるわ」

 「あれって、まさか!?」

 「そうよ」


 左肩を抑えながら驚く少女。なぜなら剣を握る少女が言っている「あれ」とは、クルニセテウス魔法学園の奥の手であり、一回きりの大技だったから。


 そんな技を初日から使っていいものか……それも仲間たちに無断で。左肩を抑えながらそんなことを考える少女に対して、剣を握る少女が言う。


 「あれを使わなければ、どの道私たちは負けるわ。それにあの技は私たちが四人以上残っていないと使えない。もし私たちがここでリタイヤした場合、残りのメンバーが全員残っていない限り、あの技は使えないし、最悪の場合は使わずに終わってしまう」

 「たしかにそうだけど……」

 「なら今使うしかないでしょ」

 「はぁ、わかったわ。皆には私からも謝るから使って」

 「ありがとう」


 剣を握る少女はお礼を言うと、右手に握る剣に魔力を流し込み始める。


 「私が絶対守るから、あなたは集中して」

 「わかったわ」


 そう言って、槍を持った少女が全魔力を惜しみなく使い、防御魔法をすぐに組み立てる。


 その顔からは絶対に仲間を守るという思いが感じ取れた。


 槍を持った少女に感謝の意を示しながら、剣を持った少女は奥の手の行使に集中する。ゲドちゃんの攻撃は気にしていない。必ず仲間が守ってくれると信じているから。


 (これって!)


 リリィは剣を持った少女を見て、彼女が何をやろうかとしていることを、すぐに理解した。


 だからこそ、リリィはすぐに剣を持った少女に攻撃を仕掛けようとしたが、そんなリリィに待ったをかけた人物がいた。


 (待ちなさい)

 (なんで?)


 その声はリリィの中から響いた。妖艶な声で美幼女に待ったをかけたのはもう一人のリリィだ。


 (あの技はおそらく一回しか使えないわ。だったらここで使わせて、今日以降、使わなくしてしまえばいいじゃない)

 (あっ、そっか! そうだね! お姉ちゃん頭いい!)

 (ふふ、ありがとう)


 突如攻撃の止まったゲドちゃんを不審に思うクルニセテウス魔法学園の少女二人。しかし攻撃が来ないなら、今はありがたい。剣を持った少女はより一層、その技に集中する。


 「あまねく霊気よ、我が血に応えよ」


 剣を持った少女が詠唱を始めた瞬間、彼女の右手に何かの紋章が浮かび上がる。


 少女はその紋章を気にせず、詠唱を続けた。


 「我らの力を奉りし長よ、今こそ契りに従いてここに力を」


 少女の右手に浮かび上がる紋章が激しく光り始め、握っている剣まで光り始める。


 「精霊の加護。『テティス』」


 次の瞬間、空から水の柱が降って来て、ゲドちゃんのことを襲う。ゲドちゃんはなんとかして、水の柱から逃れようとしたが、叶わずにその姿を水の中に消した。


 「はぁはぁ、やった……」

 「みたいね……」


 ゲドちゃんが消えたことに安心する少女たち。


 そんな少女たちを海の中から見ていたリリィたちは、余裕そうな表情で会話を続けた。


 (まさか海の女神と契約していたとはね)

 (すごかったね!)

 (ええ、そうね。でも人間にできるのは部分契約までだから、あれ以上のことはできないわ)


 リリィの言う通り、クルニセテウス魔法学園の代表選手たちは全員で、海の女神テティスと部分契約をしていた。


 セイヤとリリィが結んでいる完全契約とは違い、魔力を前もって献上することによって、その分の精霊の力を使えるようになる部分契約。


 クルニセテウス魔法学園の代表たちは、六人全員の魔力と引き換えにあの魔法を使えるようになっていた。しかしその制限は一回まで。なので、クルニセテウス魔法学園の生徒たちは、もう『テティス』を使えない。


 (お姉ちゃん、もう倒していい?)

 (いいわよ、最後は相手に敬意をもってやりなさい)

 (わかった! ゲドちゃん!)


 リリィの言葉の後、海上には大きな水の球体が形成される。それも三つ。


 「そんな……」

 「嘘でしょ……」


 クルニセテウス魔法学園の少女たちは、再び現れた水の球体に言葉を失う。すでに二人は満身創痍で、もう動けない。ましてや、今から再びゲドちゃんと戦うなど不可能であった。それも三体。


 大きな水の球体に線が刻まれていき、大きな水のドラゴンが姿を現す。


 「こっちは六人分の魔力で精霊の魔法を使ったのよ!?」

 「一体相手は何者!?」


 部分契約ながらも精霊の魔法を使ったというのに、いまだに姿を現さない敵に畏怖を覚える少女たち。まさか自分たちが精霊の魔法で攻撃した相手が、同じ類の妖精、それも本物だとは思っていないだろう。


 そんな少女たちに向かって、リリィは攻撃をする。


 (ウォーターレーザー!)


 次の瞬間、三体のゲドちゃんから同時に撃ち出されたウォーターレーザーが少女たちを貫き、少女たちは光の塵となってリタイヤした。








 「ウォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ」


 ついに始まったレイリア魔法大会に、観客たちは歓声を上げた。


 今年のレイリア魔法大会も初日から熱い戦いが繰り広げられ、観客たちは盛り上がっている。


 その中でも特に観客たちを盛り上がらせたのは、アイシィの精密な射撃の森エリアでも、海を得意とするクルニセテウス魔法学園の生徒三人を圧倒するリリィがいる海エリアでもなく、真逆のエリア。


 中心の都市エリアから見て、森エリアの対称に位置し、地図上では南東にある火山エリアだ。


 そこでは聖教会所属の十三使徒序列五位、レアル=ファイブこと、セナビア魔法学園の代表であるレアル=クリストファーが、その圧倒的な力で驚異の十人切りを行っていた。


 ラピス島では日が沈みかけ、初日が終わろうとしている。


 現在、レイリア魔法大会初日のリタイヤ数は合計十九名。残る代表選手たちは四十一名。


 リタイヤした数のエリア別の内訳は、海エリア三名、森エリア二名、草原エリア一名、強風エリア一名、砂漠エリア二名、火山エリア十名だ。


 観客たちは、この時点で、今年もまたレアルの一人勝ちでは、と思い始める。だが、今年のレイリア魔法大会はそう簡単には終わらないのであった。


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