第138話 海エリアの主(上)
各学園は、レイリア魔法大会に向けて様々な作戦を立てて臨むが、基本的には二つの種類に分けられる。
一つ目は早い段階で仲間と合流し、数的有利を作りながら敵を倒していくという方法だ。
この方法だと、仲間と合流することができれば、基本的に負けることは無く、大会を通して有利に戦闘を進めることができる。
しかしその反面、もし仲間と合流できなかった場合、逆に格好の的になってしまうため、そう簡単に行うことはできない。
そしてもう一つは、ひたすら隠れて敵が減るのを待つ作戦だ。単独で隠密行動をすることによって、敵との戦闘を最小限に抑え、大会を通してコンディションを維持することができる。
しかしこれは、大会が進むにつれて他の学園が仲間たちと合流しているのに対し、自分は仲間と合流できなかった場合、不利になってしまう。
最悪の場合、六対一といったこともあり得る。
なので、各学園は基本的に後者の作戦を行いつつ、タイミングを見て仲間たちと合流するという手段をとっていた。
それはもちろんアルセニア魔法学園も同じである。
アイシィは木の上を移動しながら、隠密行動に従事し、敵に隙があればそこを狙って敵の数を減らすようにしていた。
そして海エリアにもまた、隠密行動に従事しているアルセニア魔法学園の生徒の姿があった。
その幼女は海の中に居るにもかかわらず、姿が見えない。なぜなら海の水と同化しているから。
(きた!)
その幼女は海の中に敵が来ると、心の中でそう叫んだ。
まさか海の水に何者かが同化していると思ってもみないクルニセテウス魔法学園の代表選手三人は、自分たちのホームグラウンドである海で仲間たちと合流できたことに喜んでいた。
クルニセテウス魔法学園はアルセニア魔法学園とは違い、早いうちから仲間たちと合流するという作戦をとっており、合流地点をあらかじめ海エリアと定めていた。
そのため、海エリアの近くに転送された代表選手たちはすぐに海エリアに向かい、仲間と合流することができたのだ。
「まずは三人そろったわね」
「ええ、そうね」
「最低条件はクリア」
海上を歩きながら話し合う三人の少女。彼女たちは普段から海で実践訓練などを積んでいるため、海上を歩いたりするのはお手のものだ。
だからこそ、彼女たちは油断していた。
このような早い段階で、海での戦闘を得意にしている自分たちに対し、海エリアで戦いを挑んでくる者はいないと。それも単身で来るとは。
(ゲドちゃん!)
アルセニア魔法学園の生徒であり、水の妖精ウンディーネでもあるリリィが、クルニセテウス魔法学園の生徒たち三人に対して魔法を行使する。
「なにあれ!?」
「嘘!?」
「一体どこから!?」
少女たちは突如として目の前に現れた大きな水の球体に驚く。
大きな水の球体は、その表面に自ら線を刻んでいき、徐々にその姿をあらわにしていく。
「あれは!?」
「ドラゴン!?」
「何あの魔法?」
クルニセテウス魔法学園の生徒たち三人は、急に現れた水のドラゴンに驚愕の表情を浮かべた。その威圧感を放つ姿もさることながら、細部までしっかりと形が固定されているドラゴンは、術者の実力の高さを象徴している。
限界まで強化したドラゴン、通称『ゲドちゃん』は魔法であって、魔法ではない。もし魔法に分類するとしたら、水属性の最上級魔法として分類されるか、オリジナル魔法と分類されるだろう。
ゲドちゃんの最大な特徴は、その大きな胴体でもなければ、凄まじい再生力でもない。魔法が使える点だ。
実を言うと、リリィがゲドちゃんを経由して魔法を使っているのだが、そんなことを知らない人から見れば、まさにゲドちゃんが自立して魔法を使っているように見える。
このような芸当は水の妖精ウンディーネであるリリィにしかできない一種の異能だ。
(いくよ! ゲドちゃん!)
リリィの言葉に呼応するように、ゲドちゃんの口の前に青い魔法陣が展開される。
「そんな……」
「どうなっているの!?」
「信じられない……」
クルニセテウス魔法学園の少女たち三人は、目の前で水のドラゴンが魔法陣を展開したことに驚く。魔法が魔法を使うことなど有りえないから。
しかし、いくら少女たちが驚いたところで、ゲドちゃんが魔法を行使することを止めることはない。
(いけ! ウォーターキャノン!)
次の瞬間、リリィの声と共に撃ちだされたウォーターキャノンがクルニセテウス魔法学園の少女たちに襲い掛かる。
「させない。『水盾』」
三人の少女のうち、一人の少女がとっさに水属性初級魔法『水盾』を行使して、ウォーターキャノンを防ごうとした。
しかし相手は水の妖精、それも少し前までダリス大峡谷の主を務めていた幼女だ。初級魔法程度で防ぐことができるわけもない。
「きゃああああ」
『水盾』が破られ、そのままウォーターキャノンが直撃した少女は、一瞬で許容範囲を超える精神ダメージを受け、光の塵となって消えてしまった。
「そんな……」
「嘘……」
仲間が手も足も出ずに負けた光景に、言葉を失う少女たち。無理もない。なぜなら彼女たちはクルニセテウス魔法学園を代表する選手であり、言ってしまえばクルニセテウス魔法学園最強の一人なのだから。
仲間のリタイヤに言葉を失っている二人の少女たちだが、リリィに二人が立ち直るのを待っている気はない。再びゲドちゃんに指示を出す。
(ゲドちゃん! もう一回ウォーターキャノン!)
ゲドちゃんはリリィからの指示が出ると同時に、再び口の前に先ほどと全く同じ青い魔法陣を展開して少女たちを睨む。
「もう一回来るわ」
「嘘!? もう!?」
少女たちは魔法行使のインターバルがほぼ無いゲドちゃんに驚きながらも、すぐに行動に移った。
(行け! ウォーターキャノン!)
二人の少女がゲドちゃんから撃ちだされたウォーターキャノンに対してとった行動は回避。
彼女たちは先ほど仲間が防御に失敗したところを見て、自分たちでは防ぐことは不可能だと一瞬で悟り、回避を選択した。というより、それしか選択がないため、決断は早かった。
(あっ! もう!)
リリィは二人の少女にウォーターキャノンが回避されたことを悔しみながらも、すぐに次の攻撃を行う。
(ゲドちゃん! もう一回ウォーターキャノン!)
リリィの指示と同時に、ゲドちゃんが先ほどまでと同じ魔法陣を再び口の前に展開する。
「何回も同じ手は通用しないわ」
「確かにインターバルは短いけど、早すぎるわけではない」
少女たちは三度目のウォーターキャノンに対して、すでに対応ができていた。この辺りはさすがレイリア魔法大会といったところだろう。
少女たちはそれぞれ海上を走り、ゲドちゃんの正面から左右に分かれて走る。その際、詠唱をして武器を召喚した少女たちの手には、それぞれ剣と槍が握られていた。
「行くわよ!」
「くらいなさい!」
そんな声と共に剣を持った少女は剣に風属性の魔力を纏わせて、右からゲドちゃんに斬りかかる。
グギョオオオンンン
ゲドちゃんが首の後ろを剣で斬られて苦しそうな声を上げる。しかし少女たちの攻撃はこれだけでは終わらない。
「こっちもいるわよ」
今度は槍を持った少女が左からゲドちゃんに近づき、その頭に先端が赤く光っている槍を突き刺し、魔法を行使する。
「我、火の加護を受けるもの、火の巫女よ、天敵である水を爆ぜよ。『爆散』」
次の瞬間、ゲドちゃんの頭部が内から激しく爆発して周囲に水を飛ばした。




